トランプ大統領はリアルポリティクスを実践する立派な政治家だと主張する人は多い。しかしプーチン大統領に取ってみれば単なる馴染のオリガルヒだった。トランプ大統領は完全にプーチン大統領に取り込まれてしまっている。戦争終結はないだろうが欧米の団結を切り崩したということだけでもプーチン大統領の勝利だったと言ってよいだろう。
プーチン大統領はトランプ大統領の弱点を知っている。意外とナイーブなキリスト教徒であり倫理から超越したリアルポリティシャンではない。
トランプ大統領はプーチン大統領に夢中になっている。プーチン大統領からみたトランプ大統領とウィトコフ特使はともに馴染みのオリガルヒである。プーチン大統領は「オリガルヒ語」を熟知しているのだろう。
プーチン大統領との協議についてトランプ大統領は、「土地について話すことになると思う。戦争前とは大きく異なる。発電所についても話すことになるだろう。それは大きな問題だ」と述べた。
米ロ首脳、18日に電話協議の見通し 「土地や発電所」について話すとトランプ氏(BBC)
しかしながらオリガルヒを操るためにはしつけも重要だ。「待て」と命じたら主人が動いて良いというまで動いてはならない。プーチン大統領はウィトコフ特使に8時間「待て」と命じた。「この人は8時間経っても帰らないんだな」ということも確かめたかったのかもしれない。読売新聞は威圧と言っている。しかし威圧は敵対者に対して使われる表現だ。プーチン大統領は「自分に従うもの」と「自分に従わないもの」を区別しているだけでアメリカを威圧すべき対象とは考えていないだろう。
英スカイニュースは14日、ロシアの首都モスクワを13日に訪問した米国のスティーブン・ウィトコフ中東担当特使が、プーチン大統領との会談のため少なくとも8時間は待たされたと報じた。プーチン氏は首脳会談などでも遅刻が多く、スカイニュースは主導権を誇示するための「古典的な威圧の手法だ」と伝えた。
「遅刻魔」プーチン氏、アメリカの特使を8時間待ちぼうけに…「古典的な威圧手法」の指摘も(読売新聞)
誰かをしつけながら手元においておくためには他の誰かを指さして「あいつはキライだ」と宣言する手法も有効だ。軍人出身のケロッグは気に入らない。だからトランプ大統領に頼んで排除している。今や誰といつ交渉するかはプーチン大統領が決めている。つまりトランプ政権の人事さえ掌握してしまったのである。トランプ大統領はプーチン大統領から依頼されたと認めてしまっている。
トランプ米大統領は15日、ウクライナとロシア担当のケロッグ特使の職務をウクライナのみに限定したと明らかにした。ウクライナ停戦協議を巡り、ケロッグ氏がウクライナ寄りだとロシア側から苦情が出ていたとされる。
ケロッグ米特使の職務限定、ロシアが「ウクライナ寄り」と批判(REUTERS)
トランプ大統領は狂人戦略の使い手だという人がいる。しかし実際にはしつけがよく行き届いた存在にすぎない。
ではなぜトランプ大統領はプーチン大統領に勝てなかったのか。
プーチン大統領の元側近のトランプ大統領攻略マニュアルをテレビ朝日が紹介している。
- トランプ氏があなたを助けるのは義務だと思われるような発言はしない。
- 常に彼(トランプ氏)に感謝しなさい。「やり過ぎ」はない。
- トランプ氏は高貴に映りたがっている。感謝だけでなく高貴さについても言及する。
- 彼が行うすべてのことを「前例のない」などと称すこと。最上級の表現を恥ずかしがらない。
- あまり多くを求めない。
- 彼の間違いを指摘するのはやめる。
- 感情的にならない。
- トランプ氏のチームを批判しない。
- トランプ氏と会う前に新約聖書を読み直し、キリストが語った傲慢さの害と謙遜さの偉大さについて思い出す。
- 上記を冗談だと思うなら、あなたはトランプと交渉する準備ができていない。
人の目に抑圧されている日本人は「倫理を超越してくれる」人をヒーローだと考える傾向がある。これは彼らの内面にあるコンプレックスの裏返しだ。自分たちあ社会的良識や常識に反抗できないが、その分だけ強いアンチヒーローが倫理を超越してくれることを期待してしまうのかもしれない。
その意味では9条は非常に重要だ。トランプ大統領は中途半端なキリスト教的倫理観に抑圧されておりその支配から逃れられない。その現れがノーベル平和賞に対する熱望だ。ビジネスとキリスト教的倫理観がトランプ大統領の二面性を作り出しているとプーチン大統領とその側近たちはわかっている。
仮にリアルポリティクスこそが正義だとするならば、プーチン大統領こそがリアルポリティクスの使い手ということになってしまい、日本の一般人が考える「アメリカこそが正義」という図式から外れてしまい、結果的に理論破綻してしまうのだ。
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