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ウクライナは領土の一部を諦めるべき マクロン大統領が変節

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ロシアのウクライナ侵攻が始まったときに「攻撃された側にも理由がある」とか「ロシアの要求を受け入れるべき」などと書けば、思い切り叩かれかねない雰囲気があった。西側各国の指導者がわかりやすく「正義と悪」という図式を作ったからである。

ところが、当事者の一人であるバイデン大統領はホワイトハウスを去り、マクロン大統領までもが「ウクライナは領土の一部を諦めるべきだ」などと主張し始めた。

この変化を観察することこそが国際政治を継続的に見る妙味ともいえる。一方で自分たちの大義を国際政治に重ねる人たちが「見ているのがしんどくなる」のもこのためだろう。

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ウクライナは人口4,000万程度で天然資源にも恵まれた国だ。これまでロシアに近く市場も未開拓だったことを考えるとこの地域に経済的関心を寄せた政治家が多かったとしても不思議ではない。

バイデン大統領も副大統領時代にはウクライナに高い関心を持っていた。しかし彼の関心は純粋に経済的なものだけではなかったようだ。ロシアという敵を設定しその鼻を明かしてやりたいと言うような挑発的な姿勢も目立った。結果的にウクライナに過度に入れあげた結果「軍事的な支援」によって実質的に戦争に介入することになった。

ロシアの主権国家に対する一方的な攻撃は到底容認されるものではない。しかしアメリカが主導して作ったロシア包囲網がロシアを刺激したことも確かだろう。挑発されたプーチン大統領は徹底交戦の構えを見せることになる。さらにアメリカ合衆国は周囲の主権国家の権利を侵害するイスラエルを支援し、ウクライナへの支援に「偽善」が含まれているとわかりやすく示した。

西側諸国のロシア包囲網は国民の支持を得られなかった。

アメリカでは支援打ち切りを主張するトランプ次期大統領が当選した。J.D.バンス次期副大統領も「ウクライナがアメリカと関係があるとは思えない」という趣旨の発言をしている。中間層が持っている素朴な感想を代表していると言えるだろう。

バンス氏は今年4月に米国で成立したウクライナ支援法の採決で反対票を投じた。2022年には「ウクライナで何が起ころうと、あまり気にしていない」と述べていた。

アングル:米副大統領候補バンス氏、ウクライナ巡りトランプ氏より「過激」との声 欧州で警戒感(REUTERS)

こうした変化を受けてついにフランスのマクロン大統領までもが「ウクライナは領土の一部を諦めるべきだ」と主張し始めた。フランス大使らを集めた年次会合で明確に主張している。

今年の戦略を概説するフランス大使らとの年次会合で述べたもので、ロシアに占領された全領土の奪還を目指す以外の策をウクライナが検討すべきとマクロン氏が示唆するのは初めて。

ウクライナは領土問題で「現実的議論を」、仏大統領が初めて言及(REUTERS)

財政再現が最重要課題のフランスも度重なる首相の交代劇をうけてついにウクライナ支援を考え直す時期に来ているようだ。

ここで非常に重要なのがウクライナ側の意向である。領土を諦めてもいいという人が64%になっている。

また、戦争の終結に向けた3つのシナリオを提示した質問では、「ロシアが東部の2州と南部の2州、クリミアの占領を続けるものの、ウクライナはNATOに加盟して真の安全保障を得るとともにEU=ヨーロッパ連合にも加盟する」というシナリオを支持する人が最も多く64%となりました。

ウクライナ世論調査“ロシア占領もNATO加盟し戦争終結”が最多(NHK)

ウクライナの選択肢はいくつかある。

  • ロシア占領地のウクライナの権利を諦めてもいい
  • ロシア占領地のウクライナの権利は保持したままで現状を受け入れて、NATO加盟を目指す(64%)
  • 徹底抗戦する

「諦める」と「放棄」は違っている。領土を放棄すべきでないと考える人は51%いる。一方で攻撃が避けられるなら領土の一部を放棄してもいいと考える人も38%になっている。現状受け入れ・NATO加盟というシナリオを受け入れられないという人も21%もいる。つまりウクライナ人の間にコンセンサスが出来ているとは言い切れない状況。

少なくともトランプ次期大統領とバンス次期副大統領はウクライナのNATO入りを認める可能性は低い。巻き込まれ不安を抱えるヨーロッパのNATO加盟国もウクライナ人の希望は受け入れないのではないかと思う。結果的にウクライナ人はヨーロッパに見捨てられたと考えるかもしれない。

バイデン大統領やマクロン大統領がウクライナの経済利権にどの程度関心を持っていたのかは別にしても国内の行き詰まった民主主義を正当化するために「敵」の存在を必要としてきた。つまりウクライナ人西側各国がウクライナを政治利用してきたことは明らかだ。

しかし彼らのメッセージが困窮する国民に受け入れられることはなかった。結果的にすでに不安定化していたイタリアを除くG7各国も政権交代や議会の不安定化という問題を抱えることになった。

西側各国の指導者たちはウクライナに対して責任を取ることはない。あくまでもその地位にいる間だけ限定的な責任を取ればいいというのが民主主義の考え方だ。民主主義と国際協調に過度な期待を寄せる人たちはこの現実を「しんどい」と感じてしまうのではないかと思う。

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