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AIによる政府職員の監視 マスク氏の登場で一気に「SFみ」が増す

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株価の混乱からアメリカ合衆国で意味の崩壊が起きているということがわかる。民主主義と人権を擁護する立場から見れば我慢ができない現象なのだがまるでSFのような動きも起きていると面白がることは可能だ。

2004年に作られた「アイ・ロボット」(アシモフの「私はロボット」が下敷きになっている)では暴走するAIが出てくる。イーロン・マスク氏は連邦政府の監視にAIを使っていることを明らかにした。仮に悪意があるプログラムが含まれていたとしてもトランプ政権の人たちは対応ができないだろう。通信アプリ「シグナル」すら使いこなせないのだから。

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もともとは選挙キャンペーンだった。トランプ政権はフェイクニュースを大量に拡散することで「何が本当なのか」をわからなくさせた。あまりにもたくさんの嘘が拡散すると人々の判断能力は擦り切れ使い物にならなくなる。

こうしてまんまと大統領に返り咲いたトランプ大統領は今度は「現在は非常事態=戦争である」と言い出した。このため敵性外国人法を使い移民を裁判なしで追い出すのは合法だと主張している。

最高裁判所は「司法の決定を行政が覆す」事はあってはならないと考えている。しかしながら(おそらく)白人国家を取り戻すためには多少の憲法規制の逸脱は仕方がないと考えているようだ。敵性外国人法の適用を認めてしまった。保守派の裁判官は「トランプは利用できる」と考えているのだろうが、アメリカ合衆国は公式に「戦争状態」に入った。

トランプ政権は今後ありもしない「関税戦争」を宣言するのだろうし、石破政権はその最初の協力者になった。自分たちの政権を維持するために大切な価値観と通商の基礎となる信頼を売り渡したのである。

これは極めて恐ろしい現象だ。当事者たちも一体何が本当で何が嘘なのかがわからなくなっている。

本来は保護すべき移民を裁判無しで放逐したことの是非を問われたリービット報道官は「行政手続きとしては間違いだったが、ギャングメンバーであることは間違いがない」「ギャングメンバーであることは間違いがないが根拠は示せない」「彼を開放するかはエルサルバドル政府が自主的に決めることであってアメリカ合衆国には指示をする権限がない」などと言っている。

またUSTRは一見もっともらしい式を使って関税率の根拠を示したが実際には根拠がないものだった。さらに式の代入にも間違いが見つかっている。第三者は「アメリカ合衆国は自由貿易を擁護するつもりはなく、まともな話し合いも無意味だ」と悟ったことだろう。またアザラシとペンギンに関税をかけることについては「抜け穴を塞ぐためだった」と主張している。

最も重症なのがケネディ長官だ。

はしかによる死者が2人めになった。葬儀に参加し「混合ワクチンには効果がある」とアナウンスした。しかし彼ははしかにはビタミンAが効果的だと主張していた過去があり、今回は「ステロイドと抗生物質ではしかが治癒した」と主張している。

ここから明らかに学べることがある。人々が安心してビジネスを行うためには「確かな地面」が必要だ。しかし確かな地面は一人ひとりの発言によって作られている。特に権力構造が意味を揺らし始めると不確実性が増大しまともな市場経済は成り立たなくなってしまう。

ケネディ長官のようにいっけん反省している人もいるが、長年の嘘が染み付いておりもはや「正しいことを言おうとしても何が正しいのかわからなくなってしまった」という人まで出てきてしまった。

もう取り返しがつかない。

アメリカ市民は非常に怒っており「基本的事実が破壊されている」と各地でデモを行っている。しかし第二次世界大戦前夜のドイツが民主的に独裁者を許したことで惨劇が生まれたことを考えると「もう手遅れ」だろう。

そんななかイーロン・マスク氏とトランプ政権の間にも緊張が生まれている。白人が主導的地位を失った南アフリカ出身のマスク氏はおそらく白人中心の社会が自由主義経済を牽引すべきだとは思っていて、ヨーロッパの極右政党などを熱心に支援している。しかし基本的には自由貿易主義者である。

ところがトランプ政権には「アメリカ優先主義」の人たちが大勢いる。ポリティカルサイエンティストのイアン・ブレマー氏はこれをDark MAGA(グローバリスト)とDeep Maga(アメリカ優先主義者)の戦いと整理した。イーロン・マスク氏のようなDark MAGAがDeep MAGAに否定されたというのだ。

しかしながら冒頭のAIのようにDeep MAGAが制御も理解もできない装置が連邦政府に「試験的」に組み込まれつつありトランプ大統領も資金面ではイーロン・マスク氏に期待を寄せ続けている。

このように「意味」が揺れることにより当事者たちでさえ何が真実化がわからなくなると様々な人達が自分たちの都合に合わせた装置を埋め込むことになり、SF的な混乱まで予想される。

石破政権が今接近し日本が引き続き依存しようとしているアメリカ合衆国はかつてのアメリカ合衆国ではない。世界中の情報網からも切り離されつつあり自分たちがどこに向かっているのかすら把握できなくなりつつある「ある意味のダイナミックさ」に溢れているのが今のアメリカ合衆国なのだ。

マスク氏はイデオロギーとしては否定されつつもすでにライバルを潰すことができる重要な情報を手に入れ引き続き情報を得続けることができるバックドアも仕掛け終わっている。通信アプリ「シグナル」すらまともに使えないDeep MAGAがこれを見破ることができるはずなどない。

一例として、環境保護局(EPA)ではトランプ氏が任命した高官から、DOGEがAIを導入して、アプリやソフトウェア上でトランプ氏やマスク氏に敵対的とみられる通信内容を監視していると聞いた管理職がいる、と2人の関係者は話した。

マスク氏のDOGE、米政府職員監視にAI利用=関係筋(REUTERS)

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