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「1日で戦争が終わるは冗談」 トランプ大統領のタイム誌インタビューが物議

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トランプ大統領が「ウクライナとの戦争が1日で終わると言ったのは冗談だった」と発言し日本でもSNSで一時話題になったそうだ。このインタビューは現在タイム誌が一般公開しており自動翻訳などを使えば誰でも気軽に読むことができる。

中に「アメリカの帝国拡大」についてカナダやグリーンランドの併合などを主張している箇所がある。

読後の印象としてトランプ大統領は自身の計画や願望を「現実」と捉えていることがわかる。能力に対する評価が過大である一方で他者のニーズや極めて鈍感だ。結果的に善悪の判断ができておらず周りの反応からそれを読み取ろうとする傾向もある。

一言で言うなら破綻しかけた自己愛型の人格といえるだろう。

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タイム誌はまず経済政策がうまく行っていないと指摘している。これに対してトランプ大統領は従来の主張を繰り返した。つまり関税のおかげで200ものディールが既に結ばれており習近平国家主席も個人的に電話してきたからこれから経済は良くなると重ねて主張したのだ。

なお中国サイドはいかなる接触も行われていないとして主張を重ねて否定している。

タイム誌はその後はトランプ大統領に一方的に気持ちよく話をさせる手法をとっている。トランプ大統領が自身の主張を繰り返せば繰り返すだけ信憑性が破壊されるという仕掛けになっているがトランプ支持者はおそらくこの残酷な仕掛けには気がつかないだろう。

日本で話題になった「ウクライナの戦争が1日で終わらせられると言うのは冗談だった」というのは自身の主張を気持ちよく述べているパートの発言。おそらく本人にはそれほど悪気はない。共同通信はウクライナ関連の発言を「要約」しているが本人の支離滅裂な希望的観測を述べているだけなので、共同通信を読んでも「何を言っているかよくわからない」と言う感想しか残らないのではないか。

さらにインタビューはアメリカ帝国という言葉を持ち出している。アメリカ合衆国は民主主義国であり「アメリカ帝国」などという発言は到底許容されるものではない。

ところが善悪の区別がつかないトランプ大統領は「正しい機会があったのなら、少し違った見え方をしていたかもしれない」と主張した。それはグリーンランドを併合しカナダをアメリカの一部にすると言う提案であり到底受け入れられるはずもないのだが「見え方次第」で「誤解されているだけ」との評価になっている。

論理的に考えればアメリカ合衆国の州の間にも貿易不均衡はあるはずだが(カリフォルニア州だけで日本の経済規模を上回るのだから連邦の持続可能性を損なう程度に「一人勝ち」している州になっている)トランプ大統領はこれについては問題視していない。ところがこれが国際競争になると「勝ち負け」という概念が登場し「アメリカ合衆国が負けるのは許せない」と言うことになってしまう。

全文を通して読むと「モノの貿易不均衡=国の勝ち負け」と捉えていることもよくわかる。自由貿易を通じて得意分野を分担し合うという自由貿易の基礎概念が理解できていない。

さらに一方的に併合を宣言されたカナダ人やグリーンランド住民の怒りや当惑には全く関心を寄せていない。つまりトランプ大統領の頭の中には自分の主張と誇大な自己万能感が存在する一方で、他者の視点や基礎的な経済学の知識などは完全に欠落していることがよくわかる。

「アメリカ帝国構想」はデンマークからグリーンランドを簒奪する構想が含まれる。さらにトランプ大統領はクリミア半島がロシアに併合されるのは仕方がないとも主張している。このインタビューは当然ヨーロッパの指導者層や一般市民にも読まれることになる。欧米の間に入った亀裂はかなり大きなものだと考えるのが自然だ。

タイム誌はこのトランプ大統領の心理状態を余すところなく表現しており歴史的史料としても一級品の価値がある。トランプ大統領は地から生えてきたわけでも天から降ってきたわけでもない。多額の費用をかけて1年以上もかけてスクリーニングされたアメリカ民意の選択である。つまりアメリカ合衆国自体が誇大な自己万能感と他者に関する意識の欠落を伴っているのだと考えることができるだろう。

エマニュエル・トッドはプロテスタント主義の堕落が原因と考えているようだが、おそらく分析は人それぞれなのではないかと思う。機会があれば様々な説を聞いてみたいものだ。

ただこのインタビューは「暗転」で終わっている。タイム誌は、イスラエルがトランプ大統領を操り「さらに大きな戦争」にアメリカを引き摺り込もうとしているのではないかと指摘した。

仮にトランプ大統領にまともな判断力があれば「アメリカ合衆国が戦争に引き摺り込まれることはない」と強調したであろう。ところが自己愛型のトランプ大統領は「状況をコントロールするのは自分である」と強調した。そこで「合意が不調に終われば自分が先頭に立ってイランを攻撃する」と宣言してしまう。

その後、イランの主要な港湾で大規模な爆発事故が起きている。イランの対米強硬派がこの件に関して過敏に反応すれば、おそらくネタニヤフ首相が喜ぶ方向に次点が進展するであろう。イランの抑制的な反応を願わずにはいられない。

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