予めお断りしておくとこれは石破政権批判ではない。単に多くの人が感じているが言い出せない「もう終わっているよね」という感覚を記述するためだけの文章だ。
石破政権はすでに詰んでいる。
石破総理は政府・党をあげた勉強会を開きトランプ大統領対策をして会談に臨んだ。ところがその後で鉄鋼とアルミに対する関税が発動することが決まってしまう。鉄鋼とアルミの関税自体が日本の経済に大きな影響を与えるとは見られていないが「自動車部品にも関税が及ぶのではないか」と不安視されている。
EUなどは報復関税を準備しているが石破総理は「影響を精査したうえで必要な対応を要望する」としている。要するに「なんとかしてください」と懇願するしかないのが唯一の日本の外交オプションと言えるだろう。懇願という言い方が嫌いな人は「陳情」と言い換えてもらってもいい。中身はどうせ同じことだ。
アメリカ合衆国に対する配慮から日本は核兵器禁止条約には参加せず(自民党は議員を送ることさえためらっている)ICCの非難声明にも参加しなかった。とにかくアメリカが怖い。なんとかすり寄って今のままの日米同盟を維持したいというのが日本政府の基本姿勢である。
すでに「牛肉などの農産品に影響が出るのではないか」と懸念する報道や、自動車部品と農産品がセットになった関税が発動するのではないかという恐れが広がっている。ただこれが日米同盟の安定につながるかどうかは未知数だ。トランプ大統領は長期的な関係性を重要視しない。短期的なディールこそが全てなのだ。
自民党と農政の間には別の緊張もある。
米の価格が高止まりし備蓄米の放出を決めた。しかしながら自民党の支持母体であるJAは米の価格が高いままであることを期待しているため政府の米価対策は後手に回っている。これが市場に「米の価格は上がる」という投機的期待をもたらしたようだ。
新規参入した業者が米を大量(政府推計によると21万トン)に保有しているものと見られる。農水省は「米の備蓄にはインセンティブはない」と示すために備蓄米の放出を決めた。しかし、JAに睨まれたくないために「1年後には必ず買い戻す」としている。この政策は末端の農家のためというよりもJAを意識している。同じことは酪農にも言える。酪農では離農が加速している。彼らは農業を守っているわけではなく集票装置を怒らせることが怖いのだ。
すでに説明した通り赤澤経済再生担当大臣は「経済学的にはインフレ」だが「需給ギャップが解消されておらずデフレ脱却などできる状態にない」と表明している。アベノミクスの評価が保守派の反発につながることを恐れているのだろう。このどっちつかずの対応は「コラム:「上げるも地獄、上げぬも地獄」の日銀=門間一夫氏」という状況を生み出している。
現在、保守派が象徴的に扱っているのが夫婦別氏問題だ。戸籍制度を死守するという建前になっているが実用的な意味合いがあるわけではないのではないか。石破総理は議論を加速すると説明しているが党内では「議論に締切は設けない」ということになっている。保守派を離反させたくないがかといって無党派層にも嫌われたくない。共同通信の2つの記事は矛盾しているように見えるがこれは、石破総理と逢沢一郎座長についての別々の記事だからである。国会での説明と自民党内の説明を使い分けないと自民党は崩壊してしまうということだ。
冒頭でこれは石破政権批判ではないと書いた。
石破総理は日本人の「面倒なことには関わりたくない」「変化したくない」という態度を反映しているだけであって、おそらく総理大臣が変わったとしても状況に大きな変化はないものと考えられる。
この詰んだ状況を最も色濃く受けているのが予算審議である。自民党・公明党と立憲民主党、国民民主党、維新との間にバラバラに協議が進んでいるが落とし所が見えていない。3月2日までに衆議院で予算案を通過させなければ年度内成立に黄色信号が灯るという状態だ。
立憲民主党にとっても単なる選挙運動なので「成果は勝ち取りたい」が「日程闘争をして有権者に嫌われたくない」という態度。
つまり石破政権が立憲民主党主体の政権に変わったところで現実的な対応力を持った政権が生まれる公算はそれほど高くないということになる。「誰にも嫌われたくない」という気持ちが先にたち結果的に選択肢がすべて消失しつつあるのが現在の日本の政治といえる。