投資家たちは短期的にはトランプラリーで儲けた。また関税で動揺した市場はトランプ・プットという投機的な機会を与えている。
しかしながら市場は徐々にトランプ大統領のあやふやな政策がもたらす不確実性がアメリカだけでなく世界経済を冷え込ませるであろうと予想し始めた。
Bloombergはこれをトランプ大統領が作り出すリセッション=トランプセッションと呼んでいる。インフレが高止まりしリセッションになればトランプセッションはスタグフレーションとなる可能性が高い。
しかしそれだけでなく東アジアの状況も大きく変わりそうだ。
民間雇用者の数が市場予測を大きく下回った。経済減速が始まった可能性がある。原因はトランプ大統領の乱暴な経済政策がもたらした不透明さである。市場は金利が低下するだろうと見ているがこれはインフレが収まったからではなく、景気が減速し高すぎる金利に耐えられなくなると予想する人が増えているからだ。
こうしたリセッション(景気後退)はトランプセッションになるのではないかとBloombergは書いている。
トランプ政権はすでに関税を当初予想されていたよりも限定的なものにしようと発言を修正し始めている。しかし、国内外に対するインパクトは極めて大きなものだった。また政府効率化省のリストラ策や安価な労働力としてアメリカ経済を支えてきた移民の追放も経済に不確実性をもたらしている。
すぐにこれがリセッションにつながる可能性は高くない。トランプラリーの期待はすでに剥落しており株価は大統領就任以前の状態に戻ってきている。
日本のトランプ支持者たちの声を聞いていると「それでもトランプ大統領は世界戦略を再編し対中国に資源を集中投下しようとしているのだ」と主張する人が多い。
台湾はトランプ大統領のグリーンランド併合発言に動揺したと伝わっている。圧倒的な経済力を背景に他国の領土を併合しようとする傲慢ぶりが中国共産党政府のそれと重なるからである。
そんななか、台湾のTSMCが対米投資を決めた。インテルに技術を明け渡すように恫喝されたという話も出ているようだ。「アメリカに見捨てられては大変」という気持ちもあるのだろう。
韓国産業研究院のキム・ヤンペン専門研究員は「台湾の安保問題に『インテルと協力せよ』というトランプ政権の圧迫まで受け、TSMCが大規模投資を交渉のカードに使った状況」と分析した。最近トランプ政権がTSMCにインテル工場の買収または技術合弁を要求したという報道が出ていた。今回の投資でTSMCが得るものも多い。今後シリコンバレーのビッグテック企業からチップ受注を一気に獲得する可能性が大きくなった。TSMCとファウンドリー市場をめぐり競争するサムスン電子としては関税圧迫と受注競争で負担が大きくなるものとみられる。
TSMCが1000億ドルを差し出すと、トランプ大統領「台湾侵攻時は災難」(中央日報)
この話はかなり複雑だ。まず、アメリカが安全保障と経済をごっちゃにしたという驚きが台湾と韓国に生じている。つまり無条件で自由主義陣営を守ってくれるというこれまでの期待が急速に剥落しつつある。
さらに韓国は今回の関税で名指しされた。
その際、EU=ヨーロッパ連合や中国、ブラジル、メキシコ、カナダ、韓国などを名指しして批判しました。
【詳しく】トランプ大統領 “前政権の政策転換 関税など推進”(NHK)
ここに台湾と日本は入っていない。つまり関税と投資が天秤にかけられており「投資が十分とされた国」は攻撃されなかった可能性がある。
台湾はウクライナ以上にアメリカ合衆国に依存せざるを得ない国であり「今後何を要求されるのだろう」と疑心暗鬼になっているはずである。
また韓国は大統領が弾劾されれば、次に出てくる大統領が親中国・反米日傾向が強い中国との結びつきを強める可能性が高い。
中国では全人代が行われている。李強首相が習近平国家主席を褒め称え、アメリカの名指しは避けつつ「台頭する保護主義」に警鐘を鳴らした。かつて世界経済から引きこもっていた中国がWTOの理念を喧伝しアメリカ画集国がそれを否定している。こうなるともはやどっちがどっちなのかよくわからなくなる。日本化を避けるために政府債務を増やしつつ大規模な経済刺激策を行うのではないかと見られているそうだ。
ということでトランプ大統領の政策は中期的にはアメリカの経済を冷え込ませると同時に東アジア地域の枠組みを大きく変えてしまう可能性がある。アメリカ合衆国が専制主義敵傾向を強め中国が自由経済を推進するという鏡の中の世界が実現する可能性さえあるということだ。
おそらく一直線に何らかの枠組みが作られることはなく、再起動を繰り返し揺り戻しつつ新しい枠組みが作られてゆくことになるだろう。
日本がその時にどのような立ち位置にあるのか、そもそも石破総理にこの難局を引っ張ってゆく気概があるのかなど、今の時点ではよくわからないことも多いが、否応無しに状況は変化しつつあるようだ。