乗員・乗客181名のうち179名がなくなった事故の続報が出始めている。現在コンクリートの「壁」にぶつかり大勢が機外に放り出されたものの尾翼部分が「もげた」状態になり後部にいた2名だけが奇跡的に助かったと言われている。原因については早くも様々な「論」が出ており今後紛糾しそうだ。
コンクリートの「壁」
初期報道では「コンクリート壁にぶつかって大破した」と伝わっている。ここから高速道路側に飛び出さないようにコンクリートの壁にぶつからないようにしているのではないか?と思ったがどうもそうではないようだ。
なぜかローカライザー(着陸誘導補助装置)と絡めて伝えられている。
REUTERSは壁があったと書いている。
航空安全専門家で独ルフトハンザ航空のパイロットでもあるクリスチャン・ベッカート氏は「通常、滑走路端に壁がある空港はない」と述べ、代わりに航空機を減速させて安全に停止させるアレスティングシステム(EMAS)が設置されていることが多いと指摘した。
韓国、航空システムの緊急安全点検指示 国内最悪の事故受け(REUTERS)
KBSはローカライザの下にコンクリート構造物があったとしている。
ローカライザーは、飛行機の着陸を補助する計器着陸装置(ILS)の一部で、滑走路の中心線に沿った進入経路を電波で案内し、夜間や悪天候時でも安全な着陸を可能にします。しかし、務安空港のローカライザーは下部にコンクリート構造物が設置されており、事故機はこの構造物に衝突。その後、59メートル離れた滑走路端の外壁にも衝突し、機体が2つに割れて火災が発生しました。
政府 事故機が衝突したローカライザー調査へ(KBS)
最もわかりやすく書いていたのが聯合ニュースの日本語版だった。どうやら盛土の基礎としてコンクリートが使われていて、それが壁になっていたようだ。
務安国際空港は滑走路の端から先が斜面となっており、盛り土をして水平にしたことでできた高さ2メートルの丘の上にローカライザーが設置されたとみられる。
韓国の旅客機事故 滑走路外の構造物に衝突し被害拡大か(聯合ニュース)
ローカライザーにどのような高さ制限があるのか、場所が限られていなければ「盛土して嵩上げする必要などする必要はなかったのではないか」という疑問は湧くが結果的に世界中の航空専門家が「こんな無茶苦茶な設計は見たことがない」というような空港が作られた。
事件前の航空写真などでコンクリートの壁が見られなかった理由もわかる。盛土の土台なのだから当然普段は土に覆われて見えない状態になっていたはずである。
安全装置は緊急点検の対象になっていることがわかる。ただしREUTERSの記事を読んでも「全国の空港で同じような設備調査が行われる」という書き方にはなっていない。「当然全国でも調査するだろう」とは思うのだが、これはあくまでも日本の常識に過ぎない。
整備不良かそれとも機種特有の問題か
ただし、「壁」はあくまでも事故被害を拡大させた要因に過ぎない。問題はそもそもなぜ制動装置が働かなかったかである。大統領代行は「同型機」の点検を命じた。
制動装置(翼とランディングギアについている)と浮力を付けるためのフラップなどを駆使して止まることになっているそうだがこれが働いていない。このためボーイング社から人を招いて調査をするのはいっけん理にかなっているように思える。
しかし、737―800はLCCで多く使われている。つまり同型機の問題ではなくLCCの問題なのかもしれない。
先日調べた限りでは「チェジュ航空は利益率が高すぎる」という疑念が出ていた。それだけ安全配慮が疎かになっている可能性がある。
JTBCは更に調査を進めていて「単独」記事を2つ書いている。30日に同型機でランディングギアの不具合が感知された。となると「ボーイング機が悪いのか」「整備の問題なのか」ということになる。
30日の不具合に関しては「いつもより真剣に検査をしたのでランディングギア起動装置のフタを締め忘れた」と発表されているようだ。その言い訳が「いつもより慎重にやろうとして失敗した」というもので「これは大丈夫なんだろうか?」と言う気がする。
한(1人の) 관계자는(関係者は) “전날(前日) 큰(大) 사고가(事故が) 있어서 더(あったので) 꼼꼼하게(慎重に) 점검하려다(点検したら) 실수를(失手を) 한(一つ) 것(事) 같다(みたいだ)”고 밝혔습니다(と明らかにした).
[단독] 제주항공, 참사 다음날 또 긴급회항…원인 알고보니(JTBC)
もう一つの記事もかなり深刻なものだ。チェジュ航空側は当該機には事故履歴がなかったと発表しているのだが実際には3年前に滑走路で追突事故が起きていたと書いている。結果的に2億2千万ウォンの罰金を課されているという。ソースは韓国空港公社でありすでに政府に報告が上がっているそうだ。JTBCが問い合わせた結果「課徴金も支払っているし点検と整備をきちんとやりました」と釈明しているという。
Yahooニュースには「「予想された惨事」韓国・済州航空の内部告発が示す危険な整備体制の実態」と言う記事が上がっている。社長の利益追求主義のために安全対策が手薄になっているという内容。
ただし韓国語でチェジュ航空・内部告発で検索してもこれを裏付ける記事は見つからなかった。逆に「近頃ボーイング社では安全対策を巡って内部告発が多数出ているではないか」と反発する記事が見つかった。
確かにボーイング社も近年安全性の問題で内部告発を受けている。ホイッスルブローワー自殺も起きており、CEOはアメリカ議会公聴会で吊し上げを受け責任を取って2024年末で退任する。
- 米ボーイング機の安全性問題を告発した元従業員、遺体で見つかる(BBC)
- 米ボーイング、品質巡りまた内部告発 公聴会でCEOに批判噴出(REUTERS)
- 苦境のボーイング、ストライキ継続の裏には(NHK)
- ボーイングCEO ことし年末で退任へ “事故への批判の中 退任”(NHK)
日本では自動車業界全体を巻き込んだ品質不正問題が起きており日産とホンダの合弁問題なども浮上した。またドイツもフォルクスワーゲン工場がドイツからでてゆくかもしれないという事態に直面している。
同じようにアメリカ合衆国では航空機産業のプレイヤー転換が起こっている。イーロン・マスク氏のスペースX社が次々と革新的なプロジェクトを成功させる一方でボーイング社の宇宙開発事業はうまく行っていない。また新型旅客機にも問題が浮上し従業員たちは待遇改善を求めてストライキを起こすという混乱した状況にある。
国民世論が極端に触れやすいという韓国特有の事情はあると思うのだが、チェジュ航空側も簡単に「自己保身の嘘」をついているという印象。それを指摘されると悪びれることなく言い訳をする。しかし、それだけ航空会社側も必死になっているとも言える。こうした状況ではおそらく様々な情報が飛び交うことになるだろう。
また政府も大統領と国務総理の職務停止という異常事態に陥だ。崔相穆大統領代行も結論を急ぎたがる傾向のある韓国国民に抗ってまで「冷静な調査を」などとは言えないかもしれない。
本来ならばじっくりと事件解決のための原因究明を慎重に行ってほしいと結びたいところだが、それはなかなか難しいのではないかと思う。