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大阪・関西万博は 日本のIT製造業の堕落の博覧会に

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常々、日本のIT製造業は堕落していると主張してきたが、まともに受け入れてもらえなかった。日本は職人気質の製造業大国だという自意識がありまた破綻した日本のIT産業が創り出す製品に慣れた人が多いからだ。今回の大阪・関西万博はその堕落のショーケースになりやっと人に何がいけないのかが説明できる機会になったと思う。実に喜ばしい。と同時にこれは日本の未来を正確に映し出す貴重な博覧会となるだろう。

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今回の万博は「並ばない万博」になるはずだった。そのために活用されるのがスマートフォンだ。しかし人々がスマホを使いすぎたせいで携帯電話が電波につながりにくい状況が生まれた。「誰か」が電波使用量の見積りをしなかったのだろうか?と思うがおそらくやらなかったのだろう。おそらくそんな「誰か」はいなかった。

ITジャーナリストの井上トシユキ氏によると列ができると待ち時間にスマホゲームをする人が増えてトラフィックが増大しているようだ。こうしてスマホがつながりにくくなるとますます列が増え……という悪循環になっているという。

日本人は全体を設計するという発想を持たず部局間調整もしなくなった。さらに過度に「合理的な行動」を期待し想定外の行動(この場合にはスマホゲーム)の可能性を考えなくなる。

地図が重すぎて使えずそもそも電波につながりにくいため有料の紙の地図を求める行列ができているそうだ。

部局調整しない事例は他にもある。

定期券やSUICAで電車に乗っている人は知らないだろうがJR東日本の券売機が悪夢のような状況になっている。おそらくは各担当者が作ったシステムがそのまま並べているだけでユーザーインターフェイスの統一性がない。お客さんの「やりたいこと」に向けた調整は一切されておらず、作る人の都合でシステムが作られ「そんなに券売機が使いたいのならばお前が覚えろ」というような仕上がりになっている。このため駅員たちは問い合わせの増大に悩まされることになる。駅で券売機を使うのはあまり電車に乗りなれない人たちだ。さらにJR東日本は省力化のためにみどりの窓口を減らしている。JR東日本はえきねっとに顧客を流そうとしているが「事前に複雑な切符の買い方のルール」を知っている必要があるため使わない・使えないと感じる人が多いという。

万博でも同じ発想が見られる。機能ごとに複数のアプリが乱立し「これは一つにまとめられなかったのだろうか?」という声が聞かれるという。ただおそらくまとめたとしても機能が並ぶだけのまとまりのないポータルになっていたはずだ。

その実例がマイナンバーシステムである。一つの仕事をやるために複数の「機能」を渡り歩く必要があり、それぞれの「機能」ごとにインターフェイスの約束事が違う。ユーザーが何をやりたいのか、どんな前提知識を持っているのかに対する理解が決定的に足りていない。

この「お客さんに興味がなくなった」事例は万博にも見られる。それがトイレ問題だ。

まず、子供用トイレには仕切りがないものがあるそうだ。カタログを見てそのまま導入したようだがTOTOの担当者は「事前に相談してくれればよかったのに」と当惑している。保育園では子供の様子を見るために仕切りをつけない事例があるそうだが、そのカタログを見た担当者は「子供用トイレとはそういうものだろう」と深く考えずそのまま仕切りをつけなかったようだ。お客さんがどう使うかを想像したり専門家に聞いていればこんなことにはならなかったはずだが、万博はそれをやらなかった。

さらに入口と出口が違うトイレがある。中から人が出てきたのかが判断できないために不必要に並ぶ人が出ているという。また2億円トイレはそもそも初日に全部詰まってしまい使えなかったという。

これらの事例を見ると、共通課題として徹底した顧客目線の排除があると気がつく。

ユーザーインターフェイスの設計が複雑化したことでユーザーエクスペリエンスという概念が重要視されるようになった。日本人はこのユーザーエクスペリエンスという概念を徹底的に排除しようとする。効率性(自分のシゴト)の妨げになるからだ。

日本の企業は効率性を重視し「便利さを提供してやっているのだから顧客の方が歩み寄ればいい」と考える傾向がある。担当者はそもそも忙しすぎる上に「無力な自分が全体のことを考えても仕方がない」と諦めてしまう。このような態度が複合的に絡み合って結果的に「新しい製品は複雑すぎて使えない」という評価につながり結果的に利便性や生産性を損なっている。

今回の大阪・関西万博では日本企業のユーザー・エクスペリエンスの不在がどんな悲惨な状況をもたらすのかがよくわかった。これだけでも多額の税金を使った価値があるのかもしれない。

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