ドイツ議会がメルツ氏を新しい首相に選出し大統領が首相を任命した。保守派・進歩派の二大政党が協力したことから「大連立」と呼ばれる。しかしながら第一回の投票ではメルツ氏が敗退し二回目でようやく首相就任を決めた。戦後初の異常事態にドイツ政界には動揺が走っている。
SPDが中心となって作られたショルツ連立政権は経済政策に失敗し財政拡大を余儀なくされていた。ここで自由民主党が独自案を発表し連立政権を批判したことで政局が不安定化。結果的にCDU/CSU(中道右派)が第一勢力、AfD(極右)が第二勢力、SPD(中道左派)が第三勢力になった。
ドイツには極右AfDとは協力しないという不文律(ファイヤーウォール)があるがメルツ氏は選挙直前にAfDの排外政策の取り込みを図り協力姿勢を見せた。このことがSPDの警戒心を呼び覚ましたものと見られる。CDU/CSUのメルケル元首相もメルツ氏を批判した。
結果的にAfDを排除する形で「大連立」が形成されたが、第一回目の投票では過半数を獲得できなかった。戦後初めての異常事態にドイツ議会の動揺は大きかったようだ。ドイチェ・ヴェレの報道によれば第二回目投票で無事に過半数を獲得したそうだがこの秘密投票でも造反者が出たようである。
非常に興味深いことだが、なぜ第一回目の造反者の一部が第二回目で考えを変えたのかは重要視されていない。日本の感覚から見れば「個別折衝が行われ何らかの裏取引があったのではないか」と考えられる。これらの裏舞台を細かく報道するのが日本の政局報道の真骨頂である。
一方でドイチェ・ヴェレも他のメディアも「今回のつまづきはメルツ首相がこれまで以上に慎重な政権運営を求められるという意味の警告だ」と表現しておりお国ぶりの違いを感じさせる。
時事通信によればメルツ首相は一時政治から距離を置き財界での経験が長かったという。閣僚経験が一切ないため政治経験は未知数とのことだ。
さらに今回の大連立は厳密には東ドイツ地域を中心に広がる国民の不満に応えていない。移民排斥を訴える極右のAfDは政権から排除されれたままだ。オーストリア(極右勢力は閣外協力)・ハンガリーに続いてルーマニアでも極右勢力が躍進している。中欧・東欧地域の民主主義はかなり不安定な状況に置かれている。
Bloombergも今回の混乱ぶりに注目している。政府主導による改革が進めにく苦なることが予想されるとしている。金融関係者は「各方面に気配りをせざるを得ない政権の財政は拡張的になるだろう」と受け止めるのではないか。国債の金利などの注目が集まる。