Bloombergが石破総理はトランプ大統領をガイアツとして利用できるのではないかと書いている。石破総理の積極防衛論とトランプ大統領の要望が合致するからである。しかし石破総理の政策実現は難しいのではないかと感じる。日本人の考える政治の図式は極めて単純化されている上に言語化が苦手だ。
そんな事を考えていたら「石破総理が深夜の緊急記者会見」という話題が入ってきた。10万円の商品券を配ったことが問題視されているらしい。このまま退陣騒ぎが起きるのだろうなあと感じた。
Bloombergが「【コラム】「ブギーマン」トランプ氏が問う日本のタブー-リーディー」という記事を出している。石破総理はトランプ大統領を悪役=ブギーマンに仕立てて自分の考える独自防衛論を推進できるというのだ。なるほどという気がする。
トランプ大統領にとって日米同盟の片務性は単なる恫喝の道具だが、確かに「日本の自主独立」を推進したい人たちには利用価値がある。
問題は石破総理が自民党のコアの支持者たちから「保守」と見られていないという点にある。いわゆる典型的な保守とされる安倍総理の政治的メッセージは突き詰めれば「政府がきちんと保護してあげますから皆さんは変わらなくてもいいですよ」という保護主義的な現状容認論だった。自主防衛の気概はなく「アメリカに守ってもらいたい」「寄らば大樹だ」という傾向も強い。一方の石破総理は自由主義者(リベラリスト)だ。
一部の真面目な保守主義者からは「すべてを一緒くたにするな」とクレームを入れられそうだがいわゆる日本の保守主義者は「保守=保護」と理解しており自主防衛を保守とは考えない。
日本では東西冷戦を背景にした「保守・自由主義・正義. VS リベラル・社会主義・悪」という単純化された図式がある。石破総理はリベラルな側に組み込まれており政府の保護を熱望する保守主義者は石破総理を支援しない。
しかしながら問題はそれだけではないようである。
少子高齢化が進展し地方は衰退している。これを転換するためには国民がマインドセットを切り替える必要がある。これを行おうとしたのが民主党政権だったが「変化に怯える」人たちを刺激しただけだった。
安倍総理は「悪いのは民主党政権でみなさんは悪くないですよ」と語りかけた。さらに縮小経済を「デフレ」と言い換え、インフレに転換すればすべての問題が解決すると説明した。民主党の失敗は「皆さんは変わるべき」というメッセージだけを発出し「どう変わればいいか」を指示しなかった点にある。人々はますます変化を恐れ憎悪するようになった。
安倍総理の主張ははわかりやすく言えば嘘であり問題の先延ばしに過ぎないのだが多くの日本人はこれに飛びついた。自分たちは変わらなくて済む上に、デフレさえ解決すれば問題は雲散霧消すると思うことができたからである。
現在、安倍総理に後継者はいない。これは当然だ。日本経済は再びインフレになりつつある。春闘では正社員やパートの給料が上がることが確実視されている。しかし構造上この賃上げは国民経済に波及しないこともわかっている。インフレは解決ではなく新たな問題に過ぎなかった。
さらに高額療養費の問題で「石破総理は弱いものいじめをしている」という印象もついた。時事通信の世論調査では不支持が再び大きく伸びているそうだ。
人々は問題について辛抱強く考えるより「誰かのせい」にして逃げたい。そこで降って湧いたのが10万円商品券をきっかけにした石破総理の退陣論だ。
石破総理の党内基盤はいよいよ脆弱なものになっているようだ。年金改革法案を先延ばしにするのは卑怯であるという指摘を受けた石破総理は党内議論の加速を指示したが森山幹事長が「いつまでにまとめきれるとは言えない」と逃げてしまった。結果的に「党内がまとまらないから」という理由で自民党は議論から逃亡した。
これに飛びついたのが減税議論で埋没しつつある立憲民主党だった。
現在、財務省解体という意味不明な政治運動がじわじわと広がっている。新聞も読まなくなり政治を理解できなくなった人たちが「財務省さえなくなれば税金を取られずに済む」と考えて始めた運動である。学校で政治リテラシーを育ててこなかったこともあり「減税=正義」という単純化した理解も広がっており「手取りを増やす国民民主党やれいわ新選組」の支持が伸びている。
確かに欧米型の経済は政府規制をなくせば成長するかもしれない。しかし「がんばった分だけ儲けが自分たちのものになるから」という前提がなければならない。日本は社会を信頼しなくなっており結果的に縮小均衡を自主選択している。
人口動態がかなり変化しているため持続的な賃上げがあったとしてもそれが全体に波及しなくなっている。意識なき収奪経済のもとでは「頑張って働くだけ損」なのだ。ここで政府が介入しなくなればおそらく縮小経済は自己選択の結果として加速してゆくだろう。
今回の10万円商品券問題を政治問題化したいのは立憲民主党だけではない。自民党の中にも「保守(という名前の保護主義)」を再び自民党の党是にしたいという人たちやこのままでは参議院選挙を戦えないと焦りを募らせる人たちが大勢いる。時事通信は自民党の中の反応をわざわざ記事にしている。これらが合成された結果まずはしばらくの間は石破おろしが加速するのではないかと考えられる。
だが、冷静に考えてみれば総理大臣が変わったとしても「縮小均衡を選択しながら現状維持を望む」という有権者の矛盾したオーダーに答えられる政治家はいないはずだ。これは政治家の資質の問題ではなく構造的な問題だ。この方程式に解はない。
仮に今回の問題が「大山鳴動」したとしてもそこに解が存在しない以上は石破総理を退陣させて新しい総理大臣を選ぶとしてもそれは参議院選挙直近でなければならない。つまり問題が露呈しないうちにその場限りで選挙を乗り切るようなことしかできないのではないか。
トランプ旋風により世界経済や安全保障の枠組みが大きく変わりつつあるが、国会議員たちにはその様子は全く見えていないようだ。
しかしながら「トランプ大統領」という誰の目にも明らかな変化はガイアツとして確実に日本人の意識を変えつつある。
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