先日、エマニュエル・トッド氏らを引き合いに「アメリカ合衆国はなぜ崩壊するのか」という記事をリリースした。この時点では「そうは言っても崩壊には時間がかかるんだろうな」と感じていた。つまり書きながらもどこか「大げさだよな」と思っていたのだ。
トランプ大統領がFOXニュースの社主のルパード・マードック氏を攻撃しているとCNNが面白おかしく伝えている。トランプ大統領の関税政策のせいでアメリカ国民は経済の見通しを下方修正しつつある。支持者たちも「これは何かが違うのではないか」と感じ始めた。ただここまではまだ「笑い話」で済むかもしれない。
ただ、アメリカの崩壊スピードは我々が考えるよりも早まるのではないかと感じさせるニュースも入っている。経済政策に行き詰まるトランプ政権はその矛先を司法や学術などに向けている。独裁国家でよくみられる光景だ。
これまでアメリカ合衆国のメディアは二極化が進んでいるとされてきたがFOXニュースでさえ「トランプ大統領の経済政策は信任できない」と考える人が増えてきた。そこでトランプ大統領はSNSトゥルースソーシャルに不満をぶちまけたのだ。自分に都合が悪い世論調査は全て悪であり「自主規制されるべき」だという主張になっている。
トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、マードック氏、FOXニュース、そして米紙ウォールストリート・ジャーナルを痛烈に批判。ルパート氏が「長年にわたりFOXニュースの反トランプ偽世論調査を廃止すると私に言っていたが、全く実行していない」と主張した。
経済政策支持率はわずか37%、伝えたFOXニュースをトランプ氏が痛罵(CNN)
ただあくまでもこの話は笑い話として伝えようと思っていた。
ウクライナ和平交渉で行き詰まるトランプ大統領はトゥルースソーシャルで「ウラジミールやめるんだ!」と情報発信しているが、SNSで叫んでも戦争が終わるわけではない。
トランプ大統領のSNSでのつぶやきにはどこか滑稽さもある。
しかしながらある別の投稿を見て背筋にすうっと冷たいものが走った。ウィスコンシン州の裁判官が公務執行妨害の罪でFBIに拘束されたというのだ。議会民主党権は激しく反発しているそうだが共和党の中には歓迎するものもいるようである。容疑は裁判官が「不法に移民を庇った」というもの。見せしめなのだろうと感じる。
- Judge Hannah Dugan arrested by FBI for allegedly helping undocumented immigrant ‘evade arrest’(ABC News)
- Congress erupts over FBI arrest of Wisconsin judge(AXIOS)
既にトランプ政権は反政府運動につながりかねない親パレスチナ運動を激しく取り締まっている。しかし連邦裁判所からの抵抗もあるためハーバード大学など一部の大学を「極左政治集団」と決めつけて迫害している。
このようにトランプ政権はみせしめのために弱いものを選んで攻撃する傾向がある。トランプ支持者たちは経済政策に不満を募らせているが移民追放は強く支持をしている。「内なる敵」をでっち上げて経済政策に不満を募らせる人たちの目を逸らす行為は独裁的傾向を持つ国家ではお馴染みの手法だ。意外と支持率向上に成功することが多い。
だが、長年自由主義を掲げてきたアメリカ合衆国で就任100日に満たない大統領が急速に経済政策に行き詰まり独裁化を進める光景を見るとは思わなかった。
FBIを率いるカシュ・パテル長官はトランプ大統領の強力な支持者として知られディープステートの存在も仄めかしている。トランプ人気にあやかろうとディープステート論を撒き散らしているのか、あるいは本気でディープステートを信じ確信犯的に行動しているのかはよくわからない。
さらに、著書で記した「ディープステート(闇の政府)打倒のための改革の最優先事項」リストに基づき、「FBI上層部が政治的駆け引きに走るのを抑制するため」FBI本部をワシントンから移転させるべきだと主張。捜査機関として活動だけではなく「検察の意思決定」を担うようになったとしてFBI内の法務部局を大幅に縮小することも求めている。
トランプ氏、次期FBI長官にパテル氏-「ディープステート」批判者(Bloomberg)
トランプ大統領が明確に司法潰しをパテル長官に依頼しているのか、あるいは仄めかしたのか、パテル長官が「自発的に」行動しているのかもわからないということになり不気味さが募る。結果的にアメリカ合衆国の政治システムに大きな傷を残すことになるが、トランプ大統領が司法迫害をどの程度重要な問題と認識しているのかもどの程度の当事者意識を持っているのかもよくわからない。
ただし「独裁」が安定するためには文化の中に「強いリーダーに従う」文化コードが必要だ。
例えば中国は強い父権のもとで結果的に平等が得られる体制を志向する。だから共産党一党独裁と民主主義が共存できると中国人は感じるのである。独裁のくびきから解き放たれた中国人は海外旅行で日本人が考えつかないほどハメを外すことがある。彼らがおとなしくしているのは共産党が強く押さえつけているからであって「自分達で自分達を律しよう」という気持ちは持たない。
アメリカ合衆国には独裁を安定させる伝統も文化的背景もないために、独裁者のもとで好き勝手に振る舞う人が出てきたり強すぎる権力に対する強い抵抗運動が生まれることがある。そしてそれは社会システムの不安定化につながる。
既に軍を律するべき国防総省が混乱に陥りつつある。
ヘグセス国防長官は何らかの理由で民間オンライン回線(ABCニュースは汚い回線=ダーティーラインと表現している)を引いた。ABCニュースは「盗聴の危険がある」としているがおそらく政府の統制化に置かれていないため「後々に証拠として開示されない」回線が必要だったのだろう。民間のシグナル・アプリを高官たちが好むのも証拠がアーカイブされることがないからだ。ヘグセス国防長官はこの汚い回線とシグナルアプリを使って妻や兄弟と情報を共有していたとされている。
既に高官が解雇されていたこともありヘグセス国防長官の問題行動は連日マスメディアに漏れている。そこでヘグセス国防長官は軍の高官を「嘘発見器」にかけると脅しているそうだ。トランプ政権は軍を信頼できず、軍もおそらくホワイトハウスに従うつもりはなさそうである。有事の際にこの相互不信が何をもたらすかを考えるだけで恐ろしくなる。外交を司る国務省もリストラで混乱しており、おそらく作戦行動は大混乱するだろう。
In a meeting with Adm. Christopher Grady, who was serving as then-chairman of the Joint Chiefs of Staff, Hegseth yelled “I’ll hook you up to a [expletive] polygraph!”
Hegseth shouted threat to ‘polygraph’ top military officials: Sources(ABC News)
ホワイトハウス・官僚のいざこざや高級閣僚同士の総凸は連日のようにリベラル系メディアで面白おかしく報道されており、合衆国政府の内部混乱は今や誰の目にも明らかだ。
政府が省庁をコントロールできないという混乱状態が生まれ始めているが、政権はまだ100日目を迎えていない。