アメリカと韓国の正月以来のドタバタが一段落し、日本の政治はまだお正月休みという状態だ。すこし落ち着いたのでREUTERSの2025年のドル円予想を読んでみることにした。
「デジタル赤字」を提唱する唐鎌大輔氏のドル円予想は「1ドルが1XX円になります」というようなことは書かれておらず「変動(ボラティリティ)の大きな相場になるだろう」という結論になっている。
基礎分析は次のようになっている。
- トランプ政権は石油増産の方向で中国の経済不振も続く。つまり需要が伸びず生産が伸びると考えると原油高はピークアウトするだろう。
- トランプ貿易戦争の影響で輸出増加は難しいかもしれない。
- 第一所得収支は変わらず(投資と労働収入/40兆円)・第二所得収支(贈与・無償の政府援助など/-4兆円)はマイナスになる。
- これまではコロナ禍からの回復過程にあったが円安傾向も落ち着くことが考えられるため旅行需要の伸びも鈍化するだろう。
- サービス収支7.1兆円のうちデジタル赤字が5.6兆円だ。デジタル赤字の伸びは増えるのではないか。
これを踏まえると「キャッシュフローは概ねプラス1-2兆円で均衡する」ことになる。すると金利差による投機マネーの影響力が増幅する。だから結果的に中央銀行の金融政策の動向などにより為替が乱高下する状態が定着するのではないかという予想になっている。つまり「1ドルXXX円程度で落ち着きますよ」とは言いにくくなるというのだ。
日本の国際収支にとっては厳しい材料が多いがそれでも第一所得収支の存在感が極めて強いということがわかる。
この予想には当然トランプ政権下で予想されるインフレやFRBへの介入などの影響は含まれていない。
国内市場はスルーされている
中間層の日本人にとって気がかりなことがいくつかある。
日本の第一所得収支は40兆円もある。これは非常に喜ばしいことだが裏を返せば「だから国内の構造転換が難しくなるのだ」と理解することも可能。国内の政治は行き詰まっており、誰もが「何らかの転換は必要だろう」と考えているにもかかわらず大きな変化が何も起こらないのはこのためである。
企業は海外資産をそのまま海外で運用している。つまり「国内で暮らす一般の日本人」はバイパスされており恩恵がない。
これを埋めるためには
- 企業から税金を取り国内に還元する
しかない。しかし一律に法人税を増やしても逼迫している国内企業の事業に「罰金を課すだけ」になってしまう。また企業は国内市場に投資するインセンティブを持たないのだから当然賃金も上昇しない。
地方の成長余地は限られる
唯一国内で可能性があると考えられているのが観光産業だ。
しかし現在は割安の円によって支えられているのが現状でありこれ以上の上昇余地がない。さらにオーバーツーリズム(受け入れの限界)や人手不足などの問題にもさらされている。これまで日本政府はこの問題をどうにかしようと議論を重ねてきた。しかしこうした議論が実行されることはないため「話し合っているうちにチャンスを逃してしまう」という状況に陥ることになる。
さらに今後先進国経済の内向き化が進行すると「資源を輸入して加工し海外に売る」という旧来の製造業中心モデルに回帰するのも難しいという結論が得られる。
2つの海外所得転移
唐鎌大輔氏はサービス収支7.1兆円のうちデジタル赤字が5.6兆円と言っている。例えばAmazonで買い物をしたりYouTubeを見たりすると海外企業の儲けになってしまう。政府は公式には「デジタル所得収支」を出していないようだが(これは唐鎌大輔氏の不満の種になっている)5.6兆円という多額の国富が流出している。
もう一つ唐鎌大輔氏は
- 2024年は投資信託経由で月間1兆円ペースで円が売られていた。減速するだろうが途絶するまでには至らないだろう。
と言っている。
もともと日本人は貯蓄信仰が強く外貨建て投資に強い拒否反応を持っていた。おそらく外国の株を直接購入するというなことは依然ギャンブルだと認識されているだろう。唐鎌氏の水系が正しければ国内金融機関が提供する投資信託はその例外になっているようだ。月間1兆円ペースということなので投資家が意識しないうちにキャピタルフライトが起きていることになる。
労働者にとっては「稼いだらそのまま海外に投資しましょう」というのが「正しい」判断ということになる。しかしそれに気がついている人の数は限られている。
情報感度が高い人はすでにNISAやIDECOなどを始めているようだが「この期に及んでもまだ始めていない」という人も多い。マイナンバーカードのときもそうだったが「情報感度が高い人」「国民的キャンペーンが始まらないと何もしない人」「キャペーンが始まっても対応しない人」に分かれている。
2024年10月4日(104で「投資(とお・し)の日」だそうだ)に日本証券業協会(JSDA)がまとめた資料は次のようにある。
- 証券会社10社(大手5社・ネット5社)の2024年3月末時点でのNISA口座数は、約1,456万口座であり、2023年3月末から2024年3月末の1年間で約1.3倍となった。また、2024年1~3月期における新規口座開設件数は約170万件であり、前年同期と比較して約3.2倍となった。
- 2024年1~3月における累計買付額は、前年同期と比較して、成長投資枠とつみたて投資枠の合計で約2.9倍、成長投資枠で約2.9倍、つみたて投資枠で約3.0倍となった。
つまり「気がついている人」は投資を加速させているが日本全体を見るとまだまだ少数派ということになる。
国内政治はこの「取り残されている人たち」を相手にしており閉塞感が高まっている。しかしそれでも日本経済は黒字状態が続いており国債による資金調達がかろうじて正当化されている状況である。この仮初の安定は国内に政治改革を難しくすると同時に背景にある海外経済の好調も長くは続かないかもしれない。中間層の没落は先進国共通のテーマであり各国で自国第一主義の流れが加速しつつあるからだ。