フジテレビがリベンジ会見を行った。会見は10時間24分に及び内容は中継されたそうだが無惨な失敗に終わったと言ってよいだろう。無惨な失敗の理由はいくつかある。意思決定のキーマンである日枝久さんが出席しなかったこと、防衛線を決めて作文をしてしまったこと、そして最も深刻なのが被害者女性とコミュニケーションが取れていないことである。
女性の人権を第一に考えているといいながら事件発覚後「女性から話を聞けていない」のだ。
最初から破綻した会見だった。フジテレビ側は嘉納会長と港社長を世間に差し出すことで問題の沈静化を図ろうとした。しかしながら「防衛」にでっち上げた作文が冒頭で破綻する。だから会見は紛糾し10時間24分もかかってしまったのである。
フジテレビは「不幸な出来事があった」が「女性社員の人権を一番に考えた結果問題を公表しなかった」と作文した。しかしながら質疑応答などから「その女性と一切コミュニケーションが取れていない」ことがすぐに露呈している。
女性の人権を第一に考えているならばその後「女性と一切話しができなくなる」という事はありえない。これは初期対応の段階で何らかの決定的な感情の行き違いが生まれたことを意味している。
おそらく会社の限られた人たちは港社長につながるスタッフと番組を守ろうとしたのだろう。もちろんこれは「疑い」に過ぎない。だがこのあとで決定的な事が起きたようだ。
途中で遠藤副会長が「中居さんと女性の間に合意があったかどうか」わかっていないと発言する。ところがどこからか「白い紙」が送られてくる。この白い紙の指示を受けて遠藤氏は発言を修正してしまった。「会見場は一時騒然とした」と伝わっている。
港社長の認識をもとにすると中居正広氏は「女性が同意していた」と思い込んでいたようだ。となると女性が「同意していなかった」ことになる。
今回の問題を改めて整理する。BBCの指摘などによって日本の芸能界には性的加害の問題がはびこっている可能性がある事がわかっている。フジテレビだけでなく各放送局はこの性加害問題について自分たちのあり方を厳しく問いただしたことになっている。
ところがフジテレビは中居さんの問題で「女性の合意」について確認をしなかった。つまり中核的な人権上の配慮を行わなかったことになる。
しかし、フジテレビが女性の人権を守ろうとしたのかそれとも彼女を見捨てたのかは「比較的重要ではない」問題になりつつある。
会社側が女性を切り捨てて体制と番組を守ろうとしたというのは「疑い」に過ぎない。だが、切り捨てられた側は言いようのない怒りと報復感情を抱くだろう。少なくとも第三者委員会の調査には協力しないのではないかと思われる。第三者委員会には強制捜査の権限はないので女性から話を聞くことはできない。また中居正広さんからの話を聞くことも出来ないだろう。結果的に会社の言い分だけを調査報告書にまとめることになる。
これは被害者(実際の被害者は1人ではないかもしれない)に絶望感を与えるはずだ。中には週刊誌に話を売り込む人もでてくるだろう。しかし週刊誌は「公平公正に問題を解決する」動機は持たない。被害者が話を強化してしまう可能性もあるし、週刊誌じたいが話を面白おかしく盛る事も考えられる。そしてこれを外から検証することは出来ない。
週刊誌による私的制裁の横行は「仇討ち」の横行に例えることができる。近代国家化を目指す日本は「私的制裁は近代法治国家としてふさわしくない」と考えて仇討ちを禁止した。その代わりに殺人事件などの犯罪捜査は厳しく行われなければならなくなった。
しかし公益通報を巡っては国家による管理が不十分な状態が続いている。誰もが週刊誌を使った仇討ちにはどこかモヤモヤとしたものを感じるだろうがその需要は高まりつつあるといってよい。それが週刊誌への赤裸々な告白の場合もあるだろうが抗議のために遺書を残すという行動につながる場合もある。
被害者の側が何らかの復讐を果たす物語に突飛なものを感じる人は多いのではないかと思う。だが、実際には松本清張が「この手の話」をよく扱っている。人権意識が希薄な戦中・戦後にはこの手の話はさほど珍しくなかった。あくまでもフィクションとして語られる数々の物語を見ると「被害者の情念」に侮れないものがあることがわかるだろう。中居正広氏が天才ピアニスト和賀英良を演じた「砂の器」など映像化された作品もある。
Comments
“フジテレビの10時間24分の会見は無惨な失敗” への2件のフィードバック
10時間24分の会見を行ったと知ったときは、「そんなに長時間話すことがあるのか」としか思いませんでした。
しかし、とあるまとめサイトを読んでると、長時間に加え、記者のレベルの低い質問(ただの気持ちの表明や野次)で、SNS等で同情される結果になっているという指摘を見て、「同情を誘う狙いがあったのか」と一瞬思いました。でも、ただ単に考えなしに記者会見を行った結果が今回の長時間につながったのが真実なのかもしれません。
内容がどうであれ、長い時間をかければよいと考えは、どんだけ古い考えなんだと思いましたが、そういう古い考え持つ人間が上に立っているのが、今のフジテレビあるいはテレビ業界なのでしょう。
報道という名のもとに失敗したものを盛大に叩いて良いというスタンダードを作ったのもワイドショーや情報バラエティですから、自分たちが失敗すると盛大に叩かれても文句は言えないわけですよね。ただ今回の会見では記者たちも批評の対象になっていました。徐々に会見に誰を入れるのかが(議論されないまでも)整理されて行くものと思われます。