トランプ大統領がウクライナに対する支援を差し止めた。しかし注意深く見ると支援中止ではないようだ。自分からアイディアを出せないトランプ大統領は相手を殴って相手からの提案を待つ。政権幹部はゼレンスキー大統領は謝罪をしろと言っている。謝罪して詫び状代わりに辞表をもってこいというわけだ。
トランプ大統領をジャイアンに例える人がいるが、ジャイアンに失礼と思える理不尽ぶりである。
共同記者会見を前にしたトランプ大統領は関税とウクライナの支援差し止めを決めた。関税は「収入増」につながりウクライナの支援差し止めは支出減になる。
下院は十分な減税策をまとめることが出来なかった。このためイーロン・マスク氏が率いるDOGEがさらにリストラを進めてくれることを期待している。民主党が推進してきた政策を破壊することによって減税の原資を捻出しようとしているのだろう。
ウクライナ支援もMAGA共和党にとっては「民主党の政策」の一環であり差し止めても痛くも痒くもない。これは非常に不思議な話だ。日本人から見れば「アメリカの国際的地位が大きく下がる」政策であり、プーチン大統領を喜ばせているようにしか見えない。
日曜日の政治報道を見ているとトランプ大統領がゼレンスキー大統領をいじめているようにしか見えなかった。「切り取り」と言われればその通りのなのだが、これは合理的な反発というよりは生理的な嫌悪感につながる。
しかしながら、トランプ大統領と高官たちはウクラな支援の差し止めを単なる歳出削減とは見ていないようだ。仮に歳出削減策であれば一時差し止めではなく撤退になっていたはずだ。これが一時差止になっているのは「ゼレンスキー大統領が泣きを入れてくる」のを待っているからだろう。つまりトランプ大統領は未だに鉱物資源に強いこだわりを持っている。それが本当に存在するのかは定かではない。
CNNによると主語は「複数の当局者」になっている。行政当局はもはやトランプ王を制御できておらず現実的な落とし所を提案する機能も失っている。このためゼレンスキー大統領が詫びを入れそのうえで辞任してくれることを期待している。当然この間にもヨーロッパとの亀裂は深まりアメリカの国際的地位は低下する。
一方、ヨーロッパサイドでは「アメリカの穴を埋めるためには軍事支出をに倍にしなければならない」という論調が出てきた。
ヨーロッパではイギリスとEUの間で軍備の枠組みの主導権を巡る駆け引きがはじまっており8000億ユーロ(125兆円相当)の再軍備計画をEUが発表している。
記者会見までに成果を積み上げたいトランプ大統領の暴走が様々なものをなぎ倒しながら走っているという印象だ。
だがここで冷静になって考えてみたい。
現状をデフォルトとするとたしかにヨーロッパは軍事支出を二倍にしなければならない。だがロシアとヨーロッパの経済規模を比較すればこれは過剰な支出である。さらに言えばロシアの本音は世界帝国の構築ではなくロシア(政権)の安全保障でありヨーロッパをすべて飲み込む理由もない。
つまり実際にはこの軍事支出はアメリカの過剰投資によりインフレを起こしているものと解釈できる。アメリカが軍事支出を増やせば増やすほどロシアも軍事支出を増やさざるを得ないわけでロシアの経済成長が阻害されている。
アメリカ合衆国がロシアと急接近するのではないかと見る人もいるが、アメリカ合衆国ではプーチン大統領に拒絶反応を示す人が多い。何よりも称賛を求めるトランプ大統領はこれが許せない。
つまり、最終的には各国のGDPに見合ったところでバランスは均衡するはずだ。アメリカの撤退は軍事支出の「現実的なバランス」模索の第一段階とみなすことができる。
ただしこれはその過渡期に境界の変更を伴うのだから、2014年のウクライナ国境が温存される保証はない。また言うまでもないことだが「調停者なき軍事衝突」がティッピングポイントを迎えてしまうと「核戦争」ということになる。
現実的なバランスが作られるためにはこうした衝突を避ける必要があるということは言うまでもないが、おそらくそこにアメリカ合衆国が参加することはないのではないかと考えられる。