インドとパキスタンが「停戦合意」したが、その後も散発的に衝突が続いている。結果的にパキスタンがアメリカの足を掴みトラブルに引きずり込むことに成功した。トランプ大統領はこの構図に気がついておらず「貿易を拡大する」と言っている。この問題は核保有国同士のいざこざと捉えることもできるし、ロシアとウクライナ情勢を理解するための補助線にもなる。
トランプ大統領がインドとパキスタンの和平が実現したと宣言したことでCNNが「トランプ停戦は長期和平につながらない」と主張している。トランプ憎しで頭がいっぱいになっているようだが焦る必要はないと思う。どっちみちうまくゆかないからだ。
そもそもインドもパキスタンも事態のエスカレーションは望んでいなかったが、落とし所が見つかっていなかった。そこにたまたま通りがかったのがアメリカ合衆国だったわけだ。ただし、ここで分析を終えるのは不十分なようだ。
財政が不安定なパキスタン軍と政府はIMFの支援を必要としているがロシア・中国は反対を表明していた。そもそも国民経済を成長させる意欲がないパキスタン軍と政府は「アメリカの援助」を必要としていた可能性が高い。アメリカ合衆国も対中国包囲網を形成する一環としてパキスタンを中国陣営に取られたくない。だが対中政策を維持するとナバロ顧問やバンス副大統領が主張する孤立主義が維持できなくなる。おそらくルビオ国務長官はMAGA組の孤立政策には賛同していない。
パキスタンはアメリカの支援を引き出すためにインドを挑発し騒ぎを起こし続ける動機がある。これはイスラエルがイランに対して騒ぎを起こし続けるのに似ている。
そして対イスラムで国内をまとめているモディ政権は挑発を無視できない。これもイスラエルの攻撃を無視できないイランに似ている。
結果的に停戦合意の後にも小規模な衝突が続いている。
パキスタンは今回の決定を「パキスタンの勝利」と宣伝しているがインドはアメリカの介入を快く思っていないようだ。
「案の定」というべきか、トランプ大統領は今回の状況を全く把握できていないようだ。長年の闘争史を知らないため「アメリカ合衆国が介入すれば貿易が活発になるだろう」と無知を世間にさらしている。ABCは長年のインドとパキスタンの対立を書いているが、こうした記事が理解できるのは「普通以上の知性を持つ」限定的なアメリカ人だけだろう。
さらに「まだ議論していないが、この偉大な両国との貿易を大幅に拡大するつもりだ」と述べ、インドとパキスタンが領有権を巡り長年対立しているカシミール問題についても、解決策を模索すべく「私は両国と協力する」と表明した。
トランプ氏、印パ貿易拡大に意欲-カシミール問題解決にも協力の意向(Bloomberg)
国際社会からの介入を好ましく思わない地域大国と地域大国に対抗するために大国の支援を必要とする二番手という構図がある。ロシアやインドが地域大国に当たり、ウクライナやパキスタンが二番手ということになる。
トランプ大統領は国内世論と向かい合うときには孤立主義的になり国際貿易にも後ろ向きだ。と同時に国際社会に向かい合うときには自由貿易推進論者になり和平活動にも積極的になる。
結果的に重要な問題からは排除され支援だけを期待される国になってしまう。これはロシアとウクライナの直接対話を理解するうえでも重要な補助線になるのではないかと思う。
トランプ大統領が一貫した戦略を持たない以上、アメリカ合衆国は影響力を失いつつも世界のいざこざに関わり続けるしかないのだ。