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「日本は為替操作をしている!」 トランプ大統領の主張が八つ当たりであるわけ

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トランプ大統領が日本は為替操作をしているから関税をかけると発言しドル円が一時148円まで円高の方向に進んだ。おそらくかなり唐突だと感じた人が多かっただろうが、実はそうではない。

このエントリーではトランプ大統領の発言が八つ当たりであるということを示す。すると今度は「だったら無視して良いんだな」となると思うので「無視をしてはいけない」ということを説明する。

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日本人は「自分の立場」に何よりこだわる。今回の件で「日本は為替操作などしていない=日本は悪くない」と認めてもらいたい投稿がXに溢れていた。不安になると自己正当化を図り躍起になってわかってもらおうとするのである。

だがアメリカ人は欲しいものは欲しいのであって日本のお立場など気にしない。

無駄なのだ。

今回の件には文脈がある。

まもなくトランプ大統領と議会の合同記者会見が行われる。トランプ大統領にとってはショーの本番になる。彼が英雄にならなければならない。CNNがライブサイトを作っているので会見が始まればここに動きがあるはずだ。

このためトランプ大統領はゼレンスキー大統領と会談をした。テレビの前で自分が交渉の天才であることを見せつけようとしたのだ。ところがこの長すぎる会見と高慢で敵意に満ちた雰囲気がゼレンスキー大統領を怒らせてしまう。

あの会見の最後で「テレビの前でみんなにゼレンスキー大統領のわがままぶりを見てもらう」という趣旨の発言が繰り返されていたことを記憶している人もいるだろう。実はあれは期待が裏切られたという怒りの彼なりの表現だった。本当にトランプ大統領が見せたかったのは交渉の天才である自分が画期的なディールを実現させる瞬間だった。トランプ大統領にとって大統領職はリアリティ番組とさほど変わりはないのである。

ではなぜトランプ大統領は画期的な成果を期待するのか。下院で予算案が通ったが減税については限定的なものにしかならなかった。債務上限については交渉がまとまっていない上に歳出削減が実現できなければ縮小されるという内容になっている。さらにジョンソン下院議長は様々な矛盾する約束を交わしており行き詰まりに向けて前進しているという側面がある。

さらに、マスコミは関税はインフレにつながると喧伝している。トランプ大統領はプーチン大統領の操り人形だという論調で今回のウクライナとのディールを説明しているところもある。

こうなると「関税」に期待が高まる。中国の追加関税とカナダ・メキシコに対する関税を発動するに際してトランプ大統領は彼ら(それが誰を意味しているかは不明だが)がアメリカから仕事とカネを盗もうとしているからだと言っている。

“It’s going to be very costly for people to take advantage of this country. They can’t come in and steal our money and steal our jobs and take our factories and take our businesses and expect not to be punished,” Trump said Monday. “And they’re being punished by tariffs. It’s a very powerful weapon that politicians haven’t used because they were either dishonest, stupid, or paid off in some other form.”

Trump makes fateful wager by testing his lifelong faith in the power of tariffs(CNN)

もちろんこの主張に根拠などない。しかし「とにかく関税だ」という事になっているのだから理由など何でも構わない。トランプ大統領にとって関税は外国に対する罰金でありなおかつ連邦の収入になる。減税のための原資を必要とするトランプ大東にとっては非常に魅力的なツールなのだ。

トランプ大統領は根拠など必要としない。彼がそう発言すればそれが真実になる。

ただトランプ大統領は自分の要求がどのように実現するかがわからない。彼は外交も経済もシロウトである。だから相手を殴って相手が何らかの解決策を持ってくることを期待する。

日本が関税を回避したいならば何かお土産を持ってゆくのが一番だ。しかしこれはDV加害者に対して交渉を持ちかけるのとさほど変わりはない。殴るのに理由はない。殴りたいから殴るのだ。そしてその衝動を抑えることは出来ない。彼は何を実現したいかわかっていない。だが過去にも誰かを殴ったことで解決した問題は多い。だから殴り続ける。それだけだ。

こうなると日本人は「なんだ、相手が悪いのか」と安心してしまう。相手が悪いんだから聞いてやる必要はないと考えてしまう。しかし、メキシコととカナダには関税がかかった。

メキシコは今回の件で軍を国境沿いに派遣するなどしてトランプ大統領の要求に応じる構えを見せていた。しかし、トランプ大統領の関税発動の動機は主に内政に由来しておりこれらの働きかけは徒労に終わっている。

関税が経済に及ぼす影響については別途まとめたい。アメリカだけでなく世界の景気減速が予想されれている。特に「インフレ」ではなく「景気減速」に関心がシフトしていると理解することは重要だろう。実際の影響について読むのが面倒だという人のために素材だけを置いておく。

円が急落する前に資産を形成していた人にとっては辛抱時だ。高値でマグニフィセント・セブンを買った人は資産を失うかもしれないが地道にビジネスで成果を上げ続ける企業の業績はやがて回復するはずである。逆にテスラのように地道にやっていたのに政権に近づきすぎて時価総額を損なっているという企業もある。

日本政府は何らかのソリューションを提案してトランプ大統領をなだめることはできるかもしれない。しかしこれは殴り癖がついた相手に次の殴る動機を与えているだけなのではないかと思う。

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