8,800人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

ニューアークで再び完成システムのブラックアウト 苦境のアメリカ合衆国財政

Xで投稿をシェア

アメリカ合衆国の経済は絶好調と言われる。であれば日本と違って老朽化したインフラの再整備など容易いことだろうと思われるのだがそうなっていない。東海岸の重要空港の一つであるニューアーク・リバティ空港の管制システムが再びブラックアウトを起こした。ショーン・ダフィー運輸長官は3〜4年をかけてインフラの再整備を行うと表明したが、予算規模については語らなかった。

実はアメリカ合衆国の財政はかなり厳しい状況になっている。また減税要求もかなる強くなっており議会と政府の間に深刻な緊張関係がある。日本の消費税議論で「日本人は議論ができない」と総括した。アメリカ合衆国は真逆で「議論ばかりしていて一向にまとまらない」状況になっている。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






東海岸のハブであるニューアーク・リバティ空港で再び管制システムがブラックアウトした。そもそも管制官が足りていなかった上に前回のブラックアウトのショックで体調を崩した管制官も多い。遅延が常態化しており中には空港を避ける人まで出てきたそうだ。

運輸長官は「数年かけてシステムを再構築する」と語っているのだが予算規模は示さなかった。国土が広いアメリカ合衆国の航空路線は高速道路と並ぶ重要インフラである。ニューアーク・リバティ空港はニューヨーク市の入り口の一つなので重要性が高い。

アメリカ合衆国はお金持ちの国であり経済も絶好調。重要インフラの整備にかけるお金などいくらでもありそうだが、実際にはそうなっていない。実に不思議だ。

現在、連邦下院は「減税・債務上限延長・予算」の大型パッケージをまとめようとしている。ベッセント財務長官は連邦政府が支払い上限に達するXデイの到来を警告しており7月4日の独立記念日までに大型パッケージをまとめたい考え。

しかしながら共和党議員たちの足並みは揃わない。むしろ「議論をするのが私たちの仕事だ」とばかりにさまざまな議論がまとまらない。

まず一部の穏健派共和党議員はメディケイド(連邦政府の医療補助)削減に反対している。アパラチア地方のルポなどを見るとこれと言った産業のない地域の経済不況はかなり悪化しており政府補助に頼っている人たちも多いのだろう。

また別の議員たちはSALT(州税・地方税)減免の年収水準で厳しい要求を突きつけている。アメリカ合衆国経済は極めて好調なはずだが、なぜか中流世帯を中心に大規模減税を求める声があり日本の世論が消費税の減免を求めるのに似ている。アメリカ合衆国は成長著しい「一人勝ち」の先進国であり日本は長年成長に見放された国のはずなのだが、実際には同じような議論が起きているのだ。

バイデン大統領が「一世一代の大型インフラ投資」を打ち出すと共和党議員たちは一斉に無駄遣いだと批判していた。こうした経緯から共和党は大規模インフラ投資に踏み出しにくい。一方でバイデン政権が「インフラ投資」を打ち出した成果も上がっていない。アメリカの空港では連日のように一歩間違えば大惨事につながりかねないような事故が報道されている。

「一世一代」の大型財政支出と位置づけられるこのインフラ投資法は、総額約1兆2000億ドルのうち約5500億ドルを今後8年間で、高速道路や道路、橋、都市の公共交通、旅客鉄道などの整備にあてる。加えて、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、電気自動車充電スポットの全国的なネットワーク整備などにも連邦予算で取り組む。

バイデン米大統領、1兆2000億ドル規模のインフラ投資法案に署名・成立(BBC)

ここにトランプ大統領の不規則な発言が重なる。財源を捻出するためには富裕層に造成するしかないという意見があるのだがトランプ大統領の発言が迷走している。例によって例のごとくといったところだがおそらく議論が複雑になり「考えるのが面倒だ」になっているのだろう。

共和党が議会通過を目指してまとめようとしている経済パッケージについて、トランプ氏は富裕層の一部を対象とした増税を推奨している。同氏の発言に一貫性がないため、法案作成にあたる議員の足並みに影響を与えている。増税は昔からの共和党の基本方針に反し、税制法案の進展を一段と困難にしかねない。

トランプ氏、富裕層増税「私自身構わない」が共和党には政治的リスク(Bloomberg)

トランプ大統領はなんとしてでも代替財源を見つけなければならない。そこで飛びついたのが関税だった。一連の発言を見ていると「関税は外国に対する罰金だ」と本当に信じていた(あるいは深く検討しなかった)可能性があると思う。

結果的には日本や韓国との交渉は難航しラトニック商務長官も進捗の遅延を認めざるを得なかった。

対英貿易合意もSNSでの事前告知は練りに練ったものだったが実際には中身がない。そもそもトランプ大統領が恫喝しなければ結ばなくても済んだという程度の枠組みであり全く意味がない。

 一方、デューク大学ロースクールのティム・マイヤー教授(国際通商法)は「市場一般や米経済に関心を持つ人々の観点からすれば、中身がない。どう見ても枠組みに過ぎず、実質的には協定ではない」と指摘する。

トランプ氏の対英貿易合意、成果誇示も実体欠く-スピード戦略に限界(Bloomberg)

もちろんすべてがトランプ大統領のせいだというつもりもない。インフラ整備の遅れはバイデン政権時代から問題になっておりバイデン政権が十分な措置をとったとは言えない状況だ。

しかしながらトランプ大統領が有権者の期待に応えられていないこともまた確かで状況はむしろ悪化している。

「経済的に一人勝ちしているはずのアメリカ」になぜ強い減税要求がありインフラの老朽化が問題になっている。確かに議論は活発だがまとまった解決策は見出せておらず世界経済を道連れにしながら場当たり的な試行錯誤が続いている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで