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「ヨーロッパに席はない」 ロシアとアメリカが直接和平交渉へ

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アメリカ合衆国とロシアが直接和平交渉に乗り出した。ウクライナの関与は限定的になりそうだが、アメリカ合衆国は「そもそもヨーロッパは交渉に参加させない」意向だ。

そこに割って入ったのが中国である。アメリカ民主党の価値観の一部を中国共産党が引き継ぐという不思議な事態がうまれている。ここに「価値判断」を持ち込むと思考が途中で止まってしまうのだが変化を見ているだけで頭がくらくらしてくるのも事実である。

一つひとつ見てゆきたい。

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トランプ大統領は経済優先を熱望するアメリカ合衆国の民意で選ばれている。この民意が議会と司法に優先するというのが「統一政府・統一行政理論」で現在司法闘争に入っている。アメリカで大きな価値変化が起きていることは疑いようがない。

新しい政権は民主党が代表する既存の政治(エスタブリッシュメント)を憎悪しているようだ。オバマ・バイデン・ハリス各氏やトルドーカナダ首相などの「しゅっとした」人たちはすべて憎悪の対象。この敵意がEUにも向けられておりバンス副大統領は「ロシアでも中国でもなく内なる敵(つまり欧州の政治家)こそが真の敵」と言い放った。

これは単なるバンス副大統領のルサンチマンではなかったようだ。ケロッグ特使も「ヨーロッパは交渉に参加させない」と言い放った。ケロッグ特使はトランプ大統領から強い時間的プレッシャーを受けており「トランプ時間で動いている」と説明している。ことウクライナでは既存の外交専門家にも出番がないようだ。当然その外交交渉は乱暴なものになる。例えて言えば平安貴族の時代が終わり「これからは武士が世界を支配する」と宣言しているようなものなのかもしれない。

また、ケロッグ特使は「わたしは『トランプ時間』で動いている。彼はきょう仕事を頼むとあすにはなぜ、解決していないのかと聞いてくるのだ」と述べ早く成果を出す必要があるという考えを示しました。

ミュンヘン安保会議 米 ロシアにも“領土含めて”譲歩迫る考え(NHK)

おそらく彼らの強気の姿勢の背景は「経済的に一人勝ちしたアメリカ合衆国」と言う強い自負心と「実力の割に評価されていない「我々」」という劣等感があるのだろう。特に今回の政権はこれまでの政治から除外されてきた(あるいは下に見られてきた)アウトサイダーを中心に構成されている。ケロッグ氏の最終軍歴は陸軍中将。

今後、アメリカとロシアはサウジアラビアで接触し首脳会談の準備を始める。ウクライナは参加を拒否している。

ではなぜアメリカ合衆国はロシアに接近しているのか。ロシアから何かを得たいわけではなさそうだ。

第一にG7にロシアを参加させることによりヨーロッパの地位(と既存政治家の地位)を相対的に落としたいという狙いがありそうだ。

次にウクライナを恫喝する狙いもある。トランプ大統領は独自に「デューデリジェンス(投資査定)」を行っている。ウクライナのレアアースの50%の権利をよこせと交渉していたが断られている。ビジネス第一主義の大統領なのだから投資価値がないプロジェクトは中止せよというのは自然な判断だ。

この過程でバンス副大統領は「アメリカ合衆国から軍隊を差し向けるぞ」とロシアを脅している。CNNによるとウォール・ストリート・ジャーナルに述べたものだが、後にトランプ大統領の政策とコンフリクト(衝突)したことに気がついたため「WSJが事実を捻じ曲げている」と釈明したようだ。トランプ大統領にとってはあくまでもビジネス政策の一環なのだから軍隊の派遣(追加支出)などはあってはならないことなのだ。

アメリカ合衆国の一連の流れを見ていると「対中包囲網」を作りたがっているように見える。このためインドと日本の首相が高待遇でホワイトハウスに迎え入れて会見が行われている。ロシアを中国と切り離すことで独自通貨構想も持つとされるBRICSの内部結束を破壊することもできるだろう。

しかしながらこの戦略はうまく行っていない。

確かにロシアと中国を引き離すことには成功しそうだが、そもそも中露関係は是々非々の関係であって同じ価値観を持った者同士の同盟とは若干異なる。王毅外相はアメリカ合衆国の暴走を好機だと受け止めておりヨーロッパに接近している。つまり孤立しているのは中国ではなくアメリカ合衆国である。

トランプ大統領の戦略を「狂人理論」と見る向きもあるが、狂人理論はキッシンジャー氏のような実務家によって支えられている。現在の政権にいるのは「自称実務家」だけであり厳密には狂人理論ではなく「ただの狂人」だ。

ヨーロッパでは緊急の非公式会合も開催される見込み。またヨーロッパの防衛はヨーロッパ自身でという動きも起きている。しかしドイツは一週間で総選挙になり政権交代の可能性がある。フランスもかろうじて予算は通過させたが国内政局は不安定なままである。「アメリカに協力しない」と仲間内で約束をしても抜け駆けをする国が現れないとも限らないのではないかと思う。

日本ではそもそもこの問題はほとんど扱われておらず有権者は「今までと同じ日米関係が続く」と安堵しているようだ。石破政権の支持率はやや上がった。あとは「どうにか関税は勘弁してもらえないだろうか」と言う関心がある程度。激変する国際環境に石破政権はただオロオロするばかりで思考停止状態といったところである。

そうした中で山上信吾氏の「日本外交の劣化」という本が人気を集めている。雑誌保守が中心だった政府の弱腰批判が徐々に本を読む階層のシニアにも広がってきているのかもしれない。

NHKの日曜討論では「日本の通貨政策が非関税障壁とみなされるだろう」とする識者の声があった。時事通信にそれを裏付ける記事がある。

相互関税、為替操作を検証 通貨安誘導に厳格対応―米財務長官(時事通信)

今後アベノミクスの放棄(金利を引き上げて円高に誘導する)などが求められるとアメリカ市場(大企業)を取るか地方の中小零細企業を取るかという政治的対立軸が生まれるかもしれない。日本人は変化を嫌うが外圧によって大きく動くこともある。

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