8,800人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

裁判官の逮捕で岐路に立たされるアメリカ合衆国の司法制度

Xで投稿をシェア

アメリカ合衆国の司法制度が岐路に立たされているが倫理が苦手な日本人には扱えない問題だと感じる。

今回の問題を遡るとアメリカの司法がトランプ大統領(当時は候補)の行動力に期待したところにまで行き着く。大統領候補としてのトランプ大統領を延命させるために大幅な免責特権を認めバイデン政権の操作を妨害した。

この結果誕生したトランプ政権は司法を無視するようになる。予想外の反応に慌てた最高裁判所は法的手続きを遵守するようにトランプ政権に命令しているがトランプ政権は一切を無視する構えだ。

今回の裁判官の逮捕で、司法は「建前だけを追求し実効力を手放すか」「実効力を優先し形式的な法律を破るのか」の二者択一を迫られている。

司法は自らの手で「何が正しいか」を選ばなければならないのだがこの「正しさ」を扱うのが日本人は苦手だ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ウィスコンシン州の裁判官が不法移民を陪審員入口から逃した罪に問われている。当局の捜査を妨害したというのである。仮にこれが言いがかりでなく真実であったとすると確かに裁判官は形式的には罪を犯したことになるのかもしれない。裁判官は6年間収監される可能性がある。

日本人は検察が起訴した時点で「マスコミの推定有罪」が出る。つまり裁判沙汰になった時点で悪いことをしたのだろうという類推が働く。日本のトランプ支持者だけでなく一般的感覚でも「法律違反なんだから悪いことをしたに違いない」と感じる人が大多数だろう。

しかし仮にこの裁判で裁判官が負けるとどうなるか。

最高裁判所は移民追放の際に裁判にかけるように求めており、連邦政府は「全ての取り締まりに裁判を行う余裕などない」と言っている。つまり裁判所に見張りをつけて裁判にかけられる移民を軒並み取り締まればいい。裁判官はその都度「自分が犯罪者になっても司法制度の根幹を守るか」と踏み絵を踏まされることになる。

似たようなことは既に起きている。

中絶は殺人であると主張する人の中には救命救急で母体を優先し胎児を殺した医療従事者を「殺人犯だ」と見なす人がいる。このためアメリカでは救急搬送される人が妊娠しているとわかった場合に受け入れてもらえないことがあるようだ。間違えて胎児を殺してしまうと「殺人犯」扱いされてしまう。

本来医療は人間の健康を第一に考えるべきだがその都度「ライセンスと職業をかけて医療倫理を守るか」の判断を迫られると、やはり「君子危うきに近寄らずだ」と考える人が出てくる。このような無茶苦茶を通じて「プロライフ派」はアメリカを支配しているのは自分達の価値観であり「正しいのは自分達なのだ」という強い満足感を得るのである。

問題なのはこの対決がトランプ政権対司法ではなくなってきているという点にある。司法は自らの手で「形式的に法律を守る」か「法律の精神を守るか」の二者拓一を迫られることになるだろう。

連邦最高裁判所の保守派はおそらくキリスト教・白人優位を守るためにトランプ大統領(当時は候補)の突破力に期待していた。このため大統領に広範囲の免責特権を認め、大統領就任後も戦時法の使用も容認している。

しかし彼らは事態を侮っていた可能性が高い。トランプ大統領が暴走しても司法が「正しく」介入すれば三権分立は守ることができると考えていたのだろう。

しかしながら問題は彼らの手に余るところまでエスカレートしてしまった。特に保守派判事の中には強硬な2名が混じっている。1名は議会襲撃に共感を持っていると疑われており、今回も「最高裁判所はトランプ政権の行為に対していっさいの手出しをすべきではない」との少数意見を出している。

彼らは結果的に「制度としての民主主義」は守ることができるのかもしれないが、それは民主主義という魂の抜けた伽藍堂にすぎない。アメリカ合衆国の民主主義は浅はかな打算によって音を立てて崩れようとしているのかもしれない。

結果的に彼らは廃墟のようになったアメリカの民主主義という制度を守ることはできるかもしれないが、そこに一体何の意味があるというのだろうか。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで