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事実上の株価操縦 反省なきトランプ大統領の救い難さ

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今回のトランプ大統領の相互関税政策の放埒さからトランプ大統領が本質的にアメリカ合衆国大統領の職責も株式市場の仕組みも理解していないということがわかった。この問題は金利上昇を通じてアメリカ政治に暗い影を落としつつある。

米国債の価値が大きく毀損され将来にわたってアメリカ合衆国の政治的選択肢を狭め国民生活を圧迫する可能性が出てきた。日本やヨーロッパは交渉の時間を稼ぎ、中国は消耗戦に勝機を見出している。

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金融市場では「アメリカ売り」が起きている。株が上がっても国債が売られ株が下がっても国債の価値が戻らないという状況だ。トランプ大統領の経済政策は中長期的にはインフレを招くものと理解されているが国際金融は逃げ場をなくし特に短期の米国債が消極的に選好されてきた。今回トランプ大統領が破壊したのは世界経済ではなくアメリカ合衆国の信頼だった。

これまで出鱈目なことを言っていた人がまともなことを言おうとしても混乱が加速するだけである。「何がまともなのか」がわからないためだ。ケネディ厚生福祉長官はハシカの流行が始まると怖気付いてワクチンの重要性を訴え始めたが同時に怪しげな説も流し続けている。

トランプ大統領もベッセント財務長官に説得されている時に「インサイダー取引疑念と思われても仕方がない」掟破りの情報発信を行っている。中には相場操縦を通じてお友達を儲けさせようとしているのだろうと考える人もいるようだが(実際にXではそのような投稿が飛び交っていた)おそらくは株式市場の仕組みが理解できていないのだろう。

ただ、トランプ氏が今回の市場混乱を教訓として心に刻んだと考えるのは早計だ。関税の一部停止を発表する数時間前、株価急落のさなか、SNSに「買いの絶好機だ!」と投稿。インサイダー取引を助長しかねないとの批判も上がった。

トランプ氏、金融市場の動揺懸念 相互関税停止、米財務長官が存在感(時事通信)

ブルームバーグも「トランプ氏、米株急騰直前に「買いの好機」発言-ルール違反の指摘も」とこの発言を問題視している。

反省しない人というのは恐ろしい。誰が見ても明らかな失敗だったがホワイトハウスは「これは当初から予想された動きである」と強弁して見せたそうだ。

個々の国や地域との交渉に入る前に、派手な関税を仕掛け、一時停止ボタンを押す――。これは当初からの計画だったのだと、ホワイトハウスは主張している。

【解説】 後退か、それとも戦略なのか トランプ氏が世界貿易戦争の瀬戸際から引き下がる(BBC)

おそらくベッセント財務長官は今回の危機を十分に理解しているが表向きはトランプ大統領に恥をかかせるわけにはいかない。予測不能なトランプ大統領にとって「失敗」は到底認められるものではないため「これはトランプ大統領の狙い通りだった」と主張し続けなければならないのだ。

政権高官:ベッセント財務長官は今回の停止措置を称賛し、トランプ氏が「自らに最大限の交渉力をつくり出した」と評価。市場の変動が大統領の判断に影響したかとの質問には、各国がホワイトハウスに交渉を申し入れていることの直接的な結果だと示唆した。

「冷静になれ」から一転、トランプ氏が中国除く関税停止を発表 何が起きたのか(CNN)

風向きが大きく変わったため、日本政府はトランプ大統領の誘いに応じた形で形式的に何かを差し出せば良くなった。トランプ大統領と側近の目は中国に向かっておりなおかつ金融市場の動揺がアメリカの財政を破綻に追い込みかねないことがわかったからだ。幾分「アメリカ合衆国の足元を見る形」で交渉ができる。

これまで個人的には日本は防衛をアメリカに依存しカードを持たないと感じてきたのだが、実は過去の蓄積を通じて形成した大きなカードを持っていたということがわかった。

アメリカ合衆国(ベッセント財務長官)は財政破綻の可能性と国内世論の動揺を抱え込むことになったばかりでなくトランプ大統領という不確定要素を処理しなければならない。

一方で中国は経済政策の失敗の矛先を共産党からトランプ政権に向けることができる。消耗戦になれば中国の方が圧倒的に優位だ。トランプ大統領は振り上げた拳をおろせずにいるが、いくつか融和的な政策を打ち出し貿易戦争の激化を抑えようとしている兆しも見えてきている。ヨーロッパは報復関税の発動を一時停止しアメリカ合衆国の出方を伺う。

アメリカの株価は激しい上下動を繰り返している。

今日のダウ平均もナスダックも大幅下落で終わった。成長の鈍化が直接のきっかけだが「高値のうちに資産を処理してしまおう」という人たちもいるのかもしれない。一方でアメリカの株式市場に乗り遅れを感じていた日本人も多いようで先週には「この際にアメリカの株を買っておこう」と考える人たちも増えていたそうだ。これまでアメリカの株は儲かると知人などから聞いて羨ましいと感じていた人たちも多かったのかもしれない。

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