Bloombergが「日本は抵抗の構え、トランプ政権が目指す対中貿易包囲網に」という記事を出している。日本はG20の財務大臣・中央銀行総裁会議に出席しトランプ関税の悪影響について世界に訴えたそうだ。加藤・ベッセント会談では為替についての話題は出なかったよう(あっても発表はしないのだろうが)で、トランプ大統領も関税問題と安全保障問題はリンクさせないと宣言せざるを得なくなっている。
日本はG20の会議を軽視する傾向があるが今回ばかりは出席して連携姿勢を表明した。赤沢大臣は「格下も格下」と謙って見せたが加藤財務大臣は連携姿勢を強く打ち出してトランプ政権に妥協を迫っている。ベッセント財務長官との会合は終了し「説明へ」で終わっている。
加藤財務相は席上、「米国の関税措置と一部の国の対抗措置や、それがもたらす不確実性が足元の為替を含む金融市場を不安にし、実体経済に悪影響を及ぼしていると指摘した」と話した。その上で、経済や金融市場の安定を維持するため「各国は緊密に情報交換を行い、機動的に協力しながら必要な対応を取るべきだ」と伝えた。
米関税で「為替含め市場不安に」、加藤財務相が懸念表明-G20開幕(Bloomberg)
トランプ政権が中国を封じ込めたいならば日本を含めた同盟国に対して中国との断交を迫る必要がある。しかしながら日本は「どちらも選べない」として抵抗するようだ。結果的にアメリカ合衆国は中国と直接交渉して対話の糸口を見出さざるを得なくなりそうだ。
米国は中国に関する具体的な要請を日本に対して行っていないが、そのような状況が発生した場合、日本は自国の利益を優先させるだろうと当局者らは語っている。当局者の1人によれば、日本はこれまで複数回にわたり、半導体関連の輸出や規制について米国と完全には足並みを揃えていないことを中国側に伝えている。
日本は抵抗の構え、トランプ政権が目指す対中貿易包囲網に(Bloomberg)
ただしBloombergの記事は「外務省はコメントしなかった」としている。
外務省の総合職は初期の語学研修で「スクール=派閥」に分けられる。これが事実上の派閥になっているが「アメリカンスクール」がメインストリームであるという了解があるようだ。このため外務省幹部には親米派が多い。だが経済産業省や財務省はおそらく必ずしも親米派で構成されているとはいいきれないため、外務省がアメリカ追従を強く要請し他の官庁が抵抗するという流れが起きているのかもしれない。
また地方からも「コメ関税は現状を維持するように」という要望が上がっており江藤農水大臣も農業と関税問題を絡めることには慎重な姿勢である。
赤沢大臣は自動車のために農業を犠牲にしないと言っている。自民党は集票をJAに依存しているが集票能力が先細っており、自動車労連を含む連合にも秋波を送っている。メッセージングを間違えると自民党の支持基盤を破壊する可能性がある。
これまで日本の商社はバイデン政権下で輸出規制に苦しんできた。ところが今度は日本政府が民間活力に依存したディールを商社の頭越しで結びかねない事態になっている。アメリカとの関係を最優先する外務省と商社との関係を重要視する経済産業省の利害はおそらく一致していないのではないかと思う。しかし日本政府は「外交問題に関しては詳しい説明は差し控える」と情報開示を拒んでしまうため、この辺りの報道はあまり活発ではない。
そらく石破総理に政策調整能力はない。表向きは各省庁が協力して関税交渉にあたることになっているがその裏でどのような政策調整が行われているのかはよくわからない。結局「何も選ばないということを決めて相手の様子を見る」ということになりそうだ。
日本が最も恐れていたのは日米安全保障条約からの撤退を仄めかされることだった。しかし、これに関しては貿易交渉に軍事を絡めないとの発言がトランプ大統領から出ているそうだ。例によって背景情報を精査する必要がありそうだが、仮に日米安保が絡まないならば、日本が早期に関税問題を解決する動機は失われ、このままダラダラと関税交渉が続くのかもしれない。