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トランプ大統領のアメリカ合衆国に新興宗教化の懸念

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先日、トランプ政権について書いたときに「信仰局」と「反キリスト教タスクフォース」が気になった。構造は非常に複雑なのだが新興宗教化が進んでいるように思える。アメリカの国力の源泉となっていた科学技術や多様性への弾圧が進みそうだ。

中世の科学弾圧は「神の権威」とカトリック教会の既得権の維持が目的だった。しかし今回のアメリカの新興宗教には「お金に対する執着」を見て取ることができ、これが多文化主義や科学技術を弾圧するという構図になっている。

一方で最高裁判所の保守派の判事たちは「アメリカを白人中心の国家とし提示する」ことを目的にしてトランプ大統領を応援している。この「ズレ」が今後何を意味するのかが知りたいところである。

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反キリスト教タスクフォースと信仰局についてはREUTERSの「Trump to create religious office in White House, target ‘anti-Christian bias’」という記事が詳しい。

まず反キリスト教タスクフォースだが、パム・ボンディ司法長官がトップを務めている。パム・ボンディ氏はFBI長官候補のカシュ・パテル氏が持っているとする「敵のリスト」について「司法省で公式にそんなリストを作ることはない」と否定してみせた。パテル氏も承認手続きでは陰謀論を否定している。

ただしこれはマスコミの批判をかわすための建前であって、彼らの本音はわからない。ボンディ司法長官は過去に新興宗教であるサイエントロジーとの関わりが指摘されている。ユタ州に本部を持つ末日聖徒イエス・キリスト教会も聖書の他に聖典を持っている。彼らは新興宗教扱いされることを嫌うため「モルモン教」と呼ばれるのを嫌がることがある。だが、サイエントロジーはそもそも聖書を聖典としていないようだ。ただし自民党と統一教会の関係からもわかるように「単に集票を期待しているだけ」なのか「信者」なのかはわからない。政治家と宗教団体の関係は複雑だ。

アメリカの陰謀論者は「アメリカはディープステートと呼ばれる影の存在に支配されている」と考えている。このディープステートからの回復運動の先頭に立つのが「神に選ばれた」トランプ大統領だ。トランプ氏は暗殺されそうになったが偶然に助かっている。これは神がトランプ氏は神に選ばれたことを示すための「試練」であり「しるし」である。自身もキリスト教徒である石破総理もこの論法を持ち出しトランプ大統領を称えて見せている。

さらに信仰局(英語では宗教局)のトップはポーラ・ホワイト=ケイン牧師である。この人は福音教会系の牧師でトランプ大統領の個人的霊的アドバイザーを務めている。

この人が提唱するのが「繁栄神学」だ。キリスト教の一派ということになっているが、経済的・肉体的な恩恵=ご利益を追求する宗教で寄付をすればするほど利益が得られるという教義。伝統的なキリスト教は「ご利益信仰」を押し付けることはないのでこれも新興宗教的な神学と言えるが一応の源流は聖書ということになっているようだ。

ただし「ご利益信仰」が新興宗教なのかという点は議論の余地がある。

アメリカ合衆国を作った人たちは国王が主催する英国国教会(日本では聖公会として活動している)の抑圧を逃れ「経済的繁栄」と「キリスト教的宗教の自由」を両立できる国づくりを目指してきた。アメリカ合衆国の成功を支えてきたのがキリスト教的な勤勉さだ。これが変質し行き着いた先が繁栄神学だと考えるとそもそもアメリカのキリスト教は当初から新興宗教的だったということになる。

ただしこの新しい宗教運動はすでに影響を及ぼし始めている。

第一にもともとイギリスから来た建国者は「キリスト教の枠内で」の信仰の自由を求めていた。このため多民族が活躍する多様なアメリカは望んでいない。

第二にそもそも伝統的なキリスト教徒は自分たちが理解できない科学技術を嫌う。

この2つの要素を合わせたものが「WOKE=目覚めた人・意識高い系」である。WOKE Purgeが始まっており、すでに様々な科学振興活動が止められている。共和党支持者の多くは「民主党はWOKEという邪教に侵されている」と信じているようだ。すべての活動を止めて「邪教的要素」を取り除こうとしているのである。

今回調べていて驚いたのが「伝統的なキリスト教」の危機感だ。カトリック・ニュース・エージェンシー(All Slideによれば「極めて右派的とされる」)もFBIの一連の動きを批判している。曰くFBIはキリスト教徒を弾圧しようとしていたということだそうだ。

キリスト教徒全体が民主党政権化でおきた運動をどう捉えていたかはわからないが伝統的キリスト教徒の中にも民主党政権に対する被害者意識を持っている人もいるということになる。

なおトランプ政権は科学研究費の多くを差し止めその中から「反トランプ・反キリスト教・反共和党」の要素を取り除こうとしている。しかし基準が極めて曖昧なためアメリカの科学技術振興にはかなり大きなブレーキが掛かるだろう。しかしトランプ政権が止めているのはそれだけではない。消費者金融保護・国際援助・国内援助も効率化の標的になっている。この新しいアメリカの宗教をどう呼ぶのかは別にして彼らは「施し」を嫌う。そのエージェントになっているのがイーロン・マスク氏だ。DOGEの職員については触れないがQuoraでは問題のある職員たちについての議論が交わされている。

宗教的な理解が乏しい日本ではイーロン・マスク氏が好き勝手にやっていると言う理解が広がっているように思えるが、実際には「新興宗教化したキリスト教の回復運動」といいう側面がある。

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