総選挙でナチの流れを汲むとされる自由党が29%得票し第一党に躍進した。緑の党出身のフォン・デア・ベレン大統領は極右政権を避けるために第二党・第三党の政権を模索したが最終的に財源の問題をめぐり罵り合いに終止し組閣は実現しなかった。ネハンマー首相が組閣を諦めたことを受けて大統領は自由党のキクル氏にあらためて組閣を命じた。総選挙による自由党の躍進に比べると次善の策と言えるかもしれない。
これまでの報道を整理するとキクル氏は単独では政権が維持できないため第二党の国民党との連立を模索するものと考えられる。しかし現在の党首であるネハンマー氏はキクル氏との連携には後ろ向き。今後国民党側がどのような判断を下すのかに注目が集まる。仮に組閣の具体的な話し合いが行われるとしてもそれは国民党の新代表選出を待ってからということになるのかもしれない。
大統領には選挙のやり直しという選択肢もあった。しかしウクライナ経由の天然ガスの輸入が完全にストップしている中で総選挙を行えばさらに自由党が躍進しかねない。オーストリアにはバックアッププランがあるようだが「備蓄」に頼っているため「ここはロシアと手を打って」安価なエネルギーを分けてもらいたいと考える人は多いのではないだろうか。キクル氏はプーチン大統領と懇意のハンガリー首相と組んでロシアに再度接近すべきと主張している。
ウクライナ経由パイプラインのガスへの依存度が高いモルドバは、ガスの使用を3分の2に減らす措置が必要になるとしている。この他、スロバキアやオーストリアなどは代替調達に動いている。オーストリアのエネルギー省報道官は31日、イタリアやドイツからの調達や備蓄によって供給は確保されると述べた。スロバキア経済省は、供給不足に陥る恐れはないものの、代替調達に伴い追加で1億7700万ユーロ(1億8400万ドル)の負担が生じるとしている。
ウクライナ経由のロシア産ガス輸送停止、契約延長されず(REUTERS)
こうした事情を知ってかしらずか、REUTERSも共同通信も「極右」を全面的に押し出している。ヨーロッパ全体が極右化・ポピュリズム化しているという印象を付けたいのだろう。
確かにヨーロッパの政治がポピュリズムに負けつつあるともいえる。政治を俯瞰的に見ていると「話し合いによる冷静な民主主義が感情的なポピュリズムに圧倒されつつある」という懸念は感じる。
しかし一歩ひいて考えてみると、EU官僚たちは加盟国に対して我慢と規律を強いるばかりで中間所得層の待遇改善にはあまり関心がなかったのも確かだ。
その意味ではヨーロッパの国民たちはグローバリズムに疲れ果て冷静で合理的な判断力を失いつつあるといえる。つまり「ラディカルな改革」のためには必要なプロセスなのかもしれない。こうした暴力的な改革を単なる破壊行為と捉えるか「WakeupCall(警鐘)」と捉えるかは意見が分かれるところだ。
ただし「暴力にも理由がある」などと表現すればそこだけを切り取られ「テロやポピュリズムを容認している」と受け取られかねない。我々の民主主義社会はそれだけ難しい局面に差し掛かっていると言えるだろう。つまり必要な痛みなのか人類の愚かさの証明なのかで意見が分かれるということだ。