Quoraのタイムラインを見ていたところ「BBCはアメリカ合衆国のプロパガンダ機関だった」とする投稿を見つけた。「何だくだらない」と思った。さらにこの投稿に影響を受けたのか「BBCは嘘つきだから引用するな」とするコメントを貰った。「何を引用しようがこちらの勝手だろう」と憤ったのだが、その背景を調べると意外と面白かった。
トランプ政権はアメリカの独裁化を進めておりレガシーメディアの入れ替えを行おうとしている。このレガシーメディアの入れかの一環として利用されている非常に興味深い陰謀論なのだ。
だが単に陰謀論と決めつけるのではなくその背景を考えてゆくと面白い発見が得られる。
当ブログのコメント欄に「アメリカは古き良き時代を目指しているのでは」という指摘があり高評価もついている。同じような指摘をするYouTube動画を見つけた。
領土拡張主義と企業と政権の癒着が混在した南北戦争直後のアメリカ合衆国に似てきているそうだ。これが南北戦争から1893年恐慌まで続いた「金ピカ時代( Gilded Age)」である。Glidedとは金メッキという意味。
日経新聞が「日米関係は金メッキ」という論評を出しているがハイブロウな例えだったのだなと気がついた。1893年にはバブル化していた鉄道投資が破綻したと書かれている。現在で言えばAIにあたる当時の最先端技術だ。
今の株価はバブルだ(あるいはその可能性がある)といえば「株式投資はやめておこう」と考える人もいるだろう。だがインフレは現金の価値が下がることを意味しているので現金として持っておくことが最も危険性が高い。株価はその時々の経済に合わせて成長してゆく。しかしある一定の線を超えると今度は自らの力で膨張を始める。このときに遅れて投資を始めると暴落に巻き込まれる危険性があるが「正常と異常の境目」は普通はわからない。
アメリカは経済を優先する国なのであるという自意識がトランプ政権を支えている。その典型的な事例がイーロン・マスク氏とトランプ大統領の不適切な蜜月ぶりである。マスク氏はホワイトハウスを訪米中のインドのモディ首相と会談を行っているが、どんな資格で何を話し合ったのかが一切わかっていないようだ。
現代政治しか知らない我々からは「アメリカ合衆国が壊れた」ようにみえてしまうが、アメリカ合衆国の政治を知っている人から見れば「揺り戻し」ということなのだろう。
ただしこの揺り戻しに反対する人たちもでてくる。トランプ政権は民意で選ばれた経済優先の大統領が議会や司法に優越する状況を作り出そうとしているのだが英語ではこれを「単一行政理論(仮説)」と呼ぶそうだ。小谷教授の説明を元に検索をするとたしかにクォーテーションマーク入りで使われている。
いずれにせよ三権分立を訴える現在のメディアはこの方針に反対することになる。そこで活躍するのが陰謀論である。NPRは「トランプ政権が陰謀論に影響されてポリティコなどの購読を中止した」とするアクシオスの記事を紹介している。Bloombergなどはどちらかと言えば伝統的共和党よりなのでは?と思えるが、トランプ大統領は気に入らなかったのだろう。
Axios reported on Thursday that the White House asked the General Services Administration to “pull” all contracts for Politico, BBC, E&E and Bloomberg, as well as “cancel every single media contract” expensed by the GSA.
How conspiracy theories about Politico led Trump to cancel subscriptions(NPR)
こうした陰謀論は「アメリカ第一主義」と結びつけられ、アメリカが海外援助をしていたのは民主党政権のプロパガンダが目的なのだという説が流布している。確かに「ソフトパワー」を使ってアメリカ合衆国の道徳的優位性を宣伝するという活動は行われていたのだから全くの嘘とも言い切れない。
しかしこれが思わぬ方向に飛び火したようだ。
BBCは新疆ウィグル自治区の人道状況について熱心に伝えてきた。後にこの報道は抑制的になる。ロシアがウクライナを侵攻したため中国を攻撃する優先順位が下がったのだろう。ここから考えるとBBCが自国と自由主義陣営の道徳的優位性を強調するためにこの問題を使ってきたという側面は必ずしも否定できない。
しかしながら現在アメリカからBBCはUSAIDの支援対象になっていたがそれを打ち切られたことで中国に接近していると考える人たちが現れたようだ。Quoraで中国語に詳しい人達がその話題について扱っているのを見かけた。中国にも愛国主義者たちがいて「名指しで批判されること」に対して苦々しく思っていたようだ。
皮肉なことにトランプ政権のオールドメディア排除の方針と中国人の気持ちが「共通の敵」で結びついてしまった格好になる。この情報を下に検索するとUSAIDとBBCの「不適切な関係」について書いた記事が複数見つかった。
なおアメリカ合衆国では「オールドメディア」とは言わずに「レガシーメディア」と呼ばれるそうである。単一行政理論を推進するトランプ政権は自分たちの好ましいメディアと新興メディアを入れ替えようとしており「ここから真実を伝える」と主張している。
レビット氏は「毎日ここから真実を伝える」と誓う一方、新聞やテレビなど既存の報道機関を「レガシー(旧世代の)メディア」と呼び、「トランプ大統領や家族に関するうそを広めてきた」と敵視。「誤った報道や誤情報は正す」と挑戦的な姿勢を示した。最初の質問者にはニュースサイト「アクシオス」を指名した。
「新興メディア席」を新設=27歳大統領報道官が初会見―米ホワイトハウス(時事通信)
日本でも自分たちの思い通りの報道をしてくれないメディアに苛立ち「マスゴミは何かを隠蔽している」という(ありもしない)「真実」に目覚めた人たちがいるが実はこれは世界的傾向だ。ただアメリカ合衆国は経済に自信を強めつつあり「経済第一主義」による積極的なレガシーメディア潰しが行われている。このためABCニュースを見ると「トランプ大統領の関税がアメリカにインフレをもたらす」などと経済に着目してトランプ政権にネガティブな印象を与えようとする論調が目立ってきている。
少なくとも過去を遡ると歯止めが効かない経済拡張主義はやがて何らかのバブルを生み出すことになるだろうと予測される。
最初にQuoraでBBCに関する陰謀論を見たときには「何だくだらない」と感じたのだが意外と掘り下げてみると面白い発見があるものだ。