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日本は米に700%の関税をかけている!

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アメリカのレビット報道官が得意げに手元のカードを読み上げた。その中に「日本の米の関税は700%」という主張が含まれており波紋が広がっている。

「そんな無茶苦茶な」と思う人もいるだろうが、実際に日本政府がそう説明していた時代がある。具体的な数字は778%だった。

トランプ政権がかなり昔の記憶を更新できていないということがわかると同時に透明性を欠いた日本政府の手法が相手に誤解を与えているともいえそうだ。

これまで砂のお城のように積み上げてきた「丁寧なごまかし」がトランプという大波に飲まれかけている。

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日本は関税額を誤魔化している。1kgあたり341円の関税がかかっているが率としては公表していないという。

農林水産省の担当者はブルームバーグに対し、700%という関税率は日本政府が提示したものではないと指摘。政府は関税率をパーセンテージで示していないと説明した。

トランプ米政権、日本がコメに「700%関税」と非難-標的の可能性(Bloomberg)

ただし現在の関税はこれより低く設定されているようだ。700%とは20年前の数字だと読売新聞は伝えている。

農林水産省は2005年、WTOの貿易自由化の交渉の際に、当時のコメの国際相場などを基にして関税率を「778%」と換算しており、レビット氏はこの頃の関税率を念頭に発言したとの見方も出ている。

「日本がコメに700%もの関税」…米大統領報道官、20年前の数字念頭に発言か(読売新聞)

GHQは日本の共産主義化を抑え込むために農家の懐柔を図った。農家は小作から開放され「経営者」として自民党の大きな支持母体になっている。このため自民党にとってコメ農家の保護は極めて重要なテーマで有り続けた。一般に価格政策と説明されている備蓄米の放出も目的はJA系流通の救済策だろう。民間業者と比べて買い負けている可能性がある。

当時の政権は、おそらくは保護を大きく見せるために内外価格差を関税相当額にすると778%になると宣伝していた。ところが安倍政権の最初の年に関税換算率の数字が778%から280%に変更されている。

何があったのか。

民主党政権時代の自民党はTPPに反対していた。政権を獲得した選挙では「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」との公約を掲げている。ところが政権を獲得するとオバマ大統領に追従姿勢を見せTPP推進派に転じた。

当初、米国を含む12カ国の間で交渉が行われていたTPPは、オバマ前政権時に、アジア地域における中国の台頭への対抗策として考え出された。

トランプ米大統領、「ひどい」TPPへの復帰検討を指示(BBC)

このためコメの保護政策を小さく見せる必要が生じたのではないかと考えられる。結果的にコメ・ムギ・乳製品・砂糖の関税は維持されたようだ。

日本の農業については、一定量の輸入枠の設定などにより米、麦、乳製品、砂糖は高関税を維持。牛肉などは関税を下げるが、それを帳消しにするような円安が2012年以降、起きている。農業にはほとんど影響が生じないのに、国内対策が講じられる。

TPP発効へ 「米抜き」で日本に好機(共同通信・キャノングローバル戦略研究所配信)

この一連の意思決定は「自民党はブレたのではなく国益は守ったのだ」と説明されてきた。

これに対し、稲田氏は「野党時代、一政治家としてさまざまな発言をしていたことは事実だ」と答弁。「国益を守る基準なくしてTPPに突っ込んでいくことに大変危機感があった」と釈明した上で、「安倍晋三政権になって、聖域なき関税撤廃ではないということを確認してTPP交渉に入り、国益を守ってきた」と説明した。

稲田朋美防衛相、過去の「TPP反対」でも追及 「安倍政権で国益守った」と説明(産経新聞)

では一体コメにはどれくらいの関税がかかっているのか?という話になるのだが、これが意外と複雑な議論になる。

日本人はコメなら何でもいいと考えているわけではなくうまい米を選り好みして食べている。平成のコメ騒動のときには「タイ米には臭いがあってボソボソとしていて食べられない」と文句を言っていたくらいだ。現地の人は「香り」と考えてありがたく食べていることを考えると随分ともったいない話だと感じる。

つまり飼料用に使われる安いコメと日本人が好むようなブランド米ではそもそも値段が違って当たり前である。つまり「コメ」を全部で均してもさして意味のある数字は出てこないのだ。

結果的にトランプ政権から昔の数字を持ち出され言いがかりをつけられることになってしまっている。そればかりか急激なコメの値上がりにより石破政権の政権担当能力にも疑問符がついている。

日本の農政は極めてわかりにくい。どれくらいわかりにくいかというと農水大臣でさえ食糧法を理解していないほどだ。江藤農水大臣は車を運転する前にマニュアルを読まない人なのだろう。あるいは誰かが運転してくれているのかもしれない。

江藤拓農林水産相は2月28日の衆院予算委員会分科会で、備蓄米放出に関連して、食糧法には価格の安定は「書いていない」と4回繰り返した。実際には法律の正式名称に「価格の安定」が入っているほか、条文にも書かれている。指摘を受けて訂正したが、担当閣僚としての資質を問う声も出そうだ。

江藤拓農水相、食糧法に価格の安定「書いていない」4連発 実際は法律名にも条文にも明記(産経新聞)

説明する側がこの体たらくだから、説明される側の意識が変わらないのも当たり前かもしれない。農水省はアメリカに丁寧な説明をする前に農水大臣への「レク」をやり直さなければならない。

ラトニック商務長官も「日本は鉄鋼をダンピングしている」と主張しているのだが「随分と懐かしい話を持ち出してきたなあ」という気がする。

カナダとの間では貿易戦争と呼べるような状況になっていることからもアメリカ合衆国にとって関税は単なる恐喝道具に過ぎない。相手を揺さぶってディールを誘発するための武器なのだ。

そもそも砂のお城のような「丁寧な説明」などなんの役にもたたない。かといって揺さぶられるたびに何かを差し出せるわけでもない。

これまでの日米政府の手法はトランプ大統領には通用しない可能性が高い。日本外交はこれまでのツケを清算し新しいやり方で日米交渉に望む必要がある。

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