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司法長官が「裁判官逮捕は見せしめ」と宣言

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英米法は「法の支配」原則を貫いていると教わることがあるがアメリカ合衆国ではすでにこの概念は崩壊した。ボンディ司法長官は自分達に逆らったらどんな目に遭うか警告するために裁判官を逮捕したと堂々と主張してのけた。アメリカ合衆国は2026年に建国250年を迎えるそうだが、トランプ大統領がアメリカ建国精神を破壊させるのに要した時間は100日弱だった。

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ヨーロッパの繁栄は徹底した法律支配の枠組みに依拠している。長い時間をかけて、教会中心の統治システムから脱却し法律こそが人々を統治するという原則を確立していった。大陸は「法治主義」の原則を持つが、英米法は「法の支配原則」によって支配されていると説明されるのが一般的だ。法の支配原則は統治者であっても法律に従わなければならないと考えるのが特徴である。大陸出身の王権と地方領主が対立し、そこに海外交易で力をつけた市民階層が加わったために王権を制限する考え方が強く働いた。

トランプ大統領の熱心な信奉者として知られるパム・ボンディ司法長官は「裁判官であっても法の支配を超えることはできない」と宣言して見せた。

アメリカ合衆国の憲法秩序は「人権」を重視しており不法移民であっても裁判を受ける権利を侵害されてはならないと考える。そして、法的な手続きをDue Processという。ところが、トランプ政権は裁判なしで移民を国外追放し「社会復帰を前提としない」エルサルバドルの収容施設に送り込んでいる。

最高裁判所の保守系判事たちは当初トランプ候補の主張に賛同し「大統領には強大な免責特権がある」と認めた。この結果トランプ候補に対する捜査は行き詰まり結果として第47代大統領に就任している。

ところがトランプ氏が大統領になると裁判所の命令を無視し移民の追放を強行する。最高裁判所は戦時法の適用は認めたがDue Processは守るように訴えている。彼らの関心事は司法権力維持にあるのだろう。

結果的に現場の裁判官はDue Processを守るために戦うか脅しに屈するかという究極の二択を迫られている。トランプ大統領程度の無軌道を自分達が制御できると考えたのだろうが結果的には浅はかな知恵に過ぎなかった。

ボンディ司法長官は、本来権力者も法律に従うべきであるという趣旨の「法の支配」という言葉を曲解し、裁判官も「法の支配に従うべきだ」と主張した。この主張に従うならば、行政府は裁判所に引き立てられてくる移民を一網打尽にして国外に追放すればいいことになる。

アメリカの援助を期待するエルサルバドルは喜んで協力するだろう。トランプ政権は「移民たちはすでにアメリカ合衆国の管轄外にあるのだから我々にはどうすることもできない」と言い続ければいいのだ。

ボンディ司法長官は「ミルウォーキー判事の逮捕は他の判事への警告」だといっている。法秩序を決めるのは執行者である我々であって司法はそれを妨害してはならないと示すために裁判官を逮捕して見せたのだった。

法律の背景にはそれを成立させるための精神が宿っている。自分達の願望を押し通す「議論のための議論」はこうした精神に関心を寄せない。結果的に立派な法体系は一夜にして単なる伽藍堂になってしまう。民主主義が持っている一種独特な儀式的な厳かさも失われる時はほんの一瞬である。アメリカ合衆国は2026年に建国250年めの節目を迎えるそうだが、250年弱の歴史を崩壊させるのにトランプ政権が要した時間は100日弱だった。

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