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加藤財務大臣が米国債を使った脅しを仄めかす

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Axiosが「ウクライナと違って日本はカードを持っており、彼らと対戦すれば結果は壊滅的になるかもしれない」と書いている。カードとはアメリカ国債売却であり根拠として加藤財務大臣の発言が引用されている。

では、加藤大臣は本当にそんな事を言ったのか?

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加藤財務大臣がテレビ東京の番組に出演し米国債についての質問を受けた。ご存知のように日本には橋本龍太郎のトラウマがある。根拠はないものの米国債売却をほのめかしたことで政権を追われたなどと囁かれる。日本にはアメリカ支配に対する怯えを持っており今でも都市伝説的に「米国債売却のような反米行為を仄めかすとアメリカの工作員に潰されるぞ」というような話がまかり通っている。

このため司会者は(Bloombergの記事を参考にする限りはだが)

と加藤大臣が答えやすいような工夫をしている。つまり「売らないことがカードになるのか」と聞いている。

ところがアメリカにはトランプ大統領に批判的なメディアも多い。Axiosもどちらかといえばリベラルよりの人たちが読んでいるメディアだろう。太字にした部分は「微妙だが重要な脅迫」と表現されている。つまり加藤大臣がテレビでアメリカ政府を脅迫したことになってしまうのである。

Everyone now knows that the bond market has a unique sway on President Trump’s policymaking — and a subtle, but important, threat from the Japanese government could move his stance on trade with a crucial ally.

Why it matters: Japan is the largest foreign holder of U.S. Treasuries, and even the vaguest hint that it could dump those holdings is powerful leverage with the administration. Following through on the threat could cause interest rates to spike.

Japanese finance minister says selling U.S. bonds a “card on the table”(Axios)

この文章はウクライナを引き合いにしている。2月のトランプ・ゼレンスキー大統領の会談は大惨事と言ってもよかった。この席でトランプ大統領は盛んにゼレンスキー大統領に対して「お前はカードを持っていない」「第三次世界大戦を弄んでいる」と罵倒していた。

これを引用したうえでAxiosは次のように書いている。

これまで日本の指導者がこれまで存在の可能性にさえ言及できなかった国債売却カードの存在を認めたことは大きな変化である。

It’s a noteworthy shift in the government’s messaging, given a historical reticence by Japanese leaders to even mention that such a threat could exist.

Japanese finance minister says selling U.S. bonds a “card on the table”(Axios)

トランプ関税が同盟国の離反につながっていると主張しているのだ。

石破総理や赤沢大臣はアメリカ合衆国を刺激しないように公式の発言と非公式の発言を分けている。公式的には建設的な対話だったとしながらも、報道を通じて自動車、鉄鋼・アルミに対する関税除外は受け入れられないとほのめかし、石破総理は「ゆっくり急ぐ」という曖昧なメッセージを発信した。

我々日本人はこれを「選挙を前にして意思決定ができなくなっているのだろう」と正しく受け取る。また加藤大臣と石破総理の距離もわかっており、お互いに話し合ってメッセージを出したとはみなさない。

ところがそもそも債務上限のXデーが迫っているアメリカ合衆国は国債金利の高騰に怯えている。つまり石破総理の曖昧なメッセージが「国債売却のほのめかしを通じた不気味な脅迫」と受け止められる可能性がある。

アメリカ合衆国のメディアと言ってもその質は様々で自説を有利に展開するための強引な引用も見られる。結果的にこれまで明確に交渉を拒否してきた中国よりも「何を考えているのかわからない不気味な日本」のほうが脅威だと捉えられる可能性があるということになる。

またこの話とは別の事情もある。日本では主に対米関税交渉の話が伝えられていたが、アメリカの特派員は「アメリカでは日本の関税交渉の話には特に関心が集まっていない」と伝える。では何に関心が集まっているのですか?ということになる。

アメリカでは国家安全保障担当者が軒並み更迭されたことが問題になっている。ナショナル・セキュリティアドバイザーのウォルツ氏が事実上の更迭になったことで本来は対外交渉を担当するルビオ国務長官が兼任することになった。キッシンジャー国務長官以来ということだがルビオ氏にはおそらくキッシンジャー氏のような決裁権はない。結果的にトランプ大統領に説明をしている間には対外交渉が滞るということになりそうだ。時事通信も「同盟関係にも影響が出るだろう」としている。

これまでは目立った問題が少なかったため「アメリカと日本の価値観は共通している」となんとなく誤魔化していれば良かったのだが、トランプ大統領の出現によりこの前提条件が狂いつつある。

老害化した人にはこうした前提条件の大きな変化を受け入れることは難しいだろうが、情報がアップデートできる精神的自由度を残している人は、できるだけ英語などこれまで馴染みのないメディアでの情報収拾をルーチン化したほうが良いだろう。XなどのSNSで執拗に政敵いじりをしている時間などないはずだ。

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