トランプ大統領が「自分はプーチン大統領と話をした」と主張したが、クレムリンは否定も肯定もしなかった。このことからお互いにとって成果になるものはでなかったのだろうということがわかる。
トランプ大統領は「恫喝一本足打法」の政治家だ。このためすでにアメリカ合衆国と関係がある国との交渉はうまくいくことが多い。今までの支援を打ち切ると脅して譲歩を引き出せばいいからだ。つまり、これを裏返すとすでに関係が悪化している国との交渉は得意でないことになる。
トランプ大統領は非常に不思議な大統領で自らを平和の使者だと考えている。つまりいい人でいたい。
また、ディールに具体性がない。ガザ地区の所有提案は「一体どのように所有するつもりなのだろうか?」と疑問視されており、日本製鉄の「所有ではなく投資」提案も「結局それは何を意味しているのだろうか?」がよくわかっていない。具体的な着想がないため「相手の提案まち」になることが多い。石破総理と外務省はこれがわかっていながら日本製鉄をトランプ大統領に差し出している。
これらを考え合わせると、トランプ大統領は何らかの恫喝を行いプーチン大統領に譲歩を迫り、相手の提案が気に入らなければ恫喝を実施する以外にない。しかし軍隊は投入しないのだからプーチン大統領が恫喝に屈することはないだろう。成果になるものが何もなかったとしても何ら不思議はない。
一夜にしてウクライナの戦争を止めるとしていたトランプ大統領だがおそらくウクライナの戦争を止めることは難しいのではないか。
同じように中国との間にも関税が発動されている。すでに敵対的な関係が高まっているため慌てて交渉に乗り出すまでもないと考えているのかもしれない。中国も先程報復関税の発動を決めたようだ。
国内ではかなり混乱が広まっているようだ。福音派は「トランプ大統領は神から選ばれた」とトランプ大統領を持ち上げてみせた。またおそらくトランプ大統領は既存の政治家(特にルックスのいい人たち)に対してはコンプレックスも持っている。これが合わさり連邦の中に「信仰局」と「反キリスト教(=多様性重視)取り締まり」タスクフォースを作る。
信仰局を率いるポーラ・ホワイト牧師は「トランプ氏の個人的な霊的指導者」とされる。ホワイト牧師は「繁栄の神学」を信仰している。経済的な成功を神の祝福と結びつける独特の(つまり伝統的なキリスト教からは批判される)信仰を持っているとされる。反キリスト教タスクフォースの責任者もサイエントロジーとの関係が指摘されることがあるため、トランプ大統領のいうキリスト教には新興宗教的な変質が見られる。
しかし、具体的な提案はできないのでイーロン・マスク氏の手腕に頼っている。タイム誌は石破総理が横にいる席で「タイム誌がマスク大統領を表紙に持ってきた」と質問した。また裁判所は財務省へDOGEのアクセスを仮差し止めしている。いくつもの事業を抱えるイーロン・マスク氏にとって見れば連邦政府の支払い情報は宝の山だろう。
福音派・ネタニヤフ首相・南アフリカ出身のマスク氏などに突き動かされる形でネタニヤフ首相を起訴しているICCへの制裁をほのめかし、南アフリカの支援も止めることにした。南アフリカ支援を止めるのは「白人差別」が理由なのだそうだ。アパルトヘイトを否定してきた国際社会に真っ向から挑戦状を叩きつけた形になる。
CNNは白人至上主義者の侵入を防いだ黒人コミュニティの話題を象徴的に扱っている。
トランプ氏が「平和」を望めば望むほど国際社会はアメリカ合衆国から離れてゆき、国内的な分断も加速する。またトランプ大統領の周囲にいる「熱心なキリスト教徒」も精神性よりは現世での成功を提唱する新興宗教的な色彩が強い。これが、日本ではあまり伝えられていないアメリカの実像である。
伝統的なキリスト教から見るとかなり異質な世界が展開されているため、トランプ大統領が考える世界平和も「独特な」ものになるわけだ。