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石破総理トランプ大統領からハシゴを外される

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国内外問わず石破総理の対トランプ大統領会談は成功とみなされている。ただ、石破総理の帰国直後に鉄鋼とアルミに25%の関税が科されることになり将来の自動車関税にも含みを残す発言が行われている。石破総理の会談を成功だと評価した国内のコメンテータたちは早速発言の修正を迫られそうだ。

今回最も的確な評論をしていたのがBBCである。少数与党状態の石破総理は個人的得点を必要としていたと書いている。つまり石破政権の延命のための会談であって日本の国益に適った会見とは必ずしも言えなかったのだ。

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BBCは石破総理が勉強会を開き入念にトランプ氏との会合に備えていたと伝えている。ただしその勉強の目的は個人的なものだった。

日本のコメンテータたちがこのような冷静な発言ができないのは政治に忖度しているというよりは視聴者対策だろう。テレビは「日米同盟は今後も盤石であり日本は変化する必要がない」という回答を期待する視聴者の期待に応えなければならない。事実よりも心情の方が優先される。

日本がほっと一息つくためにすべきことはいくつもあったが、今回の石破氏の訪米の主な目的は個人的なものだった。

【解説】 石破首相の「トランプ大統領対策勉強会」、日米首脳会談で成果出す(BBC)

その後、トランプ大統領は鉄鋼とアルミに関税をかけると発表した。形式上はこれまでの優遇措置の撤廃ということになっている。共同通信によると3月12日に発動されるそうだ。

一部メディアから「史上最も愚かな」と評論されていた貿易戦争の宣戦布告である。

結果的に石破総理は自分がきっかけになった関税は回避することが出来ただけで関税そのものは回避できなかった。オーストラリアの首相は「トランプ大統領と関税回避の話し合いをしている」と言っている。このあたりがトランプ大統領の「上手な」ところである。例外なきといいながら実際に例外を設けることで相手国からの妥協を図っているのである。「3月12日までになにかお土産をお待ちしていますよ」ということになる。オーストラリはアメリカ合衆国から航空機を購入していることが評価されたのではないかとBloombergは書いている。

ただし、すべての国が交渉に応じるというわけではない。EUとブラジルは「受けて立つ」構え。

ブラジルは金属関税にハイテク関税で対抗する可能性があり、産経新聞はこの種類の関税を心配している。

トランプ大統領は製造業をアメリカに戻したい。アメリカの製造業が競争優位性を失いつつあった1980年代のままで認識が止まっているものと思われる。そのためには自動車産業(最終成果物+部品)にも関税がかかる可能性がある。

日本の製造業はIT化・AI化に失敗しており旧来型の自動車産業だけが唯一生き残っている。自動車工場だけで地域経済を維持している地方自治体もあるだろう。仮に自動車関税がかかれば日本経済には壊滅的な被害が出ることが予想されていることから地方からは「石破さんなんとかしてください」という要望が出ることだろう。

ただし産経新聞は「自動車と牛肉の関税バーター」を心配している。

産経新聞は「日本はアメリカからの関税をほぼ撤廃している」ことから報復関税の影響を受けないだろうと分析している。ただしこれは保護主義的な鉄鋼・アルミ関税の話が出る前の分析である。その例外になっているのが農産品だ。自民党は集票をJAに依存しているため農業市場の完全開放は自民党の集票構造を根本から破壊するだろう。

結局石破総理は「何を取って何を捨てるのか」という選択を迫られるのだ。

とにかく「いじめ」のターゲットにならないことだけに集中していた石破総理がトランプ大統領から「本当にタフな大統領」とみなされているかは今後石破総理がトランプ大統領との交渉で明らかになるだろう。個人的には「単に侮られているだけ」と思っている。交渉力は期待できないのではないか。

ただし、保護主義的な関税の引き上げはアメリカに利益をもたらさないだろうという予測がある。

一期目は減税のあとに関税があったため関税の影響は最低限に抑えられた。しかし今回は順番が逆になっているという指摘がある。

国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、モーリス・オブストフェルド氏(現ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー)は、公約に掲げていた成長促進政策はいずれも時間と労力がかかるが、関税の引き上げ、不法移民の強制送還、連邦職員の削減はより容易だと就任早々にトランプ氏が判断したことを示唆していると指摘。その上で「何かを創造するよりも、破壊する方がずっと簡単だ」とし、「破壊は景気収縮的だ」と述べた。

トランプ経済に下振れの予感、減税より関税が先行-1期目とは逆(Bloomberg)

そもそも、トランプ大統領の政策は景気刺激策が多い。FRBがボルカーショックによりインフレを退治したあとの1980年代のアメリカの政策の影響を受けているのかもしれないが現在の状況はむしろ「ボルカー前」に似ている。これはドルの高止まりを通じてアメリカの製造業には逆風になるだろう。

そもそも関税自体もアメリカ国内の諸物価の値上がりにつながることが指摘されており中間所得者以下の暮らしを直撃するはずだ。

さらにUSスチールの所有を認めないという宣言はすなわち高品質の鉄製品がアメリカ合衆国では作られないということを意味する。知的財産の流出を恐れる日本製鉄は高品質の鉄製品をUSスチールに作らせるよりも自分たちがコントロールできる工場をアメリカ合衆国に作ったほうが得になる。

このように保護主義的な政策は中長期的にはその国の産業を破壊する。つまりトランプ大統領はEUなどとの間の貿易戦争を通じてアメリカの製造業の弱体化を図っているとさえ言えるのである。

その中にあまり注目されていない小さな記事を見つけた。

トランプ大統領は財務省の支払いに問題があると指摘した。ところがハセットNEC委員長がこれは「債務のことではない」と否定している。債務の支払いを遅らせると元首や行政責任者が宣言することをデフォルトという。おそらくトランプ大統領は自分がデフォルト宣言と取られかねない発言をしたとは気がついていないだろう。

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