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思ったより深刻なフランスの政治分断 ルペン氏の立候補停止を巡り

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このところアメリカの政治分断について書くことが多かった。ABCニュースなどの報道が豊富に手に入り、有り余る「破綻したアメリカ」情報が入ってくる。

今回フランスについて調べてみてフランスの状況は思ったより悲惨なんだなと感じた。ルペン氏が公民権停止措置を受け大統領選挙への出馬がほぼ絶望視されている。だが、フランスには政治や体制から見放されたと感じる人が大勢いてルペン氏を支持している。またヨーロッパの極右政党もこぞってルペン氏を支援し「今回の措置は逆効果だ」と主張しているという。ここにイーロン・マスク氏も加わり大きな社会的騒動が起きているようだ。

行き着く先は「善悪の相対化」であり、それが現実に起きているのがアメリカ合衆国である。

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事前には裁判所もそこまでは踏み込めないだろうと思われていたそうだ。政治的なハレーションが大きすぎるからである。

このような究極の制裁を裁判所が科すなど、結局のところは、そんなことはできないし、あり得ないだろう――というのが、これまでフランス政界全体でほぼ確立していた共通認識だった。

ル・ペン氏に被選挙権5年停止の有罪判決 フランス極右に衝撃(BBC)

しかし実際に「それ」は起こり、結果的にルペン氏は大統領選挙に出られなくなりそうだ。なお裁判は確定していないので4年の収監は免れている。

ではルペン氏は何をやらかしたのか。党の職員を「秘書」として登録しEUから資金を盗んだ疑いが持たれているそうだ。とんでもないという気がする。

RNは旧党名「国民戦線」時代の04~16年、党職員を欧州議会の議員秘書と偽り、EUから給与を受領。資金を党費に流用したとされる。公判は今年9月末に始まり、ルペン氏のほか、20人余りと党が罪に問われている。

極右ルペン氏の被選挙権停止を 公金横領事件で求刑―仏検察(時事通信)

当然多くのフランス市民もそう思っている。

Elabが大人1008人を対象に行った世論調査では、回答者の42%が今回の判決に満足とし、29%が「どちらとも言えない」としている。また、ルペン氏の被選挙権停止については、68%が「公正」、31%が「不当」と回答した。

ルペン氏のRN、被選挙権停止判決巡り全面対決-支持獲得にも活用(Bloomberg)

しかし支持者たちは「ルペン氏は既存の政治から迫害されている」と考えているようだ。彼らは自分たちも「疎外されている」と考えており、自分たちの自己認識をルペン氏に投影しているようだ。

ルペン氏は1日、パリで同党の議員らに「この怒りと傷は、抗議と忍耐の原動力として利用しなければならない」と語った。また、「私たちが選挙で勝利しそうになったため、体制側は核爆弾を引っ張り出してきた」と訴えた。

ルペン氏のRN、被選挙権停止判決巡り全面対決-支持獲得にも活用(Bloomberg)

疎外された人たちの一種の陰謀論だが、彼らにも彼らなりの言い分がある。実はバイル首相も司法大臣時代に同様の嫌疑をかけられた前歴があるそうだ。このときは「疑惑」で終わっているという。

バイル氏はミッテラン・シラク・マクロンの各大統領の下で閣僚を歴任し、自らも3度の大統領選挙への出馬経験を持つ73歳のベテラン政治家だ。政治的な後ろ盾のなかったマクロン氏が2017年の大統領選挙に出馬した際に逸早く同氏を支持し、以来、マクロン大統領を支えてきた。マクロン氏が大統領に就任した後、初代内閣で司法相に就任したが、自らが率いる政党に欧州議会の公金不正利用疑惑が浮上したことを受け(ちなみに、これは現在ルペン氏が係争中の罪状と同じ内容である)、1ヶ月足らずで辞任、それ以降は閣僚に就任していない。

フランス新首相を待つ難題(第一生命経済研究所)

当初今回の問題を日本の政治資金規正法と絡めて扱おうと思っていた。「政治にはある程度お金がかかる」という前提を置かなかければ政治家を不正に追い込むことになるだろうという主張にしたかったのである。

たしかにそのような側面もある。おそらくフランスでは政治闘争を全国展開するために法外なお金が必要になっており収拾がつかない状況になっている。党を維持する人はだれもが何らかの手段で不法にお金集めをしなければならないというような状況だ。

フランスの問題はそれ以上に深刻だ。もともと階級差が非常に強いフランスでは社会の中核から見放されたという怒りを持っている人たちがたくさんいる。日本と同じ中央集権国家なので国家官僚の影響力が非常に大きい。マクロン大統領は庶民の怒りを和らげるために自分も卒業したエリート養成校を潰すのだが、代わりに新しい養成校が出来上がってしまっているなどと言われることもある。

国家ぐるみのエリート養成に対抗するためには多額のお金が必要になる。

しかし問題のレベルは構造論では語りきれなくなっている。

見捨てられた人々は「社会の規範」に鈍感になる。規範を守っても搾取されるばかりだからだ。「相手の陣営もやっている」「自分たちを搾り取ったEUを騙して何が悪い」というような空気が蔓延すると社会規範は失われ収集がつかない社会混乱に発展するだろう。

アメリカ合衆国はすでに規範の崩壊状態に突入しておりトランプ大統領の岩盤支持層が形成されている。日本人は「トランプ大統領はどう考えてもでたらめな国家運営をやっているのに支持者たちは呆れないのだろうか」と考えるようだ。しかし、規範が相対化されてしまうと我々が現在持っているような「当たり前の感覚」を社会全体で維持するのは極めて難しくなる。

フランスもアメリカも革命国家であり形式的には平等が保証された国なのだが実際には社会階梯を上昇できないという人たちが多くいる。はしごを昇れない人たちが民主主義を通じて自分たちを苦しめる選択を自主的に行わされているという理不尽さが少なくともアメリカ合衆国には存在する。

民主主義とは極めて難しいものだなあと感じる。一旦人々が民主主義を信じなくなると崩壊が止められなくなる。

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