アメリカの内政がトランプ大統領によって破壊されている様子をお伝えした。福音派の人たちが「トランプ大統領が銃撃事件で助かったことには意味がある」と囁きそれがトランプ氏に使命感を与えているようだ。
同じことが外交でも起きている。ネタニヤフ首相はトランプ大統領の着想を褒め称え、トランプ大統領はガザの所有に意欲を見せている。国際的な批判は全てトランプ大統領が受けてくれるのだからネタニヤフ首相はその影で好きなことができる。イスラエル軍は「ガザの住民が自主的に転居できるちょっとしたお手伝い」に乗り出す計画だ。
トランプ大統領の人柄を褒める人は「トランプ氏の人柄は気さくで他人に思いやりがある」という。この指摘じたいは間違っていないと思う。しかしその思いやりの範囲は極めて狭く「外にいる人達」のことが見えていない。
BBCはトランプ氏のガザ所有は国際法違反である可能性が高いと言っている。ハマスやエジプト・ヨルダンなど周辺国もガザからの住民移送に反対しているからだ。この状態で自発的な出国を認めたとしてもすべての住民が出国することにはならず軍隊による強制排除が必要になるだろうというのがBBCの考え方だ。
トランプ大統領の周辺は「退去は復興が済むまでの一時的なものである」と主張し「トランプ大統領はガザ地区の人々のためを思っている」と強調する。しかし同時に「復興には長い時間がかかる」とも言っている。イギリスが香港の一部地域を「長期租借」したのと同じ論法で既成事実を作ろうとしていると見るべきだろう。
またトランプ大統領は米軍の導入は否定している。この計画はガザ住民のためのものでありガザ地区の住民は自発的に退去を要望するだろうというのだ。
しかしこの論法にも裏がある。イスラエルは軍隊を派遣して「ガザ地区から住民が出てゆくことを手助け」する考えだ。トランプ大統領の軍隊を使わない退去策は実現の可能性が低くアメリカ合衆国の国民は自国軍が地域に介入することを良しとしない。ならばイスラエル軍がその役割を担ってあげるという名目でガザ市民に圧力を加える。しかしこれはトランプ大統領の素晴らしい構想を助けているだけなので「クレームはホワイトハウスにどうぞ」ということになる。
結果的にこの「ディール」はネタニヤフ内閣を支える極右官僚に有利なものになる。イスラエルの国防大臣は「アラブ周辺国がガザ難民を引き取らないならばイスラエルを批判してきた国が引き取るべきだ」と根拠が明らかでない主張を繰り返している。
- 【解説】 ガザの「所有権」、トランプ氏は本当に獲得できるのか(BBC)
- 【解説】 トランプ氏のガザ計画は実現しない、だが影響は残る 国際編集長(BBC)
- パレスチナや国連、「民族浄化」と強く非難 トランプ氏のガザ再建構想(BBC)
トランプ大統領の構想は国連からもジェノサイドであると批判されておりアメリカがこれまで培ってきた国際的地位は大きく揺らぎつつある。西側先進国はトランプ大統領を刺激したくないと考えながらもアメリカ外交の迷走に頭を悩ませている。ルビオ国務大臣もアメリカの外交的地位は守りたいがトランプ大統領との間に亀裂を生じさせたくない。アメリカ合衆国はパナマ運河の無料通行権を獲得したと主張しパナマが否定する騒ぎになっている。
イスラエルの地域戦略はアメリカに敵対するイランを巻き込むことだった。BBCによるとネタニヤフ首相は長い間かけてイランの核合意を潰す方向に動いている。しかしトランプ大統領は外交の天才である自分ならばイランとのディールをまとめることができると考えているようで更に地域情勢が混乱する可能性もある。サウジアラビアも「パレスチナ政府を認めないのであれば外交正常化は行わない」考えなのだが状況が難しくなればなるほど燃えるのがトランプ大統領だ。
バイデン政権時代からアメリカの国際的影響力は衰退していた。中国の経済的切り離し、ロシアのウクライナ侵攻に加えて、そもそもグローバルサウスの経済力が伸びているという事情がある。
トランプ政権2期目に入るとさらにトランプ大統領自身に由来するアメリカ外交の崩壊が起きている。
日本では全く伝えられていないことだが「知らぬが仏」なのかもしれない。そもそも自民党党内すらまとめきれていない石破総理が外交力を発揮することなどあるはずもない。外務省と石破総理の関係は冷え切っているようだ。前の駐オーストラリア大使である山上氏は「石破茂総理のみっともない立ち振舞まで面倒を見きれない、サポート以前の問題だ」とバッサリと切り捨てている。
どうせなにもできないのだから、こうした事情を一切知らされず「日米同盟は尖閣諸島まで含めて盤石です」という根拠の薄い政府広報を信じて生きてゆくのが良いのかもしれない。