トランプ大統領の「陰謀論者」対策については「やりたいようにやらせておけば」との記事を書いた。しかし心配な動きも出ている。アメリカ市民が令状なしに拘束されるという事態が起きている。不法移民対策がかなり混乱しているようだ。
仮にアメリカ市民を強制送還してしまえば(どこに送るのかはよくわからないが)大変な騒ぎになるだろう。「いそがしかったから間違いました、ごめんなさい」では済まされない。
トランプ大統領は出生地主義を修正する大統領令を発布したが連邦地裁に差し止められた。最終的に最高裁で差し止めになる可能も高い。仮差し止めをしなければ「間違った判断」で無国籍者が増えかねない状況。一方で保守派は「最終的に最高裁がなんとかしてくれるのではないか」と期待しているようだ。
ただし中絶に関する(保守派にとって)画期的な判断は「連邦に権限がない」と言う判断に過ぎない。国籍と憲法の問題は連邦の専権事項であるため連邦最高裁は極めて重い判断をくださなければならない。
出生地主義はもともと黒人(合法的「市民」ではなかった)に対する権利の付与を制度化したものだったとされる。これが中国系アメリカ人(当時は中国人排斥が行われていた)の保護のために拡大され現在のような運用になっているそうだ。このため出生地主義を変更するためには憲法改正が必要というのが通説。ただしアメリカを白人国家に戻したい人たちは憲法ができた経緯には全く関心がない。
トランプ大統領は「とにかく支持者がそうしたいと言っているのだから」という理由で大統領令を乱発しているがその後の騒ぎには責任を取らないことが多い。自分は免責特権に守られており「何をしてもいい」と考えているのだろう。その意味ではアメリカ人が潜在的に持っている「好きなことを誰にも制限されることなく思い切りやってみたい」という願望を象徴した大統領だ。
もちろん欲望むき出しの国家運営がうまく行くはずがないと考える人は多いだろうが「具体的に何が起きるか」はわからなかった。
そんな中、アメリカ市民が令状なしで拘束されるという事例がおきた。民主党系聖域都市として知られるニューアークの市長がアメリカ市民の退役軍人が令状なしで拘束されたと訴えている。
In a statement, an ICE spokesperson said that agents “may encounter U.S. citizens while conducting field work and may request identification to establish an individual’s identity as was the case during a targeted enforcement operation at a worksite today in Newark.”
US agents raid New Jersey worksite as Trump escalates immigration crackdown(REUTERS)
トランプ大統領は大統領が変わったことでアメリカの治安が大きく変わったと示したい。しかし大規模な追放を執行する予算も人員もない。結果的に象徴的な追放を行う方針に切り替えた。
このREUTERSの記事は「そこにたまたま居合わせたアメリカ市民が拘束された」と読み取れる内容になっている。Quoraのコメント欄によると出生証明書は州で保管してあるそうなので照会すればいいようなのだがそのような手続きは行われなかったようだ。代わりに運転免許証などを提示するという方法もあるそうだが、この退役軍人がどのような公的文書を持っていたのかは不明。退役軍人のIDを見せたが理解を得られなかったという報道もでている。
政権側は誇らしげに「すでに数百人が強制送還されました」と言っている。
米ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は23日、今週の第2期トランプ政権発足以降、538人の不法移民を拘束し、すでに数百人を強制送還したと発表した。
トランプ政権、不法移民送還作戦を開始 数百人を逮捕・強制送還(AFP)
このスピード感でまともな裁判が行われたとも思えないため今後「市民であると証明できなかったアメリカ人が令状なく踏み込まれ裁判なしで国外退去処分になる」可能性も考えられなくもない。ヒスパニック系やアジア系のアメリカ人は「常に公的文書を持ち歩く」か「移民に近づかないようにする」くらいしか防衛手段がないということになる。
ただ「移民問題などしょせん他人事」と考えるトランプ大統領の支持者たちはそれでも「アメリカを守るためなら多少の憲法違反も仕方ない」と考えるのかもしれない。
民主主義とはときに恐ろしい化け物になるのだなと感じる。