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関税を武器化し「非関税障壁撤廃」を主張するアメリカ合衆国

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トランプ大統領の外交姿勢が次第に鮮明になってきた。アメリカ合衆国が経済的な自信を深める中「経済最優先」の大統領が生まれた。

アメリカのビジネスの常識は「資本主義は弱肉強食のレースであり王者がすべてを総取りする」というものだ。当然新しいアメリカの外交方針もそのようなものになる。

その武器として利用されているのが「アメリカ市場へのアクセス権」である。特に日本と中国以外のアジア圏の国に影響が大きいとされる。

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今回は主にバンス副大統領のヨーロッパに対する「口撃」について書こうと考えていた。アメリカ合衆国が持っている「新世界」という劣等意識が背景にあるように感じる。

アメリカ合衆国の政治的変化があまりにも大きすぎるため「国内政治は後で良いや」と考えてしまう。これではいけないので国内情勢について書いたのだが、この過程で「関税」を処理にしなければならなくなった。当初多くの人が「関税には関税だろう」と思っていたがどうやらそうではなくなりつつあるようなのだ。

そもそも関税とは何だろうか? それは「アメリカ市場に対するアクセス権」である。現在アメリカの市場は「一人勝ち」と言ってよいほどの好況ぶりを示している。だから世界の国はアメリカ市場へのアクセスを求めるはずだ。トランプ大統領はアメリカ市場に参入したければアメリカに工場を作ってアメリカ人を雇うべきだと言っている。

Bloombergはトランプ氏「相互関税」世界が身構え、貿易の新局面へ-個別交渉に軸という記事の中で相互関税について取り上げている。「非関税障壁」について取り上げており非常に興味深い内容だ。

VATを導入しているEUなどの国・地域では、輸出業者が製品の出荷時にVATの払い戻しを請求できる一方、EUに輸入される米国製品には加盟国によって15-20%か、それ以上のVATが課されるため、欧州企業は米企業に比べて不当に有利に扱われていると、トランプ氏らは主張している。トランプ氏は「VATは関税だ」との立場だ。

トランプ氏「相互関税」世界が身構え、貿易の新局面へ-個別交渉に軸(Bloomberg)

この「非関税障壁」という言葉に聞き馴染みがある日本人のシニアは多いはずだ。1980年の日本に対してアメリカ合衆国は「非関税障壁撤廃」を要求していた。

アメリカは大きくてカッコイイ車をたくさん作っている。こんな素晴らしい車が売れないのは日本が非関税障壁を作って国内産業を保護しているからだ。アメリカ人は本気でそう信じ日本の車の打ちこわしなどを行っていた。

当時の日本人の感覚からすれば「アメ車」は日本の狭い道を走らせるには大きすぎる。また壊れても日本のようなメンテナンスは望めない。外車はヤナセが国産車並みの修理工場を持っているだけだった。アメリカは「ローカライズ」をして現地に合わせるという発想がない。このためアメリカは自分たちの価値観とライフスタイルを押し付けるだけの国に見えていたのである。

トランプ大統領は1980年のような経済認識を持っており「あの頃のアメリカが戻ってきたなあ」という気がする。

では日本はこのアメリカの要求を跳ね返すことができるのか。

国内政治に関するエントリーで触れたように「外務官僚化した外務省は外交官から外務官僚に堕落した」とする山上信吾氏のネットメディアでの露出が増えている。これまでの雑誌保守から本を読む習慣があるメインストリームのシニア層の間にも「リベラル化した自民党」と「外交交渉力を失った日本政府」への敵意がじんわりと染み出しているのかもしれない。

非関税障壁を盾にトランプ大統領からアメリカ市場への参入を拒まれてしまうと工場に依存する特定の地方自治体にとっては死活問題になるだろう。

ただし日米の問題だけを見つめていても全体像を掴むのは難しいのではないかという気がする。重要なのはアメリカ合衆国がヨーロッパに対して持っているある強い不満である。バンス副大統領のミュンヘンでの発言を参照し、これについて考えてみたい。

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