トランプ大統領就任から100日が過ぎようとしている。選挙キャンペーンではインフレもウクライナの戦争も今すぐに集結すると楽観的な見通しを示していたが、これら全ての戦いに敗れつつあるようだ。
支持者たちは移民問題ではトランプ氏を支持する傾向にあるが経済問題では離反が始まっている。このため就任後100日の大統領としては極めて低い支持率が定着するかもしれない。
ただしこの挫折がトランプ政権の正常化につながるとは考えにくく世界の経済と安全保障に対する最大の不確定要因となっている。
トランプ大統領の失策の背景にはいくつかの要因がある。
トランプ大統領の誕生の背景には没落した中間所得者層の怒りがあるものと考えられる。ところがアメリカ合衆国はなぜ中間所得者層が没落したのかを正しく総括できておらず、さまざまな議論の付け替えを行ってしまった。このため議論が混乱し「さまざまな犯人探し」が行われている。この犯人探しの一部は意識高い系に対する攻撃につながっており、現在学術と司法がトランプ大統領に強く抵抗している。
中間所得者の没落の原因は富裕層による富の独占だ。アメリカ合衆国は富裕層の既得権を守りつつ中間所得者層に恩恵がある製造業をアメリカ合衆国に戻す動きがあるが、これは両立が非常に難しい。
例えばベッセント財務長官はウォール・ストリートを代表し強いドル政策は維持し日本に為替目標は求めないと宣言する一方で円安・ドル高も是正しようとしている。
通貨誘導はしないといいつつ「日本はアベノミクスを通じて通過安誘導を行なっている」と非難している。また中国とは対話すらできていないため。世界銀行やIMFが役割を果たしていないとの批判を展開している。
ベッセント財務長官の苛立ちは次第に募っている。穏健な人柄で知られるそうだがホワイトハウス内でマスク氏と「すわ乱闘」という騒ぎになったとアクシオスが伝えている。
また共和党を含めた議会には富裕層増税の機運があるがトランプ大統領は富裕層増税には反対している。
結果的に中間所得者の不満は蓄積し民主主義の不安定化につながっている。
さらに文化に対する理解不足もある。トランプ大統領や一部の側近たちはアメリカを「ローマ帝国化」しようとしているが、アメリカ合衆国はもともと海洋国家的・個人主義的な文化背景を持っており強い権力を忌避する傾向がある。
さらに強いリーダーに従う文化的伝統もないためトランプ政権ではさまざまな主義主張が声高に展開されてもそれをまとめようとするものはいない。アメリカ合衆国には集団主義・権威主義要件を成立させる要件に欠けている。
さらにトランプ大統領の個人的資質もある。100日間のやり方を見ていると、まずは乱暴なやり方で恫喝しておいて妥協を迫るという手法が目立った。次第に「他にアプローチが全くない」ことがわかってきている。ルビオ国務長官やベッセント財務長官のような実務型の閣僚もいるが十分に活用できてきない。
記者団に「一向に交渉が始まらないではないか」と詰め寄られて、トランプ大統領は「今朝話をしたが詳細は言えない」と主張した。Reutersは一応「協議が行われた」と伝えているが、中国は「恫喝から始まる協議には応じられないし、今のところ何も対話は行われていない」と主張している。
トランプ大統領の発言はその場凌ぎであり周囲から圧力がかかればすぐに折れてしまうという認識も定着しそうだ。
ただ、トランプ大統領が今回の混乱から何かを学んだとはとても思えない。現在でも「交渉がうまくゆかなければ2〜3週間以内に新しい関税を導入する」と言っている。またFRB議長には引き続き利下げを要求するとしている。
ウクライナ協議も失敗しつつある。ゼレンスキー大統領は領土割譲を伴う妥協的和平に応じるつもりがないとして鉱物資源ディールも滞っている。ロシアはキーウを攻撃し大勢の死者が出た。苛立ったトランプ大統領がプーチン大統領を批判するという一幕もあった。
全ての権限がトランプ大統領に集中しているため交渉ルートが限られる相手(中国とイラン)との交渉は難航が予想される。
中国との貿易戦争は再加熱する可能性があるが、これとは別にイランとの関係が悪化し、アメリカ・イスラエル対イランという新しい戦争の可能性も出てきている。仮に「新たな中東戦争」が起これば石油価格が高騰し日本やヨーロッパの経済を直撃するだろう。
Bloombergのあるコラムは「6つの戦争に負けつつある」と指摘しているが、成果を急ぐあまり多くのことを同時に実現しようとして大混乱に陥りつつあることがわかる。