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「なんとなく無駄遣い」に滅ぼされる国、日本

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PIVOTで医療費のムダについて扱ったプログラムを見つけた。日本は一生懸命頑張っている人が何となく無駄遣いをする人たちに使い倒される国になるんだろうなあと感じた。

プログラムは高額療養費制度の問題を入口にして「低価値医療」の問題に切り込んでいる。ただネーミングがあまり良くないということになり「無駄遣い医療」という言葉が提唱されていた。無駄遣いといっても「なんとなく無駄遣い」だ。

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プログラムはおよそ1時間で上下に分かれている。長いので「ながら聞き」がおすすめ。

前回「消費1.1%減」のエントリーで軽くで触れたように2022年度の医療費が2024年10月11日に報道されている。全体は46.6兆円になるのだがここから4兆円を削減しようというのが維新のプランだ。

  • 医療費総額は46.6兆円で過去最高額になる。つまり維新はだいたい10%減らそうとしているということだ。GDP比では8.24%となる。
  • 前年比4%増加したが団塊の世代が後期高齢者入りしたことが原因。
  • 保険料が23.3兆円で約半分、公費は17.6兆円(全体の38%)、患者の窓口負担は5.4兆円(12%)

日経新聞は「後期高齢者が増えたのが原因だ」としているが、今回登場した2名の医師は「そもそも無駄な医療が多すぎる」と指摘している。抗生物質はウィルスが原因の(つまりほとんどの)風邪には効果がないそうだ。確かに湿布薬も大切だろうが「そんな悠長なことを言っている財政状況ですか?」と苦言を呈している。

しかしながら、話の「核」の部分は別のところにあるようだ。

現在のような「出来高払」の状況では無駄とわかっていても患者の求めに応じて「昔ながら」に抗生物質や湿布を出す医師が儲かり患者もそのような医師を好む傾向があるのだという。つまり「出来高」をやめて1名・1疾患あたりの予算を区切らない限り今のような状況が続くだろうという。

ではなぜこの状況が変わらないのか。理由は2つある。1つは医師会・看護師会・薬剤師会が強い状況。つまり自民党政治の問題である。だがそれだけではなくこれまでの意識を変えられない患者も「前はもらえていたものがもらえなくなること」に不満を抱くだろうというのだ。

前回マイナンバーカードと健康保険について書いたところ「なぜ変えるべきではないのか」を延々と書き連ねるコメントが付いた。ここからわかるように日本人は他人から変わるべきだと言われるとそれを無条件に否定したがる傾向がある。そしてこれが結果的に無駄の温存につながる。

誰かがリーダーシップを取って意識を変えない限り「なんとなく無駄遣い」は続く。当然手取りに影響が出るので消費は伸びない。このため日本は成長せず労働者はやりがいを感じられないだろう。節約志向がすっかり定着しており「心がワクワクするような」新製品が日本の市場から誕生する可能性は限りなくゼロに近い。

前回日本製鉄問題について石破総理のアプローチを見た。石破総理はトランプ大統領との会談を成功させるために、あらかじめ日本製鉄と連絡を取り「さらに投資を増やすように」要請したのだという。そのうえで石破総理はトランプ大統領に「所有ではなく投資」という提案をした。つまり、日本製鉄に言い含めトランプ大統領に差し出したのだ。

日本製鉄は所有権を得られる見込みがなくなり(おそらくはあまり優秀ではない経営者を温存したままで)さらにUSスチールに儲けを注ぎ込むことになるだろう。

読売新聞は石破総理の言い分をそのまま伝えているが日経新聞は「今の日米関係など金メッキなのではないか」とかなり強く石破総理に反発をしている。多数派は「これまでと同じ状況が続く」と満足したが実際の稼ぎ手は「ふざけるな」と感じたことになる。

日曜討論を見ると石破総理は「日本製鉄の問題はあくまでも民間の取引である」と言っている。日米首脳会談が終わり「今まで通りの日米同盟が維持できた」と説明さえできれば、あとはもうどうでもいいということなのだろう。

この一連の流れだけを見ると石破総理を責めたくなるのだが、よくよく考えてみればこれは「今まで通りでさえあれば細かいことはどうでもいい」という日本人の心情にもっとも合致した総理大臣だと考えることもできる。

石破総理は「自分には理想があるが、どうせみんなそんなことは聞きやしない」と考えているのだろう。こんな人が日本人に変革を迫れるはずはない。だが健康保険証1つ変えようとしても大騒ぎになってしまう。結果的に諦めて斜に構えた総理大臣のほうが長続きする可能性が高い。

このように政治的には多数派の意識を変えるよりも頑張っている人に「応分以上の負担」を求めたほうが簡単だという事情がある。これは大きくなりすぎた会社ではよく見られるありふれた光景だ。結果的に頑張って成果を出す人は会社を辞めてしまうか「頑張っても頑張らなくても同じこと」と理解するようになる。

こうして「今まで通りダラダラとやりたい人」が勝ち「やる気がある人が淘汰されてゆく」のが日本の民主主義の現在地なのかもしれない。憤る人・呆れる人など感想は様々だろうがまずは構造をありのままに捉えておきたい。

なお、TBS CrossDigでは「The規制改革」というプログラムが始まった。こちらはなぜ無駄な規制が多いのか?という問いかけで始まっているが、やはり「なんとなく」なんだそうだ。

ネットメディアは氷河期世代の人達が作り手の中心になってきており具体的な問題提起も始まっている。彼らはこれまでの地上波では主役になることが出来なかった。

あとはこれらの問題提起がどの程度実際の政治運動に結びつくかなのだろう。従来型の「左右イデオロギー」とは違う合理主義の流れが(少なくともネットメディアでは)育ちはじめているようだ。

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