コロンビア・メキシコ・パナマの事例を見ながら「トランプ大統領は外交の天才なのか」について考えている。中南米の事例を見る限りは一定の成果を出しており「やはり外交の天才なのではないか」という気がする。しかしカナダは事情が異なっている。援助を期待する国とパートナシップを期待する国で違いが出ていて、アメリカの中長期的国益のためにどちらが重要なのかという問いを突きつける。
アメリカはカナダ・メキシコと交渉を進めている。メキシコは対応を協議するために一ヶ月の時間的猶予を獲得したがカナダ政府高官は「カナダには当てはまらないのではないか」と考えているようだ。理由は明らかになっていない。
結果的にカナダも「30日の猶予」を獲得した。今の時点では合意されたことだけが報道されており内容は明らかになっていないようだ。
カナダ自由党はトルドー首相の代表退任が決まり現在党首選びが行われている。さらに総選挙の実施が予定されており政権交代の可能性がある。このためそもそも大きな方針が打ち出しにくいという事情を抱えている。
しかしカナダはメキシコで最も異なるのはカナダ国民の反応だ。トランプ大統領は「カナダはアメリカの51番目の州になるべきだ」と発言した。確かにカナダの経済規模はそれほど大きくないが歴史的経緯を考えれば決して言ってはいけない発言だった。アメリカ合衆国には多くのカナダ人が暮らしているが「カナダもアメリカも同じようなものだろう」という発言を好ましく思わないカナダ人は多い。
カナダでは関税が半年続けばカナダはリセッションに陥ると言う予測が出ている。一方で国民の間には反米感情が高まっている。カナダのスポーツリーグはアメリカ合衆国との統合が進んでいるため日常的に国際試合が行われている。ここでアメリカに対するブーイングが起きているそうだ。
カナダはもともとアルコール規制が厳しい国で州政府がお酒の販売を担っている。近年では「軽いお酒」の民間への解放が進んでいるそうだが州政府が運営するリカー・ショップの比重も依然高いようだ。州が運営するリカー・ショップでアメリカのお酒を販売しない運動が起きているという。アメリカの酒どころは「共和党州」が多いため共和党議員にとっては逆風になりそうだ。
バンクーバーのある西部ブリティッシュコロンビア(BC)州は、トランプ氏の米共和党が地盤とする「赤い州」で作られた酒類を店頭から撤去する。バーボンウイスキーなどの産地として知られる南部ケンタッキー州やテネシー州はいずれも「赤い州」だ。BC州のエビー首相はSNSで「カナダに関税を課すという米国の計画は国境の両側の家族に打撃を与える」と批判した。
カナダ、米国産の酒撤去 トランプ関税に対抗(時事通信)
トランプ大統領は「ディール」政治家だ。中南米はこうしたディール型取引に慣れているためトランプ氏への適応が早かった。国民は政府のやり方に反対するかもしれないが民主主義は限定的だ。
しかし、カナダ国民はパートナーシップ型の国で「中長期的信頼」を重要視する。さらに民主主義国であるため「反米感情(反トランプ感情ではなく)」が高まれば、アメリカの国試的地位は長期的に下落するだろう。
同じような反発はデンマークでも広がっている。トランプ大統領はグリーンランドへの領土的野心をあからさまに打ち出しておりヨーロッパでは警戒が広がっている。
トランプ大統領は記者たちに応え「イギリスとはなんとかやって行けるがEUには関税をかける」と言っている。EUにもトランプ流外交を仕掛けようとしている。トランプ大統領の恫喝が経済領域にとどまれば「なんとか交渉しましょう」と歩み寄ることも可能なのだろう。だが領土が絡めば全く別の話になる。
さらに都合が悪いことも起きている。ネタニヤフ首相が訪米するのだがそれに先立って西岸で50名の死者が出た。ネタニヤフ首相は訪米前にわざと派手な作戦を展開し「アメリカはこの作戦に異議を唱えない」という実績を作ったのである。殺された50人は政治的パフォーマンスの犠牲になったと言って良い。トランプ大統領はネタニヤフ首相のパレスチナ統治を支援するものと考えられるため二国共存を求めるヨーロッパとは価値観の対立が起きるだろう。
トランプ氏の選挙戦にはスーザン・ワイルズ氏という司令塔がいてメッセージを巧みに統合していた。一方で現在のトランプ行政府にはこのような司令塔がいない。報道官は弱冠27歳の若手でトランプ氏を制御することは出来ないだろうしやってもいない。内政ではかなり混乱が起きているようだ。私企業を運営するイーロン・マスク氏がアメリカ連邦政府の支払いにアクセスし一部の支払いを止めたという話も出ている。容易に利益相反に結びつきそうだ。
アメリカ合衆国の世界戦略が統合的なものになるのかあるいは「とりあえずボタンを押しまくる」乱暴なものになり「収まるところに収まるまで混乱が続くのか」はひとえにマーク・ルビオ国務長官の手腕にかかっているのかもしれない。完全に「混乱が世界を支配する」とまで主張するつもりはないが属人的で危うい状況に陥っていると言ってよいのではないかと思う。
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