トランプ大統領がガザ合意の破棄とウクライナのロシア領化を容認した。「トランプ大統領は国際政治を理解していない!」と憤ることもできるし、国際政治をあくまでも不動産デベロップメント事業だと見ていると考えることもできる。いずれにせよ「アメリカ合衆国がこれまで築いてきた国際的地位を貶める」行為であることは間違いがない。
ハマスは人質交渉を遅らせているがその後に態度を軟化させているそうだ。問題を作り出しイスラエルに妥協を迫っていると見ることができる。しかしながらトランプ大統領は土曜日の12時までに人質が解放されなければハマスは地獄を見ることになると宣言した。
ただし、発言の途中で「アメリカ合衆国はこの戦争の当事国ではない」と気がついたようで「結局どうするかはイスラエル次第だ」と発言を修正した。さらにアメリカ軍はイスラエルに送らないとしている。
トランプ大統領の戦争に関する発言は「めちゃくちゃででたらめ」以上のものにならない。
トランプ大統領の本職は不動産デベロッパーである。英語のプレジデントは大統領と社長の両方で使えると考えると、トランプ氏の意識は「アメリカInc.の経営者」なのかもしれない。
ガザの所有はガザの開発に対するコミットメントの証であると考えており周辺国も(何らかの見返りをアメリカに支払いさえすれば)デベロップメントに参加して良いと言っている。パレスチナ人は不動産開発に邪魔な存在に過ぎないのだから「地上げ」と言っても良いかもしれない。
週末に行われたFOXニュースとのインタビューが10日に放映された。その中でトランプ氏は、ガザを管理し復興させるという自身の計画について、パレスチナ住民がガザ地区に帰郷する権利はないと述べた。
イスラエルは停戦合意破棄を、ハマスが人質解放拒否なら-トランプ氏(Bloomberg)
「自分たちの再建については、中東の他の国々にその一部の建設を任せるかもしれない。我々の支援のもとで、他の人たちがやるかもしれない。しかし、私たちは(ガザ地区を)買い取り、所有することにコミットしている。ハマスが絶対に戻ってこないようにする」とトランプ氏は記者団に述べ、世界中の人々がガザに移住できるようになり、パレスチナ人はそこに戻りたくないはずだとも話した。
トランプ氏、ハマスに人質全員解放を「土曜日12時」までに要求 「でなければ地獄のような事態に」(BBC)
この態度はウクライナにも共通している。
トランプ大統領の理解によればアメリカがウクライナに投資するのは、その後にウクライナの土地開発によって利益が得られるからである。仮に利益が得られないのであれば「ウクライナは自分たちには関係がない土地」ということになりロシア領になっても別に問題はないということになる。
今回、時事通信とCNNの記事を並べた。時事通信は「領土割譲」を主眼にした文章を書いているのだが、CNNはバンス副大統領とゼレンスキー大統領の会談を目前に「ウクライナに譲歩を迫る狙いがある」と書いている。つまりアメリカ側は「ビジネス・ディール」を念頭にした記事を書いているということになる。時事通信はトランプ氏を大統領と見ているがCNNはビジネスマンだと考えているということだ。
- ウクライナ「ロシア領になるかも」 トランプ氏、領土割譲示唆か(時事通信)
- Ukraine ‘may be Russian someday,’ Trump says ahead of Vance-Zelensky meeting(CNN)
トランプ社長の考えは必ずしも間違っているとは言えない。土地の価値はその土地から得られる利益の総和に現在価値を加味したものだ。ガザの場合はリゾート開発によって価値を引き出せると考えており、ウクライナはレアアースの産地とみなされている。
問題はトランプ氏は社長ではなくアメリカ合衆国の大統領であるという点にある。では社長と大統領は何が違うのか。
社長はミクロ経済に専心して企業価値の最大化だけをやっていればいい。しかし、大統領はマクロ経済も見る必要がある。それだけはなく大統領は社長たちがビジネスをやりやすいような市場を整える大きな責任を負っている。
トランプ大統領はそもそも大統領業が何たるかを理解しておらず、その経済認識もおそらくは1980年代のもので止まっている。ボルカーショックによりインフレが克服されたあと「双子の赤字」を抱えた時期にあたる。アメリカの製造業は長期停滞気に入り日本に負けていたという時代である。
Comments
“トランプ大統領がガザ合意破棄とウクライナのロシア領化を容認” への4件のフィードバック
トランプ大統領の「ガザ観光リゾート計画」を「ふーん」という感じで聞いていますが、ニュース映像で見るがれきの街になっているガザを見ると、あのがれきを撤去してリゾート地を作るのが非現実的に感じてしまいます。たぶんそう思うのは、私が日本での現状に重ねて見てしまっているからかもしれません(リゾート地を作るような体力が今の日本にないように感じているため)。
がれきの撤去と建設にかかる費用や、現地に住む人を追い出す手間、テロに対する防衛費用等よりも、リゾートで得られる利益が上回るのかという疑問があります。ガザという地にリゾートとしての需要があるのか分からないことが、そういう風に思う一因なのでしょう。
リゾート地計画には異議はありません。問題はパレスチナ人が「計画の邪魔」になるから「出てゆけ」という部分だけです。ただトランプ大統領はパレスチナ人にいい暮らしをさせるためにリゾート地計画を推進することはないでしょう。あくまでもそこから利益を得るのが不動産屋さんの発想ですから。
かつてアメリカは”自国”の先住民を追い出したり、後見人制度でオイルマネーを横取りしていた時代があったことを考えると、トランプ大統領は本当に”古き良き時代のアメリカ”を目指しているんだなと思いました。
本人も支持者も明らかに過去に幻想を抱いている感じでしょうね。
あの時代は自分達が無条件で肯定されてた、しかし今は存在その
ものが否定されてしまう、だからこそ奴らを否定し返して全てを
取り戻すのだと息巻いてるんだと思うんです。無茶苦茶ですけどね。