大統領の逮捕状がいよいよ執行されるのではないかとマスコミが期待するなかで捜査当局による壮大な「茶番」が展開された。結局5時間睨み合っただけで何も成果を得られずすごすごと退散してしまったのだ。
マスコミが大注目する中で公捜処などの捜査当局が大統領官邸に踏み込んだ。最初と二番目の防衛戦は突破したようだが最終的に大統領警護処が抵抗しにらみ合いとなった。結局5時間ほど膠着状況が続き午後1時過ぎに「やっぱり執行を停止する」と発表された。
捜査当局は当初は大統領の身柄を確保し、事前に準備した質問をぶつけ、48時間以内に長期拘束できる容疑を見つけようとしていたようだ。このため大人数で龍山区漢南洞にある大統領の私邸に踏み込んだ。
第一防衛線と第二防衛線は突破したようだが最終的に武装した大統領警護処に阻まれた。反尹錫悦大統領のメディアである聯合ニュースは「事前準備が甘かったのではないか」とか「一度失敗して見せてもっと強硬な手段にでるのではないか」などと書いている。
聯合ニュースは「確保失敗を国民に見せつけること」で世論を作り捜査当局に有利な状況を作ろうとしていると説明しており極めて劇場性が高いことがわかる。
国民直接参加型の政治と肯定的に評価できる点もあるが違和感も感じる。
同じ二元代表制のアメリカであれば最後には「憲法理念=建国理念」という言葉が出てくる。しかし韓国の場合にこうした大義が聞かれることはあまりない。代わりに「大統領派」と「捜査当局」という集団同士の争いになっている。支持者たちもアイドル応援団さながらだ。捜査当局の情報を聞きつけて「応援団」に朝6時に招集がかかったと説明するテレビ局もあった。
つまり多くの韓国人が「チーム」に分かれてそれぞれの大義を主張しあうという状況になっている。これを徒労と見ることもできるが、参加者たちは「頑張った!」という高揚感も感じているようである。
よく考えてみれば「大統領が罷免されてから逮捕すればいいのに」と感じる。現在新しい判事が指名され8名体制で弾劾裁判が始まっている。14日に予定される初回の弁論に大統領が出廷しないことも織り込まれているそうで「2回目」も計画されているそうだ。
つまり、そもそも捜査当局が「自分たちは頑張っていますよ!」ということを見せるためにマスコミを動員して踏み込んだことになる。綿密に計算されていたというよりは「とりあえずやってみましょう」という場当たり的なものだった。それでもマスコミは「史上初の出来事だ」と多数のカメラを動員する。そしてそれに刺激された尹錫悦支持者たちは朝早くからのぼり旗などを持って大統領私邸前に集結し元気よくデモを行い大統領を支援していた。
カメラごしに見る冬のソウルは寒そうだ。政治が停滞し「どちらも勝たせないのが一番良い」というしらけた結論にたどり着いた日本に住む我々から見ると、この熱狂がどこから来るかはよくわからない。「なにか食べるものが違うのではないか?」などと感じてしまう。