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アメリカとロシアがウクライナの頭越しに和平会談を開始

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トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と和平交渉をスタートした。どのような論評が出てくるのだろうかと思っていたのだが一通り記事が出揃ったので整理しておきたい。

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第一の特徴はトランプ大統領が「不動産開発」の視点で国際ディールを仕掛けているという点だ。アメリカの支援はあくまでもウクライナという土地の利権を獲得するための投資だと考えている。このため得られるものがなければ事業は継続できないという判断がある。一方で自由経済圏の維持にはそれほど関心がなくマクロ経済にも無知だ。

次にトランプ大統領が世界の政治家を「スマートな人たち」と「実利主義の人たち」に分けていることがわかる。ビジネスマンは日々「ガチの利権獲得戦争」を行っているが政治家はその上に乗っかっているだけでキレイゴトばかりを言っているという頭があるのだろう。

石破総理は現在「非スマート組」に位置づけられているのだから日本の要求をガンガンぶつけるべきだ。しかしそのためには毎回「お土産」が必要になるという点も理解しなければならない。党内・国会内基盤が弱い石破総理が国内をまとめることは難しいと見るべきだろう。

結果的にプーチン大統領のように独裁的傾向が強い政治家の方がトランプ大統領と「ウマが合う」ことになる。自分の裁量でトランプ大統領にお土産を渡せるからである。BBCは「【解説】 トランプ氏、プーチン氏に国際社会への復帰を呼びかける」という記事を出している。アメリカの国力に依存し理想ばかりを掲げる「スマートな」ヨーロッパの政治家よりもプーチン大統領のほうが信頼できると考えているのかもしれない。さらにG7にロシアを復帰させるべきだとの持論も展開した。ヨーロッパ型のシュッとした政治家をトランプ氏が嫌悪していることがよく分かると同時にG7では自分が下品な人間だと思われているという自覚はあるのだなとも感じた。トランプ大統領はプーチン大統領を同類だと思っているのだろう。

日本については3つの異なる視点がある。

トランプ大統領の経済認識は80年代のものである。これはアメリカの製造業が衰退しアジアが台頭していた時代だ。おそらく製造業の保護が足りなかったから工場が日本などの国外に流出したという感覚を持っているのではないかと思う。その意味では日本も同盟国でなく脅威として捉えられている。

ところがトランプ大統領の敵視の対象はむしろ中国に移っている。中国を囲い込むためにはロシアとの争いを終わらせ中国の囲い込みにシフトしたい。このため日米印の軍事協力はますます重要なものになる。インドとの貿易協定の動きが始まった。トランプ大統領は二国間(アメリカ・日本とアメリカ・インド)の赤字の「適正化」という問題と対中国戦略という2つの両立しない課題の間で揺れることになりそうだ。が同時に日本やインドを「対中国」カードとして認識しているということもわかる。

第三の視点は大国による現状変更の容認である。ウクライナ問題を「アメリカ問題」と考える時事通信はこの「ウクライナの頭越し」という点が抜けているが、BBCは「【解説】 トランプ氏とプーチン氏の電話、ウクライナを犠牲に緊張を和らげる」という記事を出している。ヨーロッパは停戦合意にはヨーロッパも加えるべきだと主張している。記者会見では3つの国(アメリカ・ロシア・ウクライナ)はイコールか?という質問が飛びトランプ大統領は正面からこれに答えなかった。CNNは意味を取り「ウクライナは対等なのか」と和訳している。

ウクライナを和平交渉の対等な一員とみなしているかとの質問には、「それは興味深い質問だ」と前置きした上で、「彼らは和平を結ぶ必要がある。彼らの国民が殺されているのだから、和平を実現する必要があると思う」などとコメントした。

トランプ氏、ウクライナ停戦は「そう遠くない将来に」実現 プーチン氏と会談後に予想(CNN)

トランプ大統領とヘグセス新国防長官の発言を整理すると次のようなことがわかる。

  • ウクライナはNATOに加入できない
  • ウクライナはクリミア半島など喪失した領土を回復することはできない
  • アメリカ合衆国が主体となってウクライナを守ることはない。ウクライナ防衛は主にヨーロッパの利益なのだからヨーロッパが考えればいいことだ

力による現状変更は許さないとするこれまでのドクトリンが完全に崩壊した瞬間でありヨーロッパの安全保障にアメリカが関わるというNATOの存在意義が失われた瞬間と言って良い。ウクライナはアメリカの政権が変わったことで完全にはしごを外された状態になった。安全保障をアメリカのようなあやふやな外国に依存するのがいか危険なことなのかがわかる。

この一連の流れは日米同盟が事実上意味を失ったことを表しているのだが、日本人は全力でその現実から目を背けようとしており、尖閣諸島が第5条の対象範囲になったことをもって「日米同盟はこれからも盤石だ」という証明に代えたがっている。

時事通信はかろうじて「領土回復困難」について林官房長官の受け止めを記事にしている。日本は北方領土の奪還を「ソ連(と後継国のロシア)の力による一方的な現状変更」としている。領土に固執するプーチン政権のもとで北方領土が返ってくる見込みなど立つはずもないわけだが、安倍政権時代の取り組みを否定することも出来ない。北方領土に関する日本の公式見解はすでに崩壊しているといえるだろうが、林官房長官はそれを認められない。

だがもはやそんなことはどうでもいい話である。

今回のトランプ大統領の取り組みは台湾海峡を巡って習近平国家主席とトランプ大統領が台湾の意向を無視して勝手に手を結びかねないということを意味している。と同時にトランプ政権がNATOに対して仕掛けているように「日米同盟に実効性を持たせたいなら、日本はどんなお土産をくれるんですか?」と常に恫喝される危険性があるということになる。

おそらく、多くの日本人はこの変化にうすうすは気がついているのだろうが「考えても仕方がないことだ」「なるようにしかならない」と考えて無視することにしたのだろう。時事通信のアンケートによると「日米同盟(表題は日米関係)に大きな変化はない」と見ている人が過半数になっている。

石破茂首相は日本時間の8日、トランプ米大統領と初の首脳会談を実施した。今後の日米関係の見通しを尋ねたところ、「良くなる」10.1%、「悪くなる」23.2%で、「変わらない」が51.3%だった。

内閣支持、横ばい28.5% 高校無償化、制限撤廃6割弱―時事世論調査(時事通信)

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Comments

“アメリカとロシアがウクライナの頭越しに和平会談を開始” への2件のフィードバック

  1. 匿名を希望のアバター
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    同類だと思ってるのは間違いないでしょうね。プーチン大統領もマッチョイムズを
    前面に押し出す行為を良く行ってますしね、有名な所だと毎年出てる大統領カレンダーでしょうか。
    日本でもネットや漫画でよくネタにされてましたけど、今となってはただのパフォーマンスじゃ
    無かったんだと思い知らされてます。マチズモの権化だったんですから。
    トランプ大統領のあの性格を考えたら自分も同じ様に力による現状変更を行いたい、
    そしてそれが当然の世界になるのが望ましいと思ってるでしょう。出来るかどうかは別にしても。

    1. トランプさんの場合周りの人たちが煽ってますからね。石破さんまで乗っかっていましたよね。「神様から選ばれたとトランプ大統領は確信」 石破首相、何度も称賛