長らく石破茂氏とともに党内野党の立場にあった村上総務大臣が「将来県庁なんかいらなくなる」と発言した。将来県はなくなり市区町村が直接国とやり取りするという「個人的見通し」を述べたもの。
石破茂総理大臣は地方創生を掲げているがこれを正面からぶち壊す発言になる。ただし発言自体はSNSではそれほど注目されなかった。国民はそもそも政府主導の地方創生など期待していないということがわかる。
村上総務大臣は道州制を掲げる維新所属議員の質問に答えて「将来は県庁所在地などいらなくなる=つまり県はなくなる」という趣旨の発言をした。個人的見解としている。YahooニュースなどのSNSでは見出しか取り上げられないため「村上氏の暴論」という印象だ。
- 将来は「全国で300~400市に」 村上総務相、人口減進行で「個人的見解」(時事通信)
- 総務相「今世紀末は300市に」 自治体数で持論、県庁も不要(共同)
- 「県庁全部いらない」村上総務相が国会で私見…人口半減なら「全国300~400の市で済む」とも(読売新聞)
- 村上総務相、人口減に危機感 今世紀末に半減したら「県庁いらない」(朝日新聞)
時事通信は「県が要らなくなる」という見解だけを抜き出しているが、朝日新聞は「村上総務大臣の危機感ゆえの発言」と擁護している。共同通信は本文中で「危機感を示した」という点を併記。さらに読売新聞と朝日新聞は「仮に人口が半減すれば」とタイトルでわざわざ加えている。
今回のニュースの特徴は「これと言って大きな騒ぎにならなかった点」にある。
石破総理は地方創生を看板に掲げているので、仮に石破総理の政策が重要視されていれば「少子高齢化を織り込んだ発言であり閣内不一致だ」という評価になっていたはずである。
だが、そもそも石破総理の発言自体が「意味不明で実効性がない」と捉えられているため村上総務大臣(念の為に付け加えるならば総務大臣は地方自治を担当している)の暴論も問題視されなかった。日本人がすでに政治がこの国のあり方を大きく変えてくれるとは思っておらずかといって積極的な行動を起こして状況を変えようとも思っていないということがよくわかる。とはいえ個人的見解なので「県の廃止」に向けてどう動くかということを答えることもない。おそらく総務省の見解を棒読みしながら「そんなの意味ないのになあ」と思い続けるのだろう。政府内評論家である。
所詮切り抜きではないかと言われそうなので文脈全体を確認しておきたい。
守島議員は地方のあり方を抜本的に改革しなければならないのではないかと真面目に質問しているのだが、村上総務大臣は総務省の見解を棒読みしたあとで「どうせ人口は減ってゆくのだからそんな議論をしても無駄」と受け取られかねない「個人的」主張している。
村上氏の「個人的」主張の根幹は県・道州の廃止だが、守島さんは主張の違いについて切り込めないままで議論を終了している。このやり取りを額面通りに受け取ると総務省の見解など単なる建前に過ぎず実効性はないと大臣が仄めかしていることになる。
なぜこんな人が総務大臣になったのだろう。村上総務大臣は長らく党内野党だった。山崎拓氏の求めに応じて石破茂氏を応援することにしたそうだが「誰も残らなかった」ために結果的に石破政権誕生の中心人物ということになったようだ。要するに論功行賞人事だったのだ。
安倍政治を終わらせるというタイトルは現代の「作文」だと思うが、金融緩和の正常化(アベノミクス懐疑派)で財政再建論者である。少子高齢化を前提として国の規模を縮小してゆこうという考え方を持っているようだ。
「自民党として政治資金問題のお叱りを受け止め、政治改革を進めなければなりません。また喫緊の課題である『財政再建』と『金融緩和の出口戦略』と『社会保障と税の一体改革』の3つを実現する必要があります。少数与党であっても野党と熟議のうえで改革を進める。これが石破政権の存在理由だと思います」
「石破総理とともに安倍政治を終わらせます!」村上誠一郎総務大臣が思い描く日本の未来(現代ビジネス)
石破総理は地方創生を訴えているが、おそらく国民の多くは「そんなのは無理だろう」と考えているのではないかと思う。だからこそ村上さんの発言にもそれほど反発が起こらない。むしろ地方創生のための予算を削って「給食をタダにしてくれ」という類の主張に賛同する人のほうが多いのではないか。
その意味では石破内閣は党内野党内閣といえる。建前上は党や政府の見解を主張するが本音では信じてなどいないという人たちである。
だがこの姿勢は国民からさほど大きな反発は受けない。
時事通信が内閣支持率を継続的に調査している。この中に日米同盟について聞いた項目がある。トランプ大統領に一方的に振り回される形になった日米会談だが「大枠に影響がない」と考える人が過半数なのだそうだ。そもそも国際政治に興味がないか「どうせ日本が何を言ってもアメリカと対等になれるはずもない」と諦めている人が過半数なのだろう。
石破茂首相は日本時間の8日、トランプ米大統領と初の首脳会談を実施した。今後の日米関係の見通しを尋ねたところ、「良くなる」10.1%、「悪くなる」23.2%で、「変わらない」が51.3%だった。
内閣支持、横ばい28.5% 高校無償化、制限撤廃6割弱―時事世論調査(時事通信)
日本政治についてみていると独特の諦めを感じることがある。失われた30年を通じて「どうせなるようにしかならない」という姿勢が染み付いているようだ。