トランプ大統領が就任していくつかの動きがあった。エントリーを分けて伝えたほうがいいとは思うのだがあまりにも多岐にわたるためまとめて伝えたい。
トランプ大統領には行政経験がほぼないため具体策を示すことができない。相手の提案を待ち気に入らなければ制裁するという手法しか取れない。この手法が早速露見しつつある。あとは支持者たちがいつまで見て見ぬふりを続けることができるかにかかっている。
移民対策に抵抗する人たちを刑事捜査
移民対策に反対する人たちをアメリカの敵と位置づけて刑事捜査することを打ち出した。しかし、今のところは大規模な移民排除は行われていない。人事が承認されておらず大規模作戦の裏打ちになる予算もない。具体策がないのだから抵抗勢力をやり玉に上げてやり過ごすしかないのが現状なのだろう。
トランプ大統領は出生地主義の廃止を打ち出しているが訴訟に直面している。4年間で訴訟が決着するかは微妙な情勢。おそらく憲法改正が必要だが実際に憲法改正には長い時間が必要になるため大統領令がそのまま実施される可能性は低いのではないかと思う。
いじめはDEI(多様性推進)にも向かう。政府の担当者は有給で休職扱いになった。自由主義のアメリカ合衆国では極めて特異なことだが企業にもDEIの廃止を要請するという。トランプ大統領は「表現の自由を最大化する」としてSNS規制に反対しているがその一方でDEIはやめろと企業に強要している。
なおQuoraでは大統領令に「間違いがあった」とする投稿があった。女性を科学的に定義しようとして卵子を持っているのが女性だと定義したそうだが「男性も胎児の状態ではしばらく卵子を持っている」のだそうだ。つまり大統領令によるとアメリカには女性しかいないことになるという。真偽の程は明らかではないがファクトチェックを軽んじるトランプ陣営らしい話だ。
極右はイーロン・マスク氏に大喜び
極右はいくつかの勝利を手にした。ABCニュースは議会襲撃犯の恩赦を批判的に取り上げていた。民主主義で過半数を獲得すれば暴力も容認できるというメッセージを与えてしまっている。共和党の中にも恩赦に批判的な人はいるが数の暴力を恐れて発言が抑制的になっている。実際に極右のインフルエンサーが野放しになっているのだから穏健派の共和党議員たちの懸念は彼らの本音の現れなのだろう。
イーロン・マスク氏のナチスポーズも白人至上主義者に評判がいい。ユダヤ系は問題を大きくしない方向でまとまりつつあるが白人至上主義者が台頭すればそうも言っていられなくなるかもしれない。
誰がアメリカ人かという議論はおそらく収拾不能になるだろうがトランプ大統領はたいして気にしないのではないかと思う。
ビジネスでは排除されるイーロン・マスク氏
政権の意思決定に影響を与えそうなイーロン・マスク氏はビジネスからは排除されている。オラクル・ソフトバンク・OpenAI連合がAIデータセンターの大規模投資を表明したが、マスク氏はそこに加われなかった。このあたりのトランプ大統領のバランスの取り方は絶妙だ。マスク氏はOpenAIを敵視していて法廷闘争を仕掛ける意向だという。
孫正義氏が加わっていたことで日本の株価は半導体を中心に値上がりしたとの情報も出ている。トランプ政権との関係を築くことが出来ていない日本に取ってはいいニュースだ。しばらくは民間主導で関係構築が進みそうである。日本政府の中には「できるだけトランプ政権を刺激しない」という方針ができつつあるようだ。フジテレビの松山俊行氏はこれを「寝た子を起こすな大作戦」と表現していた。
しかしBBCはAIデータセンターは大量の電気を必要とするため実際の建設には困難が伴うのではないかと予想している。
ウクライナの戦争も関税で解決?
ガザ地区の和平に関してトランプ大統領は関心を失いつつある。バイデン大統領批判の文脈で利用していただけだったが、ガザの状況を「自分の美しい世界の外にある汚いもの」と考えていることがわかる。自分たちの戦争ではないとして関与しない方針。
おそらくウクライナの戦争に対しても同じ感覚を持っているのではないか思う。関心が薄く積極的な情報発信は見られない。
ウクライナに関してはプーチン大統領はロシアを破壊していると指摘。しかしロシアに対して強硬な姿勢を取るつもりもないようだ。関税をかけてプレッシャーを掛けるといっている。すでにバイデン大統領がロシアを自由主義経済圏から締め出しているため関税には意味がない。そもそもウクライナに興味がないのだろう。興味がないから理解しないのだ。
中国発・メキシコ経由で流れてくるフェンタニルも関税で止めることができるはずだったが関税政策は実施されていない。2月1日から関税を発動させると言っている。おそらく具体策がないために関税で恫喝し相手から具体策が出るのを待っているのだろう。
上下両院共和党は責任の押し付けあい
トランプ大統領には行政経験は殆どないため(強いて言えば4年間大統領をやった経験はある)具体策はすべてお任せになっている。上下両院の共和党と面会したが上院と下院で意見が割れていて具体策はまとまらなかったそうだ。あるいは議員たちは「トランプ氏の政策を実行するのは不可能だ」と考えているのかもしれない。責任の押し付け合いをしているようにも感じられる。2年しか任期がない下院の議員は近視眼的傾向があるが上院は財政を気にしているのだろう。減税政策に慎重を期したい考えである。
上院共和党は、まず移民とエネルギーに関する大型法案を成立させ、トランプ大統領に早期の成果をもたらしたいと考えており、その次に税制改革に取り組むことを希望している。一方の下院共和党は、トランプ大統領の優先事項をすべて盛り込んだ一本化法案を成立させ、議会可決を確実にしたいとの立場で、双方のアプローチには開きがある。
トランプ氏、公約実現へ議会調整に腐心-矢継ぎ早の始動から減速か(Bloomberg)
トランプ大統領はリアリティタレントをそのまま大統領にしたと言っていい人物だ。劇場で拍手を浴びることに集中しており支持者たちの評判は極めて良好。その意味では「承認欲求」に特化した大統領になった人といえる。
このためトランプ氏の政策は承認欲求を得たところで終わっており、具体的な解決策に乏しい。彼のやり方が成功するためにはオラクル・ソフトバンク・OpenAIなど具体的な提案を出してくれる主体が必要だ。
一方で上院共和党はトランプ大統領の政策が矛盾満ちていることを知っており本音では距離を起きたいと考えている。このため具体策を巡って責任の押し付け合いが始まっている。
国境問題においてFOXニュースは政策責任者に「具体策」を聞きたがっていた。トランプ氏を支持していた人の中にはトランプ氏が国内の治安問題を直ちに解決しインフレにも特効薬を持っているはずだと信じている人が多い。生活実感が変わらなければその期待は苛立ちに転じるかもしれない。