尹錫悦大統領の弾劾投票が行われた。200票が必要だったが与党から12名の造反がでた結果204票で可決している。今後、憲法裁判所で審理が行われる。大統領の権限は停止され韓悳洙国務総理(首相)が代行することになる。非常戒厳から続いた物語は一つの山場を迎えた。一事不再理の原則を破ったと言われることもあるが、厳密には一回目の審議は国民の力議員の退出で「審理不能」になっていた。つまり投票としては今回が最初だったことになる。
尹錫悦大統領は野党「共に民主党」に対する敵意をつのらせていた。大統領になっても協力する姿勢は見せず徐々に追い詰められてゆく。途中からは陰謀論を唱えるYouTuberたちと連絡を取るようになり、正式な情報機関から得られる情報を軽んじるようになった。議会を閉鎖し政治家・ジャーナリスト・テレビ局などを粛清しようとしたとの報道も出ている。また選挙管理当局にもストーミングし不正選挙の証拠を抑えようとした事もわかっている。
「国民の力」の韓東勳代表も勝者になれなかった。大統領職権簒奪を試み弾劾に対する賛成と反対で揺れ動いた。最終的には賛成に回るのだが韓東勳代表に従って造反した議員は12人にとどまった。今回の件で指導力の限界を露呈したなどと論評されている。
今回、弾劾案が可決された背景には野党の方針転換があった。(日)米韓同盟強化を批判する文章が削除され「内乱」一本に縛られたことで賛成が得やすくなったそうだ。時事通信は日本を敵視する内容も削除されたと伝えている。
1回目の弾劾案には「北朝鮮と中国、ロシアを敵視し、日本中心の奇異な外交政策に固執した」との文言があった。共に民主党で国際委員長を務める姜仙祐議員はフェイスブックへの投稿で「他の政党の意見を総合する過程で盛り込まれた」と説明した。
「価値外交」、弾劾案から削除 野党李代表が指示―韓国(時事通信)
大統領選挙が行われれば李在明氏が大統領になり「反日政権」が作られるとされることがあるのは「共に民主党」の中に北朝鮮・中国・ロシアにたいするシンパシーを持った人達が多いからだ。ただし李在明氏も裁判を抱えており半年以内に公民権停止を伴う刑罰が確定する可能性がある。
大統領代行になった韓悳洙国務総理は経済官僚出身の実務派で黒子のような存在だったという。ただし、彼も内乱とは無縁ではない。非常戒厳を決定する会合に出席した事がわかっている。つまり内乱を妨害せず「幇助」した疑いも持たれている。現在は野党に対して低姿勢で望んでいるそうだが、自身も弾劾の対象になる可能性が残っているという。
今後尹錫悦大統領は憲法裁判所で裁かれることになる。権限は停止されているがしばらくは大統領としての地位を維持する。ただし大統領権限を残したままで内乱罪で逮捕されると「収監されたまま大統領権限が行使できる」状態になる可能性があった。
憲法裁判所の判事9名中6名が賛成すれば弾劾が成立するが現在3名が空席になっている。共に民主党は空席を埋めることを要求しており韓悳洙大統領代行も拒否はしない考えだそうだ。共に民主党寄りの人選が行われれば弾劾裁判は尹錫悦大統領に不利になるが大統領はあくまでも法廷闘争を勝ち抜くと意欲を見せている。李在明代表はできるだけ早期に弾劾裁判を終決したいと考えるはずだ。
弾劾案可決の瞬間をJTBCでみていた。国会中継だけでなくワイプで汝矣島に集まる市民たちの様子が映し出されており民主主義が定着している様子がわかる。弾劾が可決されるとXでは日本の識者たちが「民主主義の勝利だ」などと投稿していた。しかしよく考えてみれば与野党とも汚職まみれになっている。これに対抗しようと考えて戦う大統領を選んだら最終的に陰謀論に汚染され国民に向けて銃口を向けてしまった。
これのどこが「民主主義の勝利なのだろうか?」とは思うのだが、少なくとも弾劾が決まった瞬間は一種の興奮に包まれていた。仮にこれが民主主義だとすれば「民主主義とは疲れるものだ」という気がする。