長島昭久内閣総理大臣補佐官が共同通信がフェイクニュースを流していると糾弾しており支持者たちが共同通信批判を強めている。政権の主要メンバーが特定メディアを名指しで「フェイク」批判を行うなどあってはならないことだが、不幸中の幸いというべきかそもそもこの指摘はメディアでは広がらなかった。
他者を排除する狭いコミュニティができていることがわかると同時に親米派の焦りが色濃く伝わってくる。
長島氏の指摘が虚偽であるなどというつもりはない。
内容は当時の岸田内閣が蔡英文氏の安倍総理の三回忌(日本の「回忌」は葬儀を1と数えるため、台湾では二周年と表現するようだが)訪日を阻止したというもの。
共同通信に対して蔡英文事務所の指摘を当てたうえで「なぜこのような報道をしたのか」の説明を求めるのは極めて合理的であろう。またそれをSNSで公表することも間違っているとは思わない。
しかし長島氏は最初から「フェイク」だと決めつけており、支持者たちも共同通信を懲らしめるべきだと息巻いている。ちなみにキネティックとは物理攻撃を指すそうだ。つまりSNSで素地を作っておいて台湾侵攻をやりやすくしようとしているという主張のようである。
ただこのニュースを取り上げたメディアはなかった。玉木雄一郎氏などと比べるとSNSでの情報発信力は小さなもので、メディアが取り上げるほどの大きさにはならなかったようだ。
世間一般の広がりに欠ける一方でコメント欄は異様な盛り上がりを見せている。これが可視化されることで「ああこの人たちに近づくのはやめておこう」という気分になる。民主党出身者のSNS戦略ではよく見られる「仲間内のわちゃわちゃ」の弊害だが、当事者たちが気がついていないという共通点がある。
具体例をあげよう。ここに参加した人が「これは大変だ」と家族に説明をする。当事者としては止むに止まれぬ気持ちで是非ともこれを伝えなければと思っている。
この時にキネティックの前触れだなどと説明すると大抵の人は警戒心を抱く。とはいえ否定もしたくないので「お父さん、キネティックって何?」と聞く。だが支持者はそれを答えられないまま「とにかく台湾侵攻は目前だ!」などと訴え続ける。
家族は
ああお父さんはどこか遠いところに行ってしまった……
で終わりになるだろう。
Quoraで政治スペースをやっているとたまにこういう人が出てくる。
もちろん、一方的に長島昭久さんを批判する気にはなれない。アメリカ合衆国の政治が大きく変容しており長島さんのようなこれまでのアメリカとの繋がりがある人の影響力が薄れている。
焦りがあったとしても当然のことといえる。
現在、ウクライナ問題の交渉が行われているが、事前にウィトコフ特使がウクライナ東部はロシア領であり「あとはヨーロッパがそれを認めるかどうかだ」と主張した。またそれを認めることでゼレンスキー大統領の地位が危うくなると指摘している。つまり「ゼレンスキーは大統領の地位に固執し現実を受け入れられないのだ」と言っている。
これはウィトコフ氏が完全にプーチン大統領に取り込まれているという印象を与える。
これを台湾情勢に置き換えるとアメリカ合衆国と中国が台湾や日本の頭越しに東アジアの勢力圏を分け合う協議をおこなっているのと同じことになる。
一方で共和党タカ派のルビオ国務長官は「パナマ問題はルビオが担当する(から失敗したらルビオのせいだ)」とか「ディポーテーションはルビオが勝手に決めた」などと失敗や批判のスケープゴートにされることが増えた。
さらに石破政権になってからは外務大臣主導で中国への接近姿勢を強めている。アメリカ合衆国は日本を関税のターゲットにしているのだが(実はターゲットにされる特定の国の中に含まれてしまった)中国とは戦略的互恵関係を強化する方向で話が進んでいる。
そもそも石破総理の支持率は急落しており春以降も政権が続くのかが疑問視され始めている。
関税は経済上も重要なテーマのため本来は別記事にすべきなのだろう。事務方の作業量が膨大になるため「優先国」を決めて貿易戦争を仕掛けるというのが現在のトランプ政権の方針のようだ。日本は「公開狙撃」された韓国と同列になってここに加わった。産業界からしてみれば「石破政権のスタッフは何をやっているのか」ということになりかねない。
ある当局者によれば、この問題を議論する際、トランプ氏は貿易を悪用する国・地域として、欧州連合(EU)とメキシコ、日本、韓国、カナダ、インド、中国を挙げたという。
トランプ相互関税は一部の国・地域除外か、一斉射撃でなく的絞る公算(Bloomberg)
旧来の共和党とのつながりを持つ日本の親米派にとってはかなり壊滅的な変化だろう。日本の親米派は内心では日米同盟の「片務性」を気にかけている。このため中国の囲い込みのためには日米同盟が役に立つと宣伝し介入の材料としての台湾を支援してきた。
つまり日本の親米派は日本とアメリカの双方からの動きによりそのシナリオに大きな狂いが生じている。トランプ政権ができてからまだ2ヶ月あまりなのだがその変化のスピードは人々の想像を超えていた。この先何が起きるのかは誰にもわからない。
日米同盟推進はとしてはどうしても世論を味方につけておきたいところだろう。そのためにはSNSは大切なツールだ。だが実際には「特定の支持者たちのインフォメーションバブル」が形成と強化というありふれた失敗に流れてしまっている。
日米同盟が日本の安全保障にとって重要と考えるなら、ぜひともここで立て直しを期待したいところである。