8,700人と考え議論する、変化する国際情勢と日本の行方

目の前の高い高い波を呆然と見つめる石破政権と今後失われるかもしれない雇用について考える

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

もうすぐ高い高い波が襲ってくる。「これは何だ」と大騒ぎになるのがパニックだが、情報が処理しきれなくなるとそのまま立ちすくむことになる。

今の日本の政治はどうやらパニック状態のようだが、どちらかといえば立ちすくみ型の静かなパニックのようである。

なにか比較できるものはないか?と思った。リーマンショックが参考になりそうだ。アメリカの金融システムがパニックを引き起こして世界に波及。結果的に自民党は政権を失った。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






そもそもリーマンショックの落ち込みはどの程度だったのか。「安易に津波に例えるなよ、東日本大震災で被災した人がかわいそうだろう」というご批判は覚悟で振り返ってみたい。

これは、以下の図表からも一目瞭然だ。この図表は、2001年1-3月期から2021年1-3月期における実質GDP(季節調整値)の推移をグラフにしたものだが、今回のコロナショックでは「558兆円→544兆円」となり約14兆円の落ち込みとなっている。しかしながら、リーマンショックでは実質GDPが「529兆円→482兆円」となり、約47兆円も落ち込んでおり、この落ち込み幅(約47兆円)は約14兆円の3倍以上もある。このグラフからも、リーマンショックのインパクトがいかに大きかったかが読み取れるはずだ。

「コロナショックはリーマンショックを超えた」報道は、なぜ間違っている?GDPの読み方(キャノングローバル戦略研究所)

このリーマンショックでは80万人近くの雇用が失われた。GDPの落ち込み額よりも急激な変化が引き起こした人員削減だったといえる。

一方、リーマンショックでは4四半期経過時点が雇用喪失のピークで79.3万人の減少になっているから、雇用者数への影響という意味では今回のショックの方が規模が大きい。

コロナショック下で、雇用調整はどの程度行われたか―リーマンショックと比較して― 坂本貴志(リクルートワークス研究所)

リクルートワークス研究所の資料は興味深い指摘をしている。リーマンショックによって学んだ日本企業は雇用調整をやりやすくする方向に「進化」している。つまりちょっとした外的変化を受けるとすぐに従業員を切り離すことができるようになっている。

また、産業構造も大きく変わっている。

すでに日本は自動車産業のみが支える構造に変化していたため、リーマンショックでは自動車産業が大きな大きな影響を受けた。

国内市場が巨大と言えない日本は、世界にモノやサービスを売って稼いで行かなければならない。日本の貿易収支を見ると、2000年代前半までは自動車だけでなく、電気機器など多くの産業が、世界に輸出し稼いできたことが分かる[図表1]。しかし、2000年代後半には、日本の稼ぎのほぼ全てを自動車が占めるという構造に変わってしまった。

日本の稼ぎ方-自動車業界の構造変化(ニッセイ基礎研究所)

しかし次第に雇用の受け皿は小売・飲食・宿泊などの低付加価値型のサービス業に移行している。これは「もうアメリカ合衆国の市場でショックが起きたとしても日本はそれほど影響を受けない」ということを意味する可能性がある。一方で自動車産業がダメージを受けるとそれを吸収する代替産業もないため、雇用に対する波及効果は大きいといえるかもしれない。

いずれにせよEVの普及などにより「遅かれ早かれ」訪れるだろう変化が今訪れている。自主的な構造変革が難しい日本にとっては必要なガイアツという評価も可能だ。

ただ、リーマンショックでも関わらず大した影響は受けなかったという人もいるかもしれない。日本社会は他人の不幸を見て見ぬふりをしてシステムから切り離すことによって影響を最低限に抑えるのが身を守る最善の策であると学んでいるということになる。

冒頭で「批判覚悟で津波に例えた」と申し上げた。なぜか。実は今回のインパクトを考えるうえで「これが津波なのか構造的変化なのか」という点が極めて重要になってくるからだ。

ご存知のように日本は貿易ではなく投資で稼ぐ国になっている。NHKからそれぞれ引用すると次の通り。

財務省が発表した国際収支統計によりますと、去年1年間の日本の経常収支は29兆2615億円の黒字で、比較ができる1985年以降では黒字幅が過去最大となりました。

去年1年間の経常収支 黒字額29兆円余と過去最大に(NHK)

このうち貿易による稼ぎを示す「貿易収支」は、輸入する原油の価格が引き続き上昇した一方、半導体製造装置や自動車の輸出が増えたことなどから、去年より赤字幅が縮小し3兆8990億円の赤字となりました。

去年1年間の経常収支 黒字額29兆円余と過去最大に(NHK)

企業がいくら海外で儲けようが自分たちには関係がないという人もいるかも知れないのだが、実は年金資金も海外で運用されている。この記事はトランプ大統領が再選されトランプラリーに沸き返っていた当時のものになる。

現在は2023年10月にアメリカの経済の先行きが疑問視され国債価格上昇・株価下落した当時まで戻ってきているのだが、トランプ大統領がここで政策を変えてくれないと更に株価が長期にわたって下がり続けることになる。すると企業の収益が悪化し年金財政にも深刻なダメージがもたらされる。

上院が債務上限の拡大と減税について議案をまとめたが下院が要求する減税との間に大きな隔たりがある。議会が直前までまとまらないことは珍しくないので過度に悲観視する必要はないのだが、それでもアメリカの金融市場の混乱は暫く続く可能性があるだろう。

2〜3年でこうした状況が落ち着くならば「大きなショック」で済むのだが、仮にこれが構造として定着してしまうとリーマンショックやコロナショックではなくなってしまう。すでにトランプ・ショックではなく構造的な転換だという指摘は出ている。

津波に例えると「もちろん、そもそも津波に向かって走っていってはいけないし、今後地形は大きく変わるでしょうね」ということだ。

著名な資金運用者ビル・グロース氏は投資家に対し、「落ちてくるナイフをつかもうとしてはいけない」と警告。「これは即座に悪影響が及ぶことを除けば、1971年の金本位制廃止に匹敵するような、経済および市場における歴史的な出来事だ」と指摘した。

プロも逃げだす米国株安、個人投資家は逆張り-10年後の利益期待(Bloomberg)

ここまで非常にざっくりと状況を見てきたが、それだけでもこの程度の問題は出てくる。

  • 日本はそもそも輸出にどれくらい頼る経済なのか
  • 現在の雇用慣行は労働者をどの程度簡単に切り離せる構造になっているのか
  • そもそもこれはショックなのか構造的な変化なのか

さて、ここまでが長い長いまえふりになっている。政治はどのように対処しているのか。

  • 石破総理はトランプ大統領との電話会談を「目指して」いる。つまり対話の目処が立っていない。
  • またその時のカードとしては対立は避け「トランプ大統領の心を打つ追加のカードを差し出す」方向で調整している。
  • 景気への影響はこれから精査する。
  • 与野党とも「有権者に納得してもらうためには消費税の減税が有効なのではないか」と考える人が増えている。
  • ガソリン減税を推進すべきだという人もいる。

そもそも「対話が可能なのか」など細かな論評は差し控えるが、官僚も事前になんら検討をしていなかったことがわかると同時に消費税の食料品減税程度の対策でなんとかなる程度の認識しかないとしていることがわかる。

もう一つの特徴は「アメリカ合衆国」に注意が向いており、ヨーロッパなどと強調してトランプ大統領に翻意を促すような行動が全く選択肢に入っていないということも気がつく。

憲法改正のための緊急事態条項などには熱心だったが経済的なポップアップイベントに対しては何ら準備ができておらず「平時から有事」という意識の切り替えも進んでいないということがうかがえる。残念ながら平和ボケの体質は与党だけでなく永田町全体に広く蔓延しているようだ。

シンクタンクを作らなかったつけが回ってきたとしてまとめようと思ったのだが事態はもっと深刻なようだ。眼の前の選挙で政権を失うかもしれないという問題にばかり意識が向かい世界で何が起きているのかに全く関心がなくなっている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

+8

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です