8,600人と考え議論する、変化する国際情勢と日本の行方

エルサルバドルがアメリカの刑務所業務の下請けを志願

Xで投稿をシェア

自称「外交の天才」と呼ばれるトランプ大統領だが、上には上がいるものだ。エルサルバドルのブケレ大統領はアメリカにいる不法移民の犯罪者を受け入れても良いと表明した。そればかりか「アメリカ国民であっても受け入れて構わない」と言っている。ただし手数料は要求し、アメリカ合衆国は格安で犯罪者を追放できると主張している。つまりアメリカ合衆国の刑務所業務を下請けしようとしている。

ただし、マーク・ルビオ国務長官がこのオファーを受け入れるかは不明である。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






これまで民主党政権は「アメリカ合衆国は人権擁護に熱心な国」として自国を売り込んできた。しかしこれはトランプ大統領に言わせれば狂った左翼の戯言(たわごと)ということになっている。

手始めにUSAID(アメリカの対外援助)が潰された。今後マーク・ルビオ国務長官のもとに統合されることになっている。ただし、トランプ大統領、イーロン・マスク氏、マーク・ルビオ氏の言い分はそれぞれ異なっている。

トランプ大統領は「狂った左翼」の政策を否定できればそれで構わないという態度で細かな実務には興味がないようだ。

トランプ大統領は3日にホワイトハウスで記者団に対し、「急進的な左翼の狂人たち」が運営するUSAIDによる「とてつもない詐欺」が横行していると非難したが、具体的な名前や詳細は明らかにしなかった。

トランプ米政権、対外援助の政府機関を標的に マスク氏は「閉鎖する」(BBC)

イーロン・マスク氏はUSAIDはすべてムダであるという態度で「急進的左翼」の犯罪と決めつけている。

マスク氏は週末にかけて所有するソーシャルメディア「X」で数十回にわたり連続投稿し、USAIDがいかに詐欺と腐敗に満ちているか、しきりに主張。USAIDは「邪悪」で「犯罪組織」で「急進的左翼の心理作戦」などと繰り返した。

トランプ米政権、対外援助の政府機関を標的に マスク氏は「閉鎖する」(BBC)

実際に外交を担うルビオ国務長官は「ほとんどのプログラムに変更はない」と言っている。同盟国からの批判を懸念しているのかもしれない。

ルビオ国務長官はUSAIDを「まったく無反応の機関」と呼び、これまで担ってきた多くの機能は「継続される」と記者団に話した。「(USAIDは)アメリカの外交政策の一部になるが、アメリカの外交政策と一致しなくてはならない」と訪問先のエルサルバドルで記者団に語った。

トランプ米政権、対外援助の政府機関を標的に マスク氏は「閉鎖する」(BBC)

このため実際に対外援助プログラムがどうなるかはよくわかっていないようだが、職員は執務停止となり情報ハブも閉鎖されている。

イーロン・マスク氏は「特別政府職員」となりボランティアではなくなった。給料は受け取らないため予算面で議会の制約を受けることはない。また常時雇用ではないため上院の審査対応にもならない。支払い差し止めに絶大な権限を持つとされているがトランプ大統領は「マスク氏はすべてトランプ氏に報告する必要があるから勝手なことは出来ない」と根拠なく主張している。

トランプ大統領にとって「特別政府職員」は飼い犬の首輪と鎖のような役割を果たしているのだろう。マスク氏を提訴する権限を持ちつつ行使しないことでマスク氏をある程度制御できる。

特別政府職員として、マスク氏には連邦政府の利益相反に関する法律が適用される。この法律は連邦政府職員が自らの経済的利益に影響を与えるであろう事案に参加することを禁じる内容で、刑事と民事両方での執行が可能だが、執行できる主体は司法省のみとなっている。

マスク氏は「特別政府職員」として勤務 ホワイトハウスが発表(CNN)

これだけでも「かなり無茶苦茶」という気がするが上には上がいた。

エルサルバドルのブケレ大統領はこれまでもエルサルバドルを「ビットコイン大国」にすると宣言していた。ビットコインはエルサルバドルの法定通貨になっている。ただしこの法定通貨化はIMFの反発を招き企業がビットコインによる支払いを義務付けら得ることはなくなった。交渉は数年を要したという。エルサルバドルではビットコインによる支払いがかなり普及しているという報道もある。

数年にわたる交渉の末にブケレ氏は折れ、IMFの要請に従うために法改正に同意した。これを受け、同国の債券価格は上昇し、一部の債券は現在、額面を上回る水準で取引されている。

エルサルバドル議会、ビットコイン法改正を承認-IMFの要請に従う(Bloomberg)

ブケレ大統領は「ビットコインシティ」を建設するという壮大な計画を持っていたが、建設計画は進んでいないようだ。新しいビジネスを必要としているブケレ大統領はアメリカに対して「手数料を支払えばアメリカの犯罪者を引き取っても良い」とオファーを出した。

「(米国市民を含む)有罪判決を受けた犯罪者のみを手数料と引き換えにエルサルバドルの大型刑務所(テロリスト監禁センター)に収容するつもりだ」とし、「手数料は米国にとっては比較的低額だが、われわれにとっては多額で、刑務所システム全体を持続可能なものにするものだ」と書き込んだ。

エルサルバドル、米で退去処分の犯罪者収監を提案=米国務長官(REUTERS)

何かと「人権に狂った左翼」がうるさいアメリカ合衆国と比べるとエルサルバドルは独裁が許されており「自由度が高い」ということになる。

エルサルバドルでは2022年に出された厳格な非常事態宣言の下、単にギャングの構成員の疑いがあるという理由だけで当局が誰でも拘束できる状態になっている。ブケレ氏は収監率の高さを治安の良さの要因として称賛するが、アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体は、非常事態宣言下で収監されている8万人超の多くは無実だと認識している。

エルサルバドル、米国からの強制送還者受け入れで合意 国籍問わず米国籍の犯罪者も対象(CNN)

アメリカ合衆国ではフェンタニル汚染が社会問題になっている。2024年10月のNHKの記事には次のようにある。

フェンタニルを含む薬物の過剰摂取による死者は、おととし、全米で10万7941人にのぼった。

17歳の息子がたった2錠で命を落とした(NHK)

カナダでもオピオイド系の中毒が増えているそうだがアメリカでは中流層の崩壊が起きており薬物汚染が広がっている。アメリカで起きている市民の崩壊が経済的な原因だけによるものなのかはよくわからない。むしろアメリカ社会を支えてきた倫理が崩壊しているようにも感じられる。

トランプ大統領は細かな状況分析をせず「これはすべて国境対策に協力しない外国が悪い」と決めつけWSJが「史上最も愚かな貿易戦争」と呼ぶ関税恫喝が始まっている。カナダとメキシコの関税は猶予されたが株式市場は動揺しインフレの予測も高まっている。「パートナー」に裏切られたカナダでは反米感情が高まっている。中国は交渉は間に合わず関税がスタートした。

アメリカの中間層をすくい上げるためにはきめ細かな政策立案が必要になるはずだが、議会も行政府にも話し合いと熟議の兆しはない。そればかりか支援はすべて狂った左翼の策謀だと決めつけて「一斉に停止する」という乱暴なことが行われている。

ただしここにチャンスを見るエルサルバドルのような国もある。ビットコインによって無価値なジャングルを宝の山に変えようとしたブケレ大統領の野望は砕け散ったが、代わりに「アメリカの失敗のゴミ捨て場」としてのビジネスチャンスを見ている。

人権を巡る西側世界の状況はかなり大きく変わりつつある。長年人類が積み上げてきたものがガラガラと音を当てて破壊されているのである。アメリカ合衆国に国家の国家安全保障を依存している我々にとっても決して他人事ではない。アメリカ合衆国は変わりつつある。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です