連日ABCニュースの内容をお送りしている。聞いた内容を書いているので不正確な点やわかりにくい点もあるが今のアメリカで何が起きているかをリアルタイムで知ることができるという利点もある。
今アメリカでは殺人事件をきっかけに保険会社の敵意が呼び覚まされている。これは安倍総理が暗殺された事件に似ている。旧統一教会の問題が再燃するきっかけとなったが「殺人事件によって世論が変わることはテロを助長しかねない」と抵抗を感じた人もいたのではないかと思う。
しかし、潜在的な問題が呼び起こされ「怒りを持っていた人は私だけではなかった」と感じる人がいるというのも確かなことである。
ABCニュースが事件を伝えたとき「保険会社に対する恨みなのでは」と感じた人も多かったと思う。しかし、さすがに証拠もなしにそのような報道はできない。ところが次の日になって現場に残されていたあるフレーズが複雑な保険制度に対処する方法を書いた本のタイトルに酷似していたことがわかる。「やはりつながりがあったのではないか」と報道されるようになった。なお容疑者は確保されておらず動機は不明なままだ。ABCのニュースはエグゼクティブの中にはSNSのアカウントを消す人も出てきたと伝えている。SNSにはアンチコメントが殺到しているようである。
これについて扱ったまとまった記事がないかと思い検索をしたところUSA TODAYという全国紙の記事を見つけた。
ユナイテッドヘルスケアのブライアン・トンプソンCEOが殺害された。これをきっかけに医療保険に対する軽蔑の声が噴出している。CEOたちはケアを拒否することで大儲けしているのだから殺されても当然だという人がいるのだ。
これまでも治療の拒否や遅れに苛立っている人たちはいたがその怒りを共有する機会はなかった。告発者のウェンデル・ポッター氏はそう述べる。
ではなぜ人々は犯人が捕まっていない事件の動機を憶測するのか。実は薬莢に「否認」「弁護」「証言」ということばが刻まれていた。これが2010年に保険会社を批判する書籍「遅延。否認、弁護:保険会社が保険金を支払わない理由とそれについてあなたができること」のタイトルを想起させるからだ。
オバマ大統領が医療費負担適正化法を思考する前まで医療保険会社は病歴に基づいて保険適用を制限したりキャンセルすることが多かった。また高額な病気にかかった場合、遡って保険プランをキャンセルしたりしてきた。法律の適用により現在こんなことは行われていないはずだが未だに保険会社に対する不満はくすぶったままだ。
実際にユナイテッド・ヘルスケアの急性期後ケアの拒否率は急増しているそうだ。本社前での抗議運動の参加者が7月に逮捕されるという事件も起きている。またAIを使った保険金支払い拒否を行ったのではないかとする裁判も行われている。
ただし投資家たちは保険会社の支払が市場予測を上回ると株を売る傾向にある。保険金を支払うことで懲罰されてしまうということだ。
実際にQuoraでは「アメリカの保険制度は複雑なためこのような事件が起きても仕方がないことだ」とする投稿が寄せられた。しかしその一方で「ユナイテッド・ヘルスケアに関して悪い噂は聞いたことがない」とする人もいる。どうやら「公平な口コミサイト」のようなものはないようで「病気にならないと使える保険なのかはわからない」ようだ。
ただ、裕福な人や良い雇用先に恵まれた保険に入ることができる。だから、恵まれない保険プランに加入している人に対して「騒ぎすぎだ」「そもそも健康に留意していれば保険などに頼る必要はない」としらないうちに自己責任論を振りかざすことがある。「悪い噂を聞いたことがない」という人にUSA TODAYの記事を見せたところ「これがいい方向に進むといいですね」と議論から撤退してしまった。
つまり保険に対してネガティブな経験をした人が社会に対して声を上げようとしても「気のせいだ、自己責任だ」と言われてしまうと言うことが起きるのだ。だから殺人事件をきっかけに潜在的にくすぶっていた不満が一気に噴出するということがあっても何ら不思議ではない。
恵まれた人たちが恵まれない人たちに対して「自己責任だ」「気の持ちようだ」と批判するという状況は実はずっと前から続いている。特にバイデン政権の初期にはトランプ支持者を批判するフレーズとしてよく使われていた。報道ではなく人々のナマの声を聞くと蔑視感情が高まり爆発した結果生まれたのがトランプ政権だという実感がある。表立って異議申し立てができないから「強い人」の到来に期待を寄せてしまうのだろう。
本来ならばトランプ政権がこうした問題を整理し保険制度を正常化すべきなのだろうがそれは望むべくもない。そもそも共和党は貧しい人たちの保険制度には懐疑的でオバマケアを潰そうとして最高裁判所に差し止めを食らっている。トランプ氏は法人と富裕層の味方なのでおそらく「金儲けの自由」を優先するだろう。現在のトランプ・トレードはそれを期待している。だからアメリカの株価は上がり続けている。
さらに公衆衛生の責任者となるロバート・ケネディ・ジュニア氏が陰謀論を振りかざし非科学的な民間療法(効果は怪しいがカネもかからない)を推奨しかねないという恐れもあるだろう。つまり「病気になるのは気の持ちようである、甘えるな」などと言いかねないのだ。