共同記者会見を前に成果を焦るトランプ大統領はウクライナ支援の停止とカナダ・メキシコ・中国に対する関税の発動を決めた。マスメディアは盛んに「トランプ関税はインフレにつながる」と警告を発している。これは自己実現効果がある。だが市場は「インフレではなく成長の減速」を意味すると解釈し始めた。カナダは非常に怒っており報復の動きが出ている。バフェット氏が関税は戦争だといった理由がよく分かる。
今回は「偏り」があるCNNを主に引用する。CNNはトランプ大統領にかなり反発しており関税がインフレにつながると予言している。この予言には自己実現効果がある。企業は価格転嫁しやすくなり賢明な消費者は消費を控えるようになるだろう。マスコミの報道が真実である必要はない。報道が真実を作るからだ。マスメディアは常に真実を伝えると期待する日本人はナイーブすぎる。
ウォーレン・バフェット氏は関税は戦争であると主張しているが本当に戦争が始まった。
問題はその戦争相手が誰かである。
CNNが中国に対する追加関税ではなくカナダ・メキシコに対する関税を強調するのはおそらく生活に必要な物資ほど値上げが顕著になるとわかっているからだろう。生鮮食料品は関税の直接効果で値上がりするのだがカナダのオンタリオ州はニューヨークなどに送っている電力に報復関税をかけるそうだ。
会見が始まる前から文脈を付け「トランプの支持者は狂信者だ」という印象を植え付けようとするCNNの報道姿勢はもはや言論戦争であり報道とは言えない。
トランプ大統領の関税が生活を破壊するという論調だ。多くのアメリカ人がトランプ政権の経済運営に不満を募らせるなか「限られた支援者」に対して自分たちのポピュリスト的な公約を喧伝するだろうと言っている。
Trump also doubled an additional tariff on all Chinese imports to 20%, in a trio of decisions that sent stocks – a cherished metric of his own performance – tumbling. The timing was inauspicious, before Trump makes a joint address to Congress Tuesday evening that will be watched by a nation nervous about stubbornly high housing and grocery prices. But to the narrower audience of his most faithful supporters, who show no sign of peeling away, Trump is likely to bill his new trade wars as proof of resolve and commitment to his populist promises.
Trump makes fateful wager by testing his lifelong faith in the power of tariffs(CNN)
ただ偏っているからといって無視していいということにはならない。
日本が今後アメリカの関税恫喝に対応するかは未知数だ。しかしカナダの事例を見る限り「殴られたら毅然と対応する」のが正解なのではないかと感じる。殴られた人に妥協すれば「この人はいくら殴ってもいい人なのだ」と認識されてしまう。
メキシコも現在アメリカ合衆国に対する報復措置を検討中だ。バフェット氏がいうある種の戦争という観測が間違っていないことを裏付ける。
今回の件でヨーロッパも衝撃を受けている。トランプ大統領は自らが発した「関税恫喝」を引っ込めることができなくなっていることが徐々にわかってきているからである。
これは2つの効果を生み出す。第一にドルの価値が毀損する。
これまで自由経済と資本の自由移動の恩恵を最も多く受けていたのがアメリカ合衆国だった。ヨーロッパは燃料価格高騰の煽りをうけて経済が減速しているが、アメリカ合衆国は自前でエネルギーが供給できる。また消費者は積極的に借り入れを行い消費を増やしている。関税によりモノやサービスの移動が滞るとこの一人勝ち状態が解消される。
このため市場は「インフレ=金利の高止まり」ではなく「経済失速=金利引下げ」を織り込み始めたそうだ。
CNNやABCニュースは高止まりする生活物資と住宅金利などの不満をトランプ関税と結びつけようとしているので「インフレ」を強調している。ところが経済系メディアはその先にある経済失速を織り込み始めているという興味深い違いがある。
インフレと景気減速が合成されるのがスタグフレーションだ。
“The market was expecting something to happen that would mean that the tariffs wouldn’t be implemented … it comes on top of a strong whiff of stagflation – meaning lower growth and high inflation that has been apparent in a number of data releases and as we know tariffs will just accentuate the smell of stagflation,” Mohamed El-Erian, president of Queens College, Cambridge, told Richard Quest on CNN International.
Trump makes fateful wager by testing his lifelong faith in the power of tariffs(CNN)
暗号資産の爆上げを「トランプ砲だ」と喜んでいた人たちはどうなっても構わないが、これまでに資産を形成してきた人は我慢のしどころになるだろう。地道に業績を上げ続けている企業の価値はやがて上がり始めるはずだが今のマグニフィセント・セブンは逃避先(準安全資産)の位置づけであり不当に高くなっているところがあると感じる。昨日の株価は600ポイント下落だったと記憶しているが閉まったばかりのニューヨーク株はさらに一時800ポイント下落したそうだ。
非常に皮肉なことだが今回のトランプ恫喝は自己実現する可能性が高い。つまり円が不当に価値を下げているのではなくドルの価値が下落する(つまりアメリカ経済の優位性が破壊される)ことで自然に落ち着くところに落ち着いてゆくだろう。
だが、アベノミクスで不当に金利を抑えてきた政策の賞味期限が切れたとも言える。今後アベノミクスは「通貨操作」として攻撃対象になる。財務省と政府の丁寧な説明などなんの意味もない。
これは地方に偏在する死にかけ企業(だからゾンビ企業といわれる)の倒産を意味する。おそらく地方を中心に経済はかなり混乱するはずである。輸出企業の業績も悪化するだろうと考えると日本経済に与える影響はかなり大きなものになりそうだ。