中東情勢について簡単にアップデートする。各国の関心が外に向いたことでアサド政権が倒れた。トルコが介入しないことがわかり反政府勢力がダマスカスに向けて進軍し12日で首都を占拠した。すると各国が一斉に「独裁政権が倒れたのは我が手柄なり」と主張し始めている。一方で各国とも権益確保に乗り出している。国際政治のあさましさを感じさせる。
各国がシリアに興味を失いトルコも容認したことが今回の作戦のきっかけになったそうだ。大国の思惑が実は戦争を誘発していることがよく分かる。
約6カ月前、シリアの反体制派はアサド大統領による権力を弱める好機が訪れたことを察知した。トルコに大規模な攻勢計画を伝えたところ、同国から暗黙の承認が得られたという感触があったからだ。計画を知る情報筋2人が語った。
焦点:シリア政権崩壊、反体制派の電撃進軍を可能にした「完璧な条件」(REUTERS)
アサド政権が倒れるとロシアは「アサド大統領を引き取ったから平和的な権力移譲が実現した」と宣伝した。一方で西側は自分たちの支援によってアサド政権が倒されたと宣伝している。
特にネタニヤフ首相はゴラン高原に出かけていってYouTubeを撮影している。他に仕事はないのだろうか?とさえ思える。おさわがせYouTuberぶりが板についてきた。イスラエルはゴラン高原とシリアの間にある緩衝地帯に軍を進めゴラン高原の拡張に成功した。
アメリカ合衆国はIS対策のためにシリアにとどまる必要があると主張。また各地に空爆を繰り広げている。HTSはISとつながりがあると示唆しておりこのままの政府を認めるかどうかはわからない。
ロシアは基地権益を確保したい考えでトルコなどと協議するとしている。またイランも新政権に対してアプローチを始めた。影響力の低下を最低限に留めたいのだろう。
ロシアの影響力低下は避けられそうにない。ロシアの艦船は基地から一時的に対比している。アフリカに対する支援の後方基地になっており基地を失えばロシアのアフリカ戦略に影響を与える。
これは「革命あるある」だがアサド氏の宮殿は略奪された。高級車のコレクションが見つかったとのこと。親アサド勢力が新生シリア政府との影響力を持ち続けるのはかなりきびしそうだ。
アサド大統領の恐怖政治の象徴だったサイドナヤ刑務所(先日はセドナヤ刑務所と書いた記憶がある)からの解放は始まっているそうだがまだ解放されていない囚人が大勢いるようだ。Xでは迷路のようになっていると指摘する声があったが実際には電子ロックが開けられない状態になっているそうだ。今は「市民の解放」に喜んでいるがアサド政権の目を背けたくなるような蛮行が表沙汰になるのはこれからなのかもしれない。
ダマスカスの当局は、刑務所地下の電子ドアを開けるための暗証コードを反政府勢力側に提供するよう、アサド政権の元兵士や刑務所職員らに呼びかけている。
シリア刑務所から大勢を解放、子どもの姿も 多数がまだ地下房に閉じ込められている恐れ(BBC)
今後シリアが安定するためにはおそらく西側の期待に沿わない政府を容認する必要がある。
トルコが積極的にHTSを主体とする政府に協力するように呼びかけている。しかし地域に影響力を残したいバイデン政権は「アサド政権が倒れたのは西側のの支援のおかげ」としながらもHTSはISとつながりを持っておりそのままではとても認められないという立場。
状況を整理すると次のようになる。
- アメリカはクルドを支援しHTSを主体とする政府はISに協力的なので認めたくない。
- トルコはHTSは認めるがISとクルド人(クルディスタン労働者党(PKK))には否定的。
仮にバイデン政権がそのまま存続していれば地域情勢に複雑で(おそらく良くない)影響を与えただろうが政権を引き継ぐトランプ次期大統領がシリアに興味を失えば複雑さは解消するだろう。
トランプ次期大統領は「中国が助けてくれるかもしれない」などと意味のわからないコメントを残しており今のところ関心はなさそうだ。Xではトランプ派が「陰謀論」を振りかざしシリアからの撤退を呼びかけているとする指摘を見つけた。アサド大統領の人権侵害を度外視し「シリアの脅威などなかった」とする人もいるという。しかし側近がトランプ氏の興味を惹くような耳打ちをすると態度は一変するだろう。特に「シリア情勢に加担することでノーベル平和賞が近づく」など名誉欲を刺激するのがコツのようだ。
仮にトルコが望むような話し合いが始まったとしても別の強権的な(イスラム法による統治を求める)政府ができるかレバノンのように空中分解してしまうかもしれない。レバノンという国は存在し政府もあるが現在は「暫定首相」がかろうじて統治している状態だ。つまり各勢力がバラバラになっておりまとまりがない状態が続いている。
これに加えて各国の首脳たちがシリアに権益の匂いを感じ取ってしまうとシリアは再び混乱することになるのかもしれない。
日本は「とにかく何をしていいかわからない」という状態のようだ。ただこの日和見主義はいつものことなので特にニュースにするまでもないのかもしれない。