ニューヨークの株価は一時1000ドルを超えて反発した。先日の東京証券取引所でも商社株が反発していたのでなにがあったのだろうかと思ったのだが、どうやらベッセント長官が「中国との間では貿易戦争は起こらないだろう」と発言したことで株式市場が反応したようだ。
市場はパウエル議長の良識に期待しベッセント長官に最後の希望を見ていることになる。
ベッセント長官の発言は以下の通り。
会合は、JPモルガン・チェースがワシントンで主催した。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季総会のサイドイベントで、メディアなど一般には非公開だった。出席者によると、ベッセント氏は、中国との交渉はまだ始まっていないが、合意は可能と述べたという。
米財務長官、中国との緊張緩和に期待感示す― 合意の可能性に言及(Bloomberg)
ただし会合では「貿易交渉はまだ始まっていない」とも言及されている上にベッセント長官のような良識派の地位はトランプ政権内ではかなり不安定である。それでもウォール街コミュニティは「やろうと思えば合意はできると思う」という控えめなニュースに希望を見出そうとしている。つまりアメリカほど成長している経済圏はなく「トランプ大統領さえ大人しくしてくれれば」アメリカに引き続き投資をしたいという人が多いということだ。
日本語バブルと正常性バイアスに守られた人たちはもうアメリカ関連のニュースは見なくて良いと思うのだが、きっちりと投資をしたい人は現在のアメリカの状況をよく理解する必要がある。混乱が常態化しており「まとまりもしなければ崩壊もしない」という状況だ。アメリカ経済も規模が大きいためすぐさま崩壊するとはみられていない。
ABCニュースが「As controversies pile up, Trump allies increasingly turn on one another」という記事を出している。英語記事だがブラウザーの翻訳機能を使えば問題なく理解できるだろう。政権内部ではお互いがお互いを攻撃し合う万人闘争状態になっておりトランプ大統領にはそれをまとめるつもりはない。だからといって政権が崩壊するという状況にはなっていない。つまりおそらくは混乱したままの状況が続くということになる。
例えば国務省では外交官がリストラされるのではないかという謎の文書が出回った。結果的にルビオ国務長官が「肥大化した組織を正常化する」として事態収拾に乗り出した。国務省の核心的利益を守りつつ国際援助などの部局を減らすという提案になっているが報道を見る限り具体性は乏しい。ヒリヒリするような綱引きが続いているためなのだろうか、ルビオ氏はウクライナとの和平交渉会議をスキップした。おそらく外交どころではないというのが本音なのだろう。
また国防総省ではクビを切られた高官が「ヘグセスはもうおしまいだ」とメディアに触れ回っている。後任が検討されているという報道も出たが今のところヘグセス氏のクビはつながっている状態なのだそうだ。
日本人の感覚から見ると大臣同士がSNSで罵り合い、クビを切られた霞ヶ関の官僚たちがマスメディアに「あることないこと」触れ回っているという状況。そこに石破総理がSNSから情報発信し新聞名を名指しし「フェイクニュースだ!」と叫んでいるような混乱状態がアメリカの「正常」である。
アメリカ人はこの状況に慣れてしまっており(うんざりしている人も多いのだろうが)投資家たちは希望的観測を頼りに買いに走る。
ただし機関投資家は徐々にアメリカ売りを進めているようだ。アメリカ国債が急落した時「日本か中国が売ったのではないか」と言われていたようだが株価が大きく下がったことで資産を整理せざるを得なくなる人たちも大勢いるようだ。
ステート・ストリートでは、今回の米国債急落を招いたのは短期投資家のストップロス(損失確定売り)に加え、商品投資顧問(CTA)や各資産のリスク割合を均等に保有する「リスクパリティー」系投資家の持ち高解消などが重なったために起きたと分析している。
4月の米国債急落、日本や中国の売りではない-ステート・ストリート(Bloomberg)
また、トランプ大統領の政策はそもそも製造業と金融産業を天秤にかけている。
支援者を気にして製造業優位の政策を進めると、結果的にアメリカの投資が抑制され資金提供源だったウォール・ストリートから離反されかねない。Bloombergは懸命にこれをトランプ政権に伝えようとしているようだが、おそらくトランプ政権には複雑すぎるメッセージは理解できないのではないかと思う。ベッセント長官の苦悩はまだまだ続きそうだ。