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トランプ関税を巡る混乱と急激な円高

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トランプ大統領がもたらしたショックによる波紋が広がっている。このエントリーではトランプ関税と急激な円高について取り上げる。1ドル130円台という予想も出てきた。貿易戦争が起これば日本の製造業は打撃を受けて円安が進みそうなものなのに、なぜ円高になるのか。

経済が様々な要素の複雑な事象の絡み合いであるとわかる。

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トランプ大統領が対中国への追加関税・対カナダ・対メキシコに対する25%の関税実施を決めた。この強引な手法に対して国内外から大きな反発が出ている。在米中国大使館は「戦争上等、受けて立つ」と宣言した。厳密に翻訳すると次のとおりになる。

もしアメリカが戦争を望むなら、関税戦争であれ貿易戦争であれその他のいかなる戦争であれ、我々は最後まで戦う準備ができている。

しかし実際には国内のトランプ大統領支持者たちからかなり大きな働きかけがあったようだ。

ビッグスリーがトランプ大統領に働きかけたことで自動車は(少なくとも一ヶ月は)関税実施が延期されることになった。その後「メキシコが大幅に譲歩してきました」という理由でUSMCA準拠品の適用延期が決まりそうだ。

そもそも関税をかける理由がほぼ言いがかりといった状態なので「一体」なにを妥協したのか」も曖昧。あまりにも理不尽なため「メラニア夫人とトルドー首相がイイカンジだったのでトランプ大統領が嫉妬してカナダに関税をかけた」といううわさ話まで出ている。

その後、農産品の関税も適用除外になるのではないかとする報道が出てきた。農家が肥料に対する関税に強硬に反対している。

しかしながらトランプ政権は閣僚をイエスマンで固めているため省庁に決定権限がない。明確な基準がないため現場は大混乱している。もはや誰もアメリカ合衆国が合理的な意思決定をしているなどという人はいない。

「恐らくカリ(炭酸カリウム)や肥料が含まれるが、農産業への特定の適用除外はまだ決まっていない。われわれはこの問題で、大統領のリーダーシップを信頼している。これらのコミュニティーを非常に重視していると承知している」と発言した。

トランプ米政権、一部農業製品の適用除外検討-カナダ・メキシコ関税(Bloomberg)

この不安定な状況に加えてバイデン大統領の統治下でアメリカ人が「インフレ慣れ」しているという状況がある。このため企業が値上げしやすい環境が整っている。

日本にはデフレマインドがある。企業は迂闊に値上げすると顧客から離反されるのではないかと恐れている。ところが南海トラフ地震ショックが起こると「みんなが上げているならウチも」ということになりコメの価格が一気に30年前に戻った。デフレマインドが払拭されると価格が急激に「正常化」すると学んだ人も多いだろう。消費者の空気はそれほど重要なのだ。

アメリカはむしろインフレ慣れしているため企業が価格転嫁しやすい状況が整っていると言えるだろう。

バーナンキ氏は次のように説明する。加えて当局に対する不信感が募っている。

具体例として、米金融当局が2021年当時、インフレは一過性のものである可能性が最も高いという予測に国民の関心を集中させた点に言及し、「インフレが一過性のものでないことが判明した際、当局の信頼性が損なわれた」と指摘。さらに、「もっと深刻なのは、基本シナリオが誤りであることが判明した場合、当局がどのような対応を取るのか、事前に国民に十分な情報が提供されなかった点だ」と解説した。

バーナンキ氏、インフレ抑制が困難になる可能性指摘-最近の物価高で(Bloomberg)

日本円は現在147円で取引されているが130円台まで回復するのではないかとする論調も見られるようになった。何らかのショックが起きれば現状が巻き戻されて急速な変化が起きるだろう。

アメリカ合衆国ではトランプセッション(トランプ大統領の不確実な経済運営が引き起こすリセッション)の可能性が語られるようになった。またヨーロッパでもトランプ関税が引き起こす世界経済の懸念が出ている。経済が停滞すれば金利は低下する。

ところが日本は世界的な金利上昇の流れに乗り遅れているため、今から金利を上げようとしている。つまり日本は世界経済がリセッションに陥るなかで金利引き上げに突入せざるを得ない可能性が出てきた。アベノミクスを総括しなかったツケが溜まっているのだ。有権者が自民党政治を容認してきたことが原因だが、いつかは有権者が支払わなければならない。

直接のきっかけになったのはドイツの財政拡大だった。こちらはトランプ関税の影響ではなくトランプ大統領のウクライナ政策の失敗に起因する。ヨーロッパは「アメリカ亡き後」についての議論を始めておりドイツは財政規律を緩めるべくEUに働きかけている。これがドイツ国債の金利高騰を招き日本に飛び火した形になる。

このように世界経済は「風が吹けば桶屋」というバタフライエフェクト状態を引き起こしつつあるようで、日本もその例外ではない。

日米の金利差が縮小するなかでこれまで円キャリートレードに利用されてきた日本円が「安全資産」とみなされるようになると円が130円台まで回復するかもしれないという将来像が見えてくると指摘する人もいる。

円安が解消されるのはいいことなのだが今回の円安は不自然に抑えられてきた金利の上昇を伴う。地方に偏在するゾンビ企業が倒れ変動金利で住宅ローンを借りている家計の破綻もでてくるかもしれない。

我々はそれぞれが置かれた場所でこの新しい場所に対応する必要がある。

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